クロス・クルセイド
「今日やっと到着した。早々悪いんだが、敵が攻めてくる」
新しく仲間に加わったユーノの紹介もそこそこに、ソウマが話し始める。
「なんだ、帰ってきて早々。そんなに重要な話しか?」
ビスタがいらだたしそうに声を荒げる。
「短刀直入に言おう。『クロス・クルセイド』の一団がこの街に攻めてきてる」
「なっ!?」
一同に驚愕を顕わにする。
「今までは小競り合い出しか戦ったことは無かったが、その小競り合いで、俺たちなら壊滅させることができると思われてたんだろう」
人間だけで構成され、人間だけの国家を打ち立てようとする『クロス・クルセイド』は統率力に優れてはいるが、決定力に欠けている。
魔物だけで構成され、魔物による支配を目指している『トール・ド・ルート』は、攻撃力には優れているものの、集団戦闘に向いていない。
聖エルモワールの様に、人魔共存を提唱する『メリクリウス』は、攻防共に優れているが、いかんせん数がすくない。
この三つの勢力は今まで拮抗していた。
しかし、先日のミハエルの『メリクリウス』に対する大規模な戦闘行為が状況を変えた。
『メリクリウス』には、『王政グランベルト』と、『クロス・クルセイド』の二つの勢力を相手に戦う力はない。
そう『クロス・クルセイド』は判断したのだ。
「その数は5万。ここから南西の『クロス・クルセイド』本拠地ラマダの街から、進行してきている。」
ソウマは、まだ未完成な地図を広げる。
詳細な地図は、すべてミハエルに取り上げられていた。ツクヨミの街より西は、ソウマがぶらり旅をして、手に入れることが出来たが、それより東はだいたいの地理しか把握出来ていない。
しかし、『クロス・クルセイド』の本拠地は、細かい小競り合いの中で把握していた。
「大して、こちらの戦力は5000にも満たない。が、ヤマト平原で何とか食い止めたい」
そのためにはやはり。
「俺とエグゼ、ビスタの三強が最前線で戦うのが一番だろう」
たたらはすでに武具を作るため、鍛冶場に入っている。戦力としては数えないで、それ以降の戦のためにも装備を整える方に専念してもらいたかった。
「物量で負けてる以上、我ら三人が一騎当千の働きをするしか無かろう」
相手は統率の取れた部隊である。様々な作戦を立て、油断無くこちらを駆逐してくるだろう。
「今日、午後にでも、練兵場に全員を集めてくれ。戦場に立つものと、この街の防衛をするものと、その場でそれぞれに分担させる!」
「あ、あの、私は!?」
アーニャが声をあげる。
「今回は、単純な戦闘だ。アーニャの出番は無いだろう」
が、一応戦場の最後方で待機をしてもらう。もし、『クロス・クルセイド』が見たことも無い兵器を持っていたら、そのときは『物事の本質を写す瞳』が役に立つだろう。
そして、練兵場に『メリクリウス』のメンバーが集められた。
その数4800余り。
しかし、この街の防衛や、物資補給や、斥候のことを考えると、前線で戦えるのは4000ほどと考えていいだろう。
「作戦は今話した通りだ!特に気をつけて欲しいのは、第3、第4勢力の存在だ!」
この混乱に乗じて、ミハエルの造魔や、『トール・ド・ルート』が参戦してくるとも限らない。
「そのため、斥候に多めに人材を集めている。そのため、前線に出るものの数が減っている。が」
ソウマは右腕を掲げる。
「このソウマ・ブラッドレイの名にかけて、必ず我らに勝利をもたらそう!」
『クロス・クルセイド』の進撃。
その数1万。
その報告に、兵士全員に不安の色が浮かんでいた。しかし、ソウマの一言により、確信に変わる。我々は、必ず勝てるのだ、と!
「死んでも勝て、などと楽なことは言わない!どんなに傷つこうとも、生き延びろ! そして共に新しい明日を共に迎えるんだ!」
わぁ、と歓声に包まれる。
「こういうところは、私には真似できんな」
とビスタがつぶやいた。
ソウマはまだエグゼのことを話さないでいた。
この戦いで鮮烈なデビューを飾らせ、その実力を示してからみんなに新しい旗印として紹介するのだろう。
旧国最強と謳われた魔法騎士として。反乱にこれほど適した人材はいない。
他の大陸から来たソウマより、それはふさわしかった。
先頭にわずか三人。その遥か後方に4000人の兵。
「いいか、俺たちの最優先事項は敵の遠距離攻撃の手段の無力化だ」
『クロス・クルセイド』は魔水晶という、それ自体が魔力を有する水晶をもっている。その鉱山の麓に本拠地を構えている。
肉体的に貧弱な人間の集団でありながら、『クロス・クルセイド』が、魔物や低位の造魔に対抗できるのは、この魔水晶のおかげに他ならなかった。
魔法の様に、魔法力を打ち出して攻撃することもでき、武器防具にすれば、身体能力も強化出来る。
「その後は、四天王と戦う」
『クロス・クルセイド』の四天王。
『剣神・ダムド』
『武神・タイガ』
『神槍・カムイ』
『魔砲・ライデ』
「まずは遠距離の要である、『魔砲・ライデ』を無力化する。これは俺に任せてくれ。そのあと、他の四天王の元に行こう」
「私はぜひ『神槍・カムイ』とやり合ってみたいものだ」
「なら、僕は『剣神・ダムド』かな。同じ剣士として、より多くを学べそうだ」
「じゃあ、俺が『魔砲・ライデ』と『武神・タイガ』だな」
エグゼもすでに、『日の大精霊・サニー』と魂の融合を果たしている。
(エグゼ、余り頻繁に融合すると……)
(わかってるけど、仕方ないんだよ。僕がもっと、精霊の力無しでも強くなるまでは)
大精霊ほど上位の精霊との魂による結合。魂の存在力の上では、人間の魂よりも精霊の魂の方が力が上である。
もし頻繁かつ、長いこと融合しているとエグゼの魂が磨耗し、精霊の魂に取り込まれてしまう。
そうなった時、エグゼはどうなるか。それは誰にもわからなかった。
やがて、敵影が視認できるまでになっていた。
「我らは『クロス・クルセイド』の戦士である! 戦う前に一つ提案をする! 其の方とこちらでは戦力に差がありすぎる! 今投降すれば、人間だけは命の保障をしてやろう!」
その言葉に、エグゼ、ソウマ、ビスタがそれぞれ怒りの表情を浮かべる。
「ふざけるな!上から物を言いやがって!人間だろうが魔物だろうが、同じ命だ! なぜそこまで排斥する!?」
「ミハエルの謀反を見ただろう!? 主力はみな魔物だった!ならば新国に魔物がいれば、また同じ結果になるのは明白だ!」
どうやら『クロス・クルセイド』は造魔の存在を知らないらしい。
「ふざけるな……! 僕の部下には、魔物も多くいた! しかし、みんな国を護るために必死で戦ったぞ! そんな彼らの志まで否定するのか!?」
エグゼが叫ぶ。共に戦場を駆け、厳しい訓練にも絶え、食事を取り、酒を酌み交わした。
そんなかけがえの無い仲間を愚弄されて冷静でいられるほど、エグゼも穏やかではない。
「しかし魔物がいなければこんな事態にはならなかったのだ!」
「この話しは、どこまで行っても平行線だ。こんな場所で話し合ったところで、結論など出まい」
ビスタの言うことももっともだった。
「こちらに投降の意志はない! そちらが魔物を滅ぼすというのなら、こちらは徹底抗戦する!」
しばしの沈黙。
「交渉は決裂の様だな。仕方が無い。我ら『クロス・クルセイド』!いざ尋常に、勝負!」
遥か後方から弓が五月雨の様に降り注ぐ。
「ソウマ、任せた!」
「おうよ!『深淵流・鶴翼双爪』!」
大地より気を集め。全身のばねを使い、両手から繰り出される衝撃波の渦。
風を裂き、大地をえぐり、飛び来る弓矢を根こそぎはじき返す。
その隙を逃すエグゼとビスタでは無い。
一気呵成に敵集団に飛び込むと、剣士や武道家を無視して、弓兵に襲いかかる。
もちろん敵もただやられているわけではない。弓兵の第2射、第3射が降り注ぐ。
敵集団に飛び込んだエグゼとビスタは、もちろん安全だが、後方の『メリクリウス』本隊はそうではない。
しかし、そこはソウマがカバーする。またも類まれなる戦闘術で、振り注ぐ矢を無力化する。
そして、エグゼたちが、次々と弓兵を無力化していく。
時には剣士を、時には盾持ちの重戦士を。
二人の動きに、迷いは一切無い。
猪突猛進ながら長柄のハルバートを軽々と操り敵を寄せ付けず、巧みな体捌きで敵を翻弄している。その動きは、試練の間でユニコーンが見せていたものだ。
ビスタは、同じ神馬属から見取り稽古でその技を体得して見せたのだ。
方やエグゼも負けてはいない。
予知にも似た先読みに、思考加速。間延した世界の中で動くエグゼにとっては、前後左右の攻撃など、あくびが出る程スローモーな物だった。
「ぐ、強い!ならば!」
『魔砲・ライデ』が動く。魔水晶から魔力を吸い上げ、巨大な魔砲力の塊が、『メリクリウス』本陣へ向かい放たれる。
地形すら変える程の威力を込めた、まさに必殺の一撃である。
「はっ!なめんなよ!」
ソウマは無謀にも、その絶望なまでの魔法力の塊に立ち向かっていく。




