戦乱の予感
〜幕間〜
ミハエルは、造魔が持ち帰った白銀の鎧。
そこに残る残留思念。この鎧には特別な力があった。
この鎧には魂がある。その魂とは。
「ふふふ。素晴らしい! やっと見つけましたよ。これがあれば私の『神魔』はより完璧になるでしょう!」
造魔よりも強い『神魔』。
造魔は無より作られ、魂を持たずただの操り人形に過ぎない。
しかし『神魔』は違う。
特に強力な造魔と、特に魔法力の強い『女』との禁忌の交わりの末に生まれてきた邪法の命。
そしてミハエルの命に忠実なる配下。
その強さは負けはしたが、証明された。
初期型で、もっとも弱いヴィヴィアンが、それなりに戦えたのだ。
今いる『神魔』なら。
さらにこの鎧があれば!
「ははははははっ!次で王手です、エグゼ君、ソウマ君!」
「確かこの鎧の持ち主はエルフでしたね。」
ならば、ちょうどいいのは。
ミハエルは考える。
デビューは鮮烈のほうが良いだろう。
〜合流、別れ。そして不幸な知らせ〜
結局。ツクヨミと契約できないままに街まで戻って来たエグゼ一行は、メリクリウス本部で車座になっていた。
「というわけで、ツクヨミと契約することはできなかったよ」
残念そうにエグゼが語る。
「たしかに、大精霊と契約していない貴様など、者の数ではないからな」
魚でもないのに雑魚だ。だなど、よく訳のわからないことを言っている。
「でも、どうしよう? 他の精霊と先に契約するしかないかな?」
今すぐに、エグゼの剣技が劇的に向上するわけも無く、ツクヨミと契約することは出来そうにない。
「ツクヨミ自体が剣の達人だからね」
『月の大精霊・ツクヨミ』
その力は、月の魔力を用いた回復。さらには月の剣技を召喚者に授けることである。
「だからこそ、僕自身が強くなくても、大精霊と契約してるだけで破格の強さが手に入れられてたんだ」
しかし、その剣技も召喚している時のみである。
ただ思考能力が早く、身体能力が優れていても、技を用いなければ、たいした脅威ではない。
隙が多く、大降りで雑である。
ゆえに技、というのは戦いの中で大きなアドバンテージとなる。
「せめて、僕に母さんの半分くらいの強さがあったらなぁ」
アーニャは思う。
エグゼの母とは。あの森で夢に見た。
「エルフの女の人?」
エグゼを拾い、その為にエルフの集落を追われエグゼを育てあげたエルフ。
「エグゼのお母さんは強かったの?」
なんとなく興味があって聞いてみた。
「あぁ。母さんはエルフなのに剣が得意で、昔は『剣聖』なんて呼ばれてたみたいだよ」
この世界でもっとも剣技に優れた最強と名高い伝説の存在。
そして、その歴史ある剣聖の中でも最強、謳われるエルフ。
「ま、まさか、『剣聖・ルーシア』様かっ!?」
と、ビスタが身を乗り出してエグゼにたずねる。
「そ、そうだよ。ルーシア。それが、僕を育ててくれた人の名前だ」
夢見る乙女のように潤んだ瞳で、両手を組み天を仰ぐビスタ。
「『万魔の太刀』を使いこなす、伝説の御仁! まさか行方不明になったあの方の消息をこんなところで知ることになろうとは!」
「私、初めて知ったけど、エグゼのお母さん、すごい人だったんだ?」
「この大陸では。一番の剣士だったみたいだよ」
苦笑しながら答えるエグゼ。その瞳には、寂しげな色が浮かんでいた。
「あ、あのお方は今どうしておられるのだ!?も、ももも、もし良かったら、サインとかっ!」
「死んだんだ」
「え?」
至極あっさりした答え。
時が止まる。
「し、死んだ?あの御仁が?」
ビスタは信じられないといった面持ちだ。
エルフとしてはまだ年若かったルーシア。寿命を迎えるのはまだ早いはず。
「ならば、殺された……?」
しかし、『剣聖』を殺せる者など、いるのだろうか。
「多勢に無勢。幼かった僕を庇いながらの戦いはさすがに無理だったんだ」
しばらく、辺りはしん、と静まり返った。沈黙が痛い。
「僕が」
とエグゼがつぶやく。「僕がもっと強ければよかったんだ」
胸を締め付けるような独白。
だからこそ、大精霊と契約し、比類なき力を身に付けたのに。
「ぼくは2回とも護れなかったんだ」
2回とはいつといつなのか。
言うまでもない。
母を護れなかった。
国王を、姫を、仲間を、国を、護れなかった。
「だから、僕は」
すっと、音も無くビスタが立ち上がる。
「来い、エグゼ」
武器を取り、練兵場へと歩いていく。
それだけで、ビスタがなにを言いたいのかを、理解する。
「ありがとう、ビスタ」
お礼をいいながら、エグゼも後に続く。
ポツンと一人、アーニャが取り残された。
練兵場では毎日遅くまで、剣戟音が響き渡っている。
ビスタとエグゼ。
あれから毎日、二人は特訓を繰り返していた。
一日も早く強くなるため。
一日も早くこの国を救うため。
「どうした、わきが甘いぞ!」
ビスタのハルバートが、エグゼの脇を突きあげる。
「長物相手にその程度の踏み込みで懐に入れるとおもうな!」
巧みな体捌きと、武器の扱い方。
エグゼはいまだにビスタ触れることすらできない。
そんな二人を眺めつつ、アーニャは人知れずため息をつく。
こんなときはいつもそうだ。
戦闘ではなんの役にも立たない。
『物事の本質を見極める』魔眼。
それを持っているだけで、メリクリウスのNO.2という位置にいるが、何の役にも立っていない。
もしかしたら『黒のカーテン』の本質を見破れるかも知れない、というだけの立ち位置だ。
それだって確実ではない。
いま、アーニャは確かに力が欲しいと思った。
「お、やってるな!」
と、一人落ち込むアーニャのもとに、ある一団が集まってきた。
ソウマ、たたら、ティアラ、ユーノのパーティだ。
「ソウマ、いつ着いたの!?」
「たった今さ。お前さんたちは『月の大精霊』と契約に行ったんじゃなかったのか?」
「それが……」
アーニャは大精霊との契約の一部始終を語った。
「なるほどな。それであの大特訓か」
練兵場を見やる。
「役には立つと思うが『月の大精霊』と契約できるようになるのはいつになることやら」
確かに上達はしている。
しかし、上位の魔物すら倒せるか危うい。
「おおい! 急ぎの話しがある! ちょっといいか?」
ソウマは練兵場にいる二人を呼び寄せた。
「なにかあったの?」
アーニャが沈痛な面持ちでソウマにことの仔細を尋ねる。
「道中耳にしたんだが、『クロス・クルセイド』がせめて来るらしい」
それは、大きな戦乱意味していた。




