契約不可。
うまい事気配を消していたこの部屋の主。
しかし、潜んでいるのを暴かれた以上、隠れているメリットは無い。
姿を現したのは、聖獣ユニコーン。
純白の毛並みに額に映えた雄雄しい一本角。聖獣にふさわしい堂々たる佇まいである。
『この先に用があるものはお前か?』
ユニコーンはビスタに向き直る。
この中で明らかに強いのはメリクリウスNO.3のビスタ。聖獣が勘違いするのも無理はない。
「残念だが、私ではない。そっちの雑魚だ」
といいながら、あごでエグゼを指し示す。
『なんと、この程度の者がわが主に合う資格があるだと?』
さしものユニコーンも驚いたようだ。
「……。一応、宝玉も持ってる」
ふところから、手に入れたアイテムを取り出すと、ユニコーンに見せる。
『ふむ、資格はあるのか……。なれば、力試しだ。いかに貴様が弱くとも、手加減はせぬぞ!』
戦闘態勢に入るユニコーン。
今までと違い、その佇まいには図り知れない戦闘力を感じた。
エグゼも、『日の大精霊・サニー』と魂の融合を果たす。
『なんと! すでに他の大精霊と契約をしていたか! 資格は十分だな。しかし、一応試させてもらおう!』
直線的に突っ込んでくる、ユニコーン。
そのスピードは洞窟内にいた魔物の比ではない。
しかし、攻撃が単調すぎる。エグゼは横にかわして、ユニコーンの直線上から退けばいい。
そして、無防備になったユニコーンの横っ腹に攻撃を叩き込むだけだ。
「!?」
しかし、直感的にエグゼは真後ろに飛びのく。
ユニコーンはどういうわけか、先程エグゼが飛び退こうとした先にいたのだ。
『今のがよけられるとは。しかし、まだ行くぞ!』
一手、二手。そこから何度シミュレートしても、ユニコーンはエグゼの逃げる先へと立ち現れる。
『どうした?逃げてばかりでは勝てないぞ?』
エグゼを翻弄するように、逃げ場を奪うユニコーン。
エグゼは後退を繰り返しながら、思案する。
そして、出た答えはさして難しいものでは無かった。
「なるほどね」
うなずくと、エグゼが今度は打って出る。
振るわれた『大いなる精霊王の剣』が、ユニコーンの角とぶつかり合う。
『ほう、我の角と凌ぎを削り、折れぬとはたいした名剣だ』
楽しそうにユニコーンがつぶやく。
今までは後退しかしてなかったエグゼが一転、攻勢に出る。
そしてその凄まじさは、筆舌に尽くしがたいものだった。
壁際で二人の戦いを見ていたビスタは驚愕する。
(まさかここまでとは)
ユニコーンは消して弱くない。魔法が使えない以上、その戦力は半減しているが、身のこなしやスピードは、人間の反射神経を軽く凌駕している。
そして、こうして離れているからこそ、ユニコーンの魔法の如き体捌きを知ることが出来た。
あれなら、対峙している者には消えたように見えるだろう。
気配の察知が出来ない者に勝てる相手ではない。
一撃目が、四足であり安定感のあるユニコーンの体勢を揺るがし、二撃目がその強靭な身体を吹き飛ばす。
そして三撃目が、ユニコーンののど元へ突きつけられる。
『見事』
そう言ったユニコーンの身体から、闘気が消えた。
『我の手を読んだようだな』
思考力の向上。『日の大精霊・サニー』の力の一つである。
思考力の増加による、体感速度の低下。間延びしたかのようにも思える時間感覚の中で、相手の動きを読み、最良の一手を行う。
しかし、それがどうして初期は外れたのか。
むずかしいことではなかった。
「最初の突進はただ、スピードを落としていただけなんだね」
そして、一瞬のうちの急加速。
最初の突進スピードがユニコーンの限界スピードだと思わせ、そこから一瞬にしてさらに加速し、敵の背後か側面に回り込む。
ただそれだけ。
自分が一直線にしか動けないと思わせるのも罠の一つだ。
四足獣は左右、転回の移動が苦手だと思われているが、こと上級の魔物にとってはそうではない。
その戦い方は、ビスタにもおおきな示唆となった。
『約束どおり、我が主に合うがいい』
ユニコーンが立ち上がり、一つ嘶くと 地面から、台座が競りあがってくる。
「ここに宝玉をはめ込めばいいんだね」
玉座に宝玉をはめると、上へと続く階段が現れる。
『ここから先は、この者。エグゼしか通れぬ。他の者はここで待つが良い』
そういうと、ユニコーンは姿を消す。
「じぁあ、いって来るよ」
「あぁ。ここは任せろ。」
大精霊との融合を解除したエグゼは、何事も無かったかのように、階上へと消えていった。
階段を上がり、湖上の神殿へと入る。
丁寧に作り上げられた、神代の建物は何千年経っても朽ちることが無い。
それどころか、年代を重ねる毎に深みを増していく。
それは美術に興味が無い者の心すらも虜にする魔力を秘めていた。
「久しぶりだね、ここも」
数年前。初めてツクヨミと契約を交わした時を思い出す。
その時は強大な魔法力があったため、迷宮も使わず街から一気に湖上のこの神殿へと侵入してしまったものだが。
その時はツクヨミにあきれられたものだ。
せっかく用意したクエストも全てすっ飛ばされていきなりクライマックスにきてしまったのだ。
その過程で苦悩する冒険者たちを見るのが楽しみだったのに、と怒られたものだ。
神殿の上の上。最上階にたどり着くと、そこには、麗美な祭壇があった。
その真ん中では、一人の少女が目を閉じ、祈りをささげている。
何のための祈りか。
「久しぶり」
今までとさして変わらない。いや、心持ちうれしそうな口調でエグゼは語りかける。
旧知の仲だ。気取る必要も無い。
「今回は、きちんとした手順ですのね」
丁寧な口調はしかし、皮肉が込められていた。
「来るとはおもっていたわ。久しいわね、エグゼ、サニー」
この聖域なら、サニーも姿を表すことが出来る。
「おひさしぶり~、ツクヨミちゃん」
間伸びた声のサニーに、張り詰めた空気がほぐされるのを感じた。
「……。とはいえ、『日の大精霊』の力を使うのは、ルール違反だわ」
せっかく合えた三人。喜びの再会もひとしおだが、それだけで済ますわけにも行かない。
「前回契約したときは、断りようが無いほどの魔法力をもっていたから契約したけど、今回はそうは行かないわ。」
エグゼを睨み「あなた自身の強さじゃない」
といった。
「でもぉ、ツクヨミちゃん」
言葉を紡ごうとしたサニーを、ツクヨミがさえぎる。
「確かに、大精霊と融合を果たせるは、エグゼの力の一つかも知れない。でも、今回の戦いはそんなに楽なものなの?」
厳しい口調のまま、ツクヨミは話し続ける。
「エグゼ。貴方自体が強くなくてどうするの? もし万が一ミハエルとやら私たち精霊を無力化する手立てを持っていたら、貴方になにが出来るの?」
前回、大精霊と契約をした時は、時勢は平和だった。
たまに起こるクーデターや、魔物の大量増殖くらいしか、騎士団の仕事は無かった。
しかし、今は戦争の只中である。敵の戦力も底知れない。
そんな中でもし、戦う力を奪われたなら。
前回エグゼがミハエルに敗れた原因はまさにそれである。
『黒いカーテン』に魔法力を封じられ、大精霊を召喚出来なくなったエグゼは、いとも簡単に造魔の前に敗れたのだ。
大精霊の力に甘えて、己を鍛えていなかったのだ。
「エグゼ。今のままでは、貴方と契約することは出来ないわ」
ツクヨミはそういうと、もう話すことはない、とでも言うようにお祈りへと戻る。
これ以上、エグゼにはどうすることも出来なかった。




