祝詞
「炎のように燃え盛る、熱き恋。それが人を傷つける。しかし消えない悲しき炎。ついには森をも焼け尽くす。
一人たたずむ少年は、己が罪を嘆く。
恋した女性はすでに死に、物言わぬ死体と成り果てた。
彼は口付けこう誓う。
我たとえ死の淵を歩むとも心は共に常あらんことを」
誰もが聞き入っていた。
あの凶暴なはずのマウンテンスライムですら、動きを止めている。
そして、ユーノが手をかざすと、すう、と杖だその手に握られた。
誰もが動けない。
それは言葉を使った、シンボルマジックであろうか。
皆、成り行きを見守るしかなかった。
「遥か年月常永遠に愛の御胸を学びたり願わくは、我死の淵を共に歩まん」
とたん、光が溢れる。
ユーノはなぜその呪文を知っていたのか。
光が収まり、みんなが目を開けると。
そこには、杖を手にしたユーノがいた。
そして、ユーノが杖を掲げると散り散りに逃げようとしていた、村人たちがスライムの姿から人間に戻っていた。
「これは……」
村人たちも、驚きの声を上げる。
「ユーノ。見てしまったんだね」
村人たちもの中でも、一際年老いた、古老が歩みよってくる。
「ならば、自身の身体がどうなったるかも、わかるね」
ユーノは少し寂しそうに。
「はい」
と頷いた。
頷いた瞬間、どろりと頭から溶けていき地面の上で不定形に動く生物。
すなわち、スライムになってしまったのだ。
「これはどういうことです!?」
目の前で起こったことが理解できずに、ソウマは声を上げる。
「それは、屋内でゆっくり話しましょう…」
ソウマたちは、古老に促され家の中へと入っていく。
ユーノだった、スライムをつれて。
「何から話せば良いやら……」
椅子に深く腰かけ、お茶を一口。
この家は、文字を書けるスライムのいた家だ。
どうやら、あのスライムはこの古老だったようだ。
「まずは御礼を。本当にありがとうございました。あなた様方がいなければ、この村はもうなくなっていたでしょう」
村人たちも、ただのスライムとしてゴブリンたちに駆逐されていたことだろう。
「そんなことはいい! ユーノはどうして、あんな姿にっ!?」
バン、と机を叩き、せまるたたら。
「ユーノは守り人だったのです。あの杖を封印した方たちが派遣した」
守り人。
それは杖を守るのだろうか。
それとも、杖が暴走した時に村人たちを守る者であろうか。
おそらくは。
「両方か」
面白くなさそうに片目を開けたソウマがつぶやく。
「はい。有事の際には、杖の呪いを一気に解き放つ言葉を唱え、一身にその呪いを被る。それが守り人です」
それを聞いたたたらがさらに激昂する。
「ふざけるな! それではただの生贄ではないか!」
古老の胸ぐらをつかまんばかりの勢いだ。
「真に強きお方よ。貴方達はそれでも村を救えましょう。しかし、弱き我等には、この方法しか村を守るすべがなかったのでございます」
封印を施して、呪いが自然に消えなくなるまで待つ。
有事の際には守り人が杖の呪いを一身に被る。
この村では、そう決まっていたことらしい。
ぐにゃり、とスライムが歪んだかと思うと、人の形を取る。
「ソウマお兄ちゃん、たたらお姉ちゃん、ティアラちゃん、ありがとう。でも、私は大丈夫だよ!」
それは紛れもないユーノであった。
「お前、喋れるのか?」
ソウマが驚く。
ほかの村人は喋れなかったと言うのに。
「うん、それが私に与えられえた役目だしね」
彼女は驚く程にスライムの身体に馴染んで見せた。
それは素養か。まさしくその様に生まれてきたのだろう。
「それでは余りにも不憫すぎる! この娘の生はそんなもののために有ったのか!?」
たたらは叫ぶ。その理不尽を。
普通に育ち、恋をして悩み、愛を知り子を成し、家族に囲まれながら余生を過ごす。
そんな当たり前な幸せすら手にできないではないか。
「たたら、もうよせ」
ソウマが止める。
「しかし……っ!」
たたらだって理解しているのだ。
この子はそのために生まれてきたのだから
むしろ、その任を全うしたした事こそが誉れなのだ。
「ありがとう、たたらお姉ちゃん。私の代わりに怒ってくれて」
また、たたらの言うことも真実であった
どちらが間違ってるわけでもない。
ただ、起こってしまったものならば、そうなってしまったことが失敗だったとならないように最善を尽くさなければならない。
「そこで、私考えたんだけど」
と、ユーノが希望を口にする。
その身が魔物になるまでこの村に尽くしたのだ。その願いが通らない道理はないだろう。
「私、ソウマお兄ちゃんたちと一緒に行きたい!」
自身が人間だったからこそ。自身が魔物になったからこそ。
人間とモンスターが一緒に暮らせる国を作りたいのだと。
それがユーノの願いだった。
「この村には戻ってこれなくなるかも知れないぞ?」
ソウマの厳しくもやさしい瞳が、ユーノの瞳を捕らえる。
しかし、それに戸惑うことなく、ユーノはしっかりとソウマを見てうなずいた。
「うん! 今度、この村に帰ってくるのはこの国が平和になった時っ!」
固い。揺ぎ無い確かな決意。
「なら、ユーノは今日から『メリクリウス』の一員だ!」
ソウマが手を差し出す。
「ありがとう、ソウマおにいちゃん!」
しっかりとソウマの手を握り返す。
たまたま通りがかった村で、ソウマたちは新たな仲魔を手に入れたのだった。




