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人外娘さんと真面目にファンタジーしちゃう本  作者: 葛葉龍玄
剣聖の魂

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52/60

脅威のスライム

 ソウマは狭い洞窟の中を慎重に歩いていく。

 もしかしたらその角に、敵が潜んでいるかも知れないのだ。

 とはいえ、気配の察知できるソウマには、まだ近くに敵がいないことはわかっていたのだが。

 しかし、と思う。

(なんだ、この心が安らぐ様な、禍々しいような。相反する気が満ちている)

 まるで誰かを護ろうとするかのような自愛に満ちた心。

 まるで誰かを呪い殺さんとするかのような復讐の心。

 その二つが入り混じっている。

 洞窟はそう複雑なつくりではない。

 ほぼ一本道で、ゆっくりと下っている。

(この先には……)

 そこは、誰かの住居。だったのだろう。

 見たことも無いような機材や、植物、本が所狭しと並んでいる。

 そして思い当たる。

 ここは魔女の住処だったのでは無いだろうか、と。

 ここで様々な魔術や錬金術を使い、魔女は村人を助ける準備をしていたのだ。

 魔女はそれほどまでに、この土地を、人々を愛していたのだ。

 だが、裏切られた。

 それは紛れもない事実で。

 だからこそ、呪いも強く残っているのだろう。

 相反する二つの気の正体がわかった気がしてしまった。

 真に理解することができなくとも、その一端は知ってしまった。

 じゃり。

 土をふむ音。

 ソウマは少し前から気付いていたが、あえて気付かぬ振りをしていた。

 どうせかち合うんだ。ならば、広い所の方が戦いやすい。

 そして、ソウマが気付いていないと思った馬鹿な魔物は、ソウマに襲いかかかる。

 その数わずか3。

 一人が飛び掛ると同時に残り二人が矢を射かける。

 悪く無い戦術だ。だが。

 

 相手が悪い。

 

 一瞬して移動したソウマは、いつの間にか弓手の後ろに回ったいた。

 縮地とはよく言ったものだ。移動と言うよりは、魔法に近い。

 魔物はゴブリン。さして強くも無い魔物だ。

 弓手は苦しむ間もなく絶命したことだろう。 

 そして、殴りかかったゴブリンは思い知る。

 決して勝てない相手がいるのだと。

 そして、それを理解したときには、すでにこの世のものではなくなっていた。

 しかし。ゴブリンは群れで行動するもの。 

 たった三匹がこの洞窟を占領して、あまつさえ呪いの杖を操り村人をスライムに変えたとも思えない。

 先にいるか、他に抜け道があり、見逃したか。

 どちらにせよ、上位種がいることは明確であり、その上位種とは造魔に他ならないだろう。

 ゴブリンだけとも限らない。 

 とにかく。

 ソウマは、この部屋の探索を終え、特に情報が無いことを確認すると洞窟のさらに先へと進んでいく。

 そして、次の間。

 入った瞬間理解した。

 ここが呪いの充填場なのだと。

 村人をスライムに変えた呪いの杖は、呪いの力を使えば、補填はできない。

 なぜなら、呪いをかけた魔女はすでに死んでいるのだ。

 呪いは減る一方だ。しかし、ここなら。

 これだけ負の念が集まった場所なら、杖の呪いを再び蓄えることができるだろう。

 それほどまでに、この部屋には魔女の無念が染み付いていた。

 もしくは、ここで処刑されたのか……。

 ソウマは心の中で静かにお祈りをすると、さらに奥を目指した。




 たたらは攻めあぐねていた。

 護ると倒すを両立するのが、こうも難しいとは。

 ゴブリンも、相手が強いと知るや、闇雲に攻めてこず、ヒット&アウェイを繰り返している。

 なにか、決定打はないか。

 そう思案していた、その時!

「でぇい!めんどくさい!」

 洞窟の入り口から上空、崖を突き破って誰かが舞い降りてくる。

 誰か、とはもちろんソウマ以外に居ないのだが。

 洞窟内でもなんとなく地理と方向を把握していたソウマは洞窟の壁を蹴破って、町へと強引に帰還したのだ。

「バカな!?」

「わぁっ!」

「ぐぎゃ!?」

 驚嘆と感嘆。

 様々な声が上がる中、ソウマは着地した勢いそのままにウィッチゴブリンに飛びかかる。

 突然の襲撃に慌てたウィッチゴブリンは、呪文が終わらないうちに、呪いの杖の呪力を解放させる。

 と、同時にウィッチゴブリンは絶命した。ソウマがその首を蹴り落としたのだ。

 術者は死んだ。

 しかし。

 呪いは終わらなかった。

 杖が落ちた瞬間に、宝玉は粉々になった。

 瞬間。

 ーー呪いが弾けた。

 まずは近くにいたゴブリンが餌食となった。

 どろり、と頭から溶けていく。

 ソウマは無事だ。

 やはり相手があまりにも強すぎると、呪いも効かないらしい。

 しかし、岩が、木が、地面が、次々と溶けて混じり合う。

 それに慌てたゴブリンたちは逃げようとしたが、すぐに捕まる。

 そして、同化する。

 捕まえる。同化する。

 さらに、でかくなる。

 杖を中心に、どんどんとでかくなっていくそれは、見る間に山よりも大きくなった。

 マウンテンスライム。

 とでも呼べばいいのか。

 あまりにも巨大なそれは、巨大に似合わぬ素早さで、触手のように体を伸ばし、ソウマたちを襲う。

「ちょっと、どうすんのよアレっ!?」

 たたらが叫ぶ。

「倒すしかないだろっ!」

 スライムの中央には、核が見えている。

 おそらくそれを壊せば倒せるはずだ。

「『深淵流・風鎌拳』!」

 ソウマが体得した、強力な格闘技、『深淵流』

 その中でも基本だが、だからこそ汎用性が高い技である。

 腕の振りで真空波を生み出し、対象物を切り倒す。

 しかし、目に見えぬ真空の刃は、粘液に阻まれ核まで届くことはない。

「ちっ!手加減しすぎたか!」

 スライムは対象物を溶かす。

 切り裂かれたスライムのカケラが、町を破壊してしまうこともありえるのだ。

 ならば。

 すべて散りとなればいい!

「たたらは町の人たちと、ユーノを頼む!」

 その間にも、溶解性をもった触手がソウマにせまってくる。

 その触手を紙一重で躱したか。

 が。かすかに触れた服の一部が溶けてしまった。

 どうやら、触れたものを溶かす液体でできているみたいだ。

 うけ流そうと添えた手も熱く熱を持っている。

 その時、マウンテンスライムが不意に喋った。

『どうも、みなさん。お久しぶりですね。私のこと覚えておいでですか?』

マウンテンスライムの一部が、人間の顔を型どる。

「貴様は……!」

 忘られよう筈もない。

 バーコードにハゲ散らかった頭、脂ぎった肌に、醜い目鼻立ち。

「ミハエル!」

『なんか、とても酷い覚えられ方をしているような気がしますが……。

 まぁいいでしょう。どうですか? 禍つ杖の威力は? 素晴らしいでしょう?』

「封印を解いたのは貴様か、ミハエル!」

『その通りですよ。そこのバカな魔物どもを誑かすなど、簡単なことです。』

 そうなると、ゴブリンたちも被害者か。

 ソウマの胸にさらに熱く火が灯る。

『一つだけ、助言を。もしこの呪いを解除したいなら、この杖を握り、こう唱えなさい。

 遥か年月常永遠とことわに愛の御胸を学びたり願わくは、我死の淵を共に歩まんと』

 それだけ言うと、ミハエルの意思は消え、またマウンテンスライムが動き始めた。

「くそ、俺がたおしてやる!」

「お前は阿保か!!

 杖はすでに核に取り込まれた!もし核ごと破壊するならば、あの杖に残った呪いまであたりに霧散し、さらなる敵を作るだけだ!」

「ならば、どうする!?  他に手はあるのか!?」

 スライムの触手をかわしながら、作戦を練っている。

「やつの言う通りにやってみるしかあるまい」

 たたらがは悔しそうに吐き出す。

「しかし、あのミハエルのことだぞ!必ずなにか罠がある筈だ!」

「わかっている! お前は、エグゼはまだ死すべきではない。メリクリウスに必要な人材だ。

 ティアラは小さすぎて、近寄ったらスライムにされ、吸収されるだろう。

 ならば、私が行くべきなのだ!」

 たたらは、ずいと前へ出る。

「バカな! それこそ無意味だ! たたらがいなくなったら、誰がメリクリウスの武具をつくる!?」

「シスカには腕のいい職人は五万といる。また探せばいい」

 たたらは諦めた様子で、足を踏み出す。

 が、それよりも早くスライムの眼前に立ち塞がるものがいた。

「ユーノ!?」

「なにをしている!!」

 ソウマとたたらも驚いている。

 もう村人たちと一緒に、封印窟まで行っているとおもったのだが。

 なんにせよ……。

「若い男は恋をした」

 ユーノは心安らぐ声で、不思議なメロディーを口ずさみはじめた。

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