追跡
ここに今いるスライムになってしまった元住人たちも、理性をなくし、人を襲うモンスターになってしまう、ということだ。
「先ほどのやつか?」
ソウマ一行が水浴びや、夕飯を食べている時に感じた視線。
その主がこの事件の首謀者だろうか。
「ユーノはなぜ無事だったか、そして、 なぜ俺たちをスライム化しようとしないのか……」
ソウマはたたらに声をかける。
「おそらく、ユーノの居た洞窟。あそこが杖の封印されていた聖なる洞窟だったのだとろう。その中まで、呪いは届かなかった」
とたたらが仮説を立てた。
「あーゆー呪いはね、本来は何発もうてないの!」
ティアラが教えてくれる。
「どこかで補給しないと、呪力はへる一方だよ!」
どこかで呪力を補填してるのか?
「その場所かわからないのに、これ以上話していてもしょうがない。今は杖の処分を考えよう」
呪物は破壊するか、解呪するか、封印して、呪いの力がだいち霧散するまで待つしか、方法はない。
しかし、解呪の場合あまりにも呪いが強すぎると解呪できないこともあるまた、封印も今回のように解かれてしまっては意味がない。
となると、破壊か。
「悪手だな」
ポツリとたたらが呟く
「破壊したら、呪物にたまった呪いが一気に解放される。一番近くにいるものが、その呪いを一身に受ける羽目になる」
どれをとっても、悪手。
「封印して、時間が呪いを浄化してくれるのを待つしかないな」
現時点ではそれが一番だろう。
どちらにせよ。
「まずは敵をみつけないとな!」
ソウマは拳を打ち合わせて言った。
警戒しながらも、一夜が明けた。
たたらは一本しかない足で、ピョコピョコと器用に歩き回り、辺りを警戒している。
妖精のティアラも空を飛べる利点を生かし上空から探ってはいるが 。
「だめだな。完全に警戒されて、気配を絶たれてる。それか、かなり遠くまで逃げたか、だな」
昨夜の敵意はもうない。
しかし、あまり時間をかけすぎると、今度は町の人たちが心まで魔物になってしまう。
「ところで」
と口を開いたのはたたらだった。
「杖が封印された後、 スライムになってしまった町の人たちはどうなったんだ? 人間に戻れたとか、そういう」
救いはないのか、と。
スライム姿の村長曰く。
『封印する前に、まモノとして全員倒された。ツエ、封印するとスライムは人間に戻った』
とのこと。
筆談だが、少し片言になり始めている。
(やばいな)
とソウマは思う。
このままでは、村人が全員魔物化するのも時間の問題だ。
しかし、朗報もあった。
魔物として殺された後でも、杖を封印したら人間に戻ったのだ。
まだ村人が生きている段階で、杖を封印できれば、村人たちも元に戻るはず。
しかし、このままではジリ貧だ。
「俺は辺りを探索してこよう」
と、ソウマは立ち上がった。
昨日の夜、気配があった場所まで行ってみようとおもったのだ。
「私はもう少し、文献を漁ってみるよ」
たたらは、まだ手付かずの本棚へ手を伸ばした。
魔女につながる手がかりがないか、探したいのだという。
「ユーノのことは任せておけ」
たたらはそういうと、本の虫になった。
「オーケー、行って来る」
言葉数は少ないが、それだけで己がやらねばならぬことを意思疎通できている。
信頼の証といっても過言ではない。
ティアラは空から、不審者がこないか見張りをしている。
いたらすぐに知らせてくれることだろう。
頼もしい仲間を置いて、ソウマは一人索敵を開始した。
小高い丘の上。
ここからなら、町も、川も、封印の洞窟も全てが見渡せる。
昨晩、敵であろう人物が立っていた場所。二つの足跡と共に、杖をついたような痕が残っている。
ソウマはそのまま、足跡をつけて行くことにした。
小高い丘から足跡をたどること数分。小さな森の手前で足跡が増えた。
敵が徒党を組んでいる証拠だろう。しかし相手も馬鹿ではない。
森へ続く足跡は幾重にもわかれ行き先を撹乱させる。
この森の中に敵のアジトがあるのは濃厚だった。
「そーま!どったの?」
その時上空から動向を探っていたティアラがソウマの元にやってきた。
こと森に関して妖精族の右に出るものはいない。ソウマは手短に説明する。
「なるほど! この先に敵がいるかもしれないんだね!」
簡単にソウマの言うことを信じてくれる妖精族のティアラ。
そこに頼もしさすら覚える。
「このまま踏み込もうとおもうが、どうだ?」
パーティを組んでいる以上独断では決められないできれば一度もどってたたらとも協議したいところである。
しかし。
しばしの沈黙の後ティアラが言った
「たたらちゃんも、乗り込んで欲しいって! 村は任せろだって! 」
とティアラが言った。
「離れていて、たたらとコミュニケーションが取れるのか?」
ソウマは驚いた様子で言った。
「私の髪の毛を触媒にすれば、念話ができるようになるんだよ!」
妖精族得意のシンボルマジックの一種であろうか魔力を用いずとも使える魔法のことだ。
『黒いカーテン』により魔法が使えなくなったこの大陸での唯一の魔法である。
「それは、俺にも有効か?」
こんな便利なものを見逃す手はない。
「もちろん! 私の髪の毛を、右手の小指に結んで……。できた!
これで私を中継して、3人で会話できるよ!」
「じゃあ、ここでティアラは待機して何かあったら、 俺やたたらに知らせてくれ」
「りょーかい!」
恭しく敬礼をするティアラを中継地点にし、ソウマは元凶を断つべく森へと入っていった。
森の奥深く。
無数の足跡が収束する洞窟があった。
途中足跡がとぎれたり森の外へ誘導しようとしたり、トラップが仕掛けてあったりと相手もなんとか住処を見つけられないように手は打っている。
馬鹿ではないが間抜けだな。
取り敢えず森の一番乗り奥深くを目指すだけでこの洞窟へたどり着いてしまったのだ。
洞窟に見張りはない。
念話でティアラに洞窟があった事をしらせ次いでそのまま洞窟の操作に入る事を伝えた。
中は完全な暗闇である。
いかにソウマの目が優れていようとも、闇を見渡す能力は備わっていない。たとえ目が効かない状態であったとしても、気配を感知できるソウマには奴らがどこにいて何をしようとしているかなど手に取るようにわかるのだ。
戦闘自体もまったく問題はない。
が。
「せっかくの洞窟探検だ。お宝があったら持ち帰ろう!」
という冒険者心もあった。
さすがに洞窟の暗がりでは宝箱も発見できない。
長い言い訳をしながらソウマは松明に火をつけた。
敵はおそらく闇の中でも目が見える種族なのだろう。
ソウマが灯りを灯したということは、相手から発見されやすくなるということでもあった。
「しかも洞窟の中じゃあ、本気出せないからなぁ」
こんな洞窟ソウマなら一撃で崩すことができる。
しかし今回は殲滅戦ではないのだ。
あくまで敵の持っている呪物の奪還が目的だ。となるとやはり潜入するしかではない。
ソウマはゆっくりと、油断なくダンジョンへと入っていった。




