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人外娘さんと真面目にファンタジーしちゃう本  作者: 葛葉龍玄
剣聖の魂

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村長とビスタ

「改めまして。メリクリウスの、ソーマ・ブラッドレイです」

 来たときと同様、言葉と文字で会話を進めていく。

 曰く。

 集落に訪れたグランベルト。

 ミハエルの使者である造魔。

 その目的は、この集落に昔から伝わる、魔力を帯びた杖の存在だった。

 集落にはその杖がどのような力を持っているのか、文献が途絶え伝わってはいなかったが禁忌として触れることはなく、その場所も村長以外に知るものはいなかった。

 そこへ訪れた造魔。

 村長は、村人を守るために杖の場所を教えてしまった。

 そして、それこそがこの集落の現状を招く元凶になるのだが。

 その時は知る由もなく、造魔は禁忌の杖を手に入れてしまったのだ。

 杖の効果は、対象者をレベルの低いモンスターにしてしまう。

『呪い』

 魔法とはまた異なった方法で作られた、外法の杖は、集落の人たちに向けられた。

 そして、ユーノがいたあの洞窟は、過去にその杖の脅威から集落を救った賢者が住んでいたとされる霊域で、悪しき気を持つものを寄せ付けないのだ。

 唯一逃げ延びたユーノだけが無事に洞窟に辿り着き、1人暮らしていたという。

 飢餓と造魔の脅威に怯えながら。

「よく頑張ったな、ユーノ」

 たたらが大切な宝物を優しく愛おしむように、そっとユーノを抱きしめる。

 恐怖、孤独、不安、飢餓、死、怒、哀。

 ありとあらゆる感情の渦巻く中で、この少女は生き抜いていたに違いない。

「たたら」

 ソウマはただ簡潔に一言。

「助けるぞ」

 と言った。もちろんたたらにも異存は微塵もなかった。

「当たり前だ馬鹿者」

「わ、わたしだって!」

 ユーノの頭の上で、ティアラも声を上げる。

 3人のその瞳は、確かな決意に満ちていた。




「まだ着いてないの?」

 名もなき森にて、7大精霊である『月の精霊』と会う宝玉を得たエグゼとアーニャ。

 それから5日経ち、2人はツクヨミの街に到着していた。

 背後に山がそびえ、前面に大きな湖を湛えた美しい街である。

 その名の由来は、天空に輝く月が湖にも映し出され、あたかも荘厳な月が二つあるかのごとく見えることからつけられた という。

 湖に映った月の微妙な揺らぎを読み解き、その年の吉凶を占っているという。

 そしてその湖の真ん中に『精霊の寝所』がある。

 月を司る7大精霊の1柱が、この地に眠っているのだ。

「は、はい。すでに本隊と合流していても、 おかしくはないのですが…」

 ソウマ、たたら、ティアラの3人は一度メリクリウスの本隊と合流。

 ソウマとティアラはこのツクヨミの街に。たたらはメリクリウス全体の武具を作るために本隊に残る、 という流れだったはずだ。

 しかし3人は、未だにメリクリウスの本隊と合流していないらしい。

 伝達係のハーピーの少女だけが一足先にその事をアーニャとエグゼに伝えるため、ツクヨミの街に来ていた。

「はぁ、いいわよ、放って置いて」

 ため息まじりにアーニャが言い放つ。

「だ、大丈夫なのか?」

 ソウマがいる限り敵と戦って負けたり、という心配はないが。

「いいの! どうせソウマの悪い癖が出ただけなんだから! ……でも、悪いことじゃないのよね……」

 斯く斯く然々。

 旅の道すがら人助けをして回っているソウマの話をエグゼにも伝え た。

「わたしと旅をしてる時もそうだったんだから!  まごう事なきトラブルメーカーよ!」

 そして旅は遅々として進まないのである。

「なら、心配ないね。僕たちは僕たちのできる事をしよう」

 エグゼ達にできる事。

 7大精霊と契約をする。

 それが今のエグゼとアーニャの使命だ。

 ソウマ達がただ遅れているだけなら、何の心配もいらない。

「あ、でもこの街には、メリクリウスのNO. 3のケンタウロスのビスタ・ブエナがいるのよ。

 彼女にも挨拶しなくちゃ!」

 いつかはミハエルの手下が7大精霊を奪いにやってくるのではない かと、この地に有力な者を置いているのである。

 そしてシスカの街しかりこの大陸の西南に向かいたいのなら、この街の裏の山を通るのが一番容易いのである。

 霊山でもあるこの山脈を超えるのは相当腕に自信のある者か、 精霊や土地神の加護でもない限り、不可能。

 そのためここを拠点にしておけば、大陸の1/ 4は配下に収めているようなものだ。

「ハピナが来たから、何かと思えば、アーニャではないか」

 街の奥から、豪華な鎧に身を包み、巨大なハルバートを手にしたケンタウロスがやってくる。

 声や体つきからして、女性のようだが。

「あ!ビスタ!久しぶり」

「うむ、久しいな。……。一緒にいるのはあの男ではないのだな」

 アーニャの後ろにいたエグゼに目をやる。

 あの男、とはソウマのことだろうか。

「あの男は、どうせどこかで道草を食っているのであろう。馬でもないのにな!ふふっ」

「あはは……」

 これさえなければ、とアーニャはいつも思う。

 容姿端麗、文武両道。

 ソウマが来るまで、 メリクリウスのTOPを張っていただけのことはある才女だが、いかんせん親父ギャグを飛ばす癖がある。

「で、あいつは?」

 くいっ、と顎でエグゼをさす。

「僕はエグゼ。エグゼ・トライアドだ」

 その途端、彼女の表情が変わる。

「……ほう。貴様が『あの』エグゼ・トライアドか」

 この大陸に住んでいる者なら、一度は聞いたことのある名前。

 稀代の英雄だ。知らないはずがない。

 そしてその末路も……。

「で? その英雄様がアーニャと一緒にこのツクヨミの街になんの用だ?」

 ビスタの視線は厳しく、矢のようにエグゼを射抜く。

 その意味は、 不甲斐ない魔法騎士団とその騎士団長であったエグゼの失態に対してであった。

「まぁ、 所詮人間など魔法が使えなければ魔物に敵うはずがないのだ。 例外を除いてな」

 その例外とは、もちろんソウマのことである。

「ビスタ、そんな言い方……!」

「黙れアーニャ。この感情だけは 他の大陸から来たお前とソウマにはわからん。 この大陸に住む我々の問題だ」

「で、でも、エグゼだって、頑張って……!」

 正に一触即発の事態だった。

 ビスタは、己の武器に手をかけている。

「いいんだよ、アーニャ」

 しかし、エグゼは優しく微笑む。

「彼女の言う通りなんだから」

 数百年続いた聖エルモワールの栄光が、たった一夜。

 たったの一夜で灰燼に帰したのだ。

 それからは、正に地獄と呼ぶに相応しい政治が始まったのだ。

 牛馬人身道に倒れ伏し、疫病、飢饉が蔓延する。

 そうして滅んだ街や村を、ビスタはこの数年でいくつも見てきたのだ。

「貴様さえ……。貴様がもっと強ければ……!」

 ぎり、と歯ぎしりの音が、エグゼにも聞こえてきた。

「だからこそ、だよ」

 ぽつりと、微笑んだままエグゼがつぶやく。

「だからこそ、死んでも僕はミハエルを殺さなくては行けないんだ」

 顔は笑顔だった。

 しかし、その瞳は誰よりも深い地獄を見てきた者の光だった。

「今の貴様は本当に強いのか? あのミハエルの、あの造魔を倒すほどに? そして、強くなるのか? 神魔を倒せるほどにっ!」

 巨大な戦斧がエグゼの眼前に突きつけられる。

「試してみるかい?僕の今の強さを……」

 そういうと、エグゼは右腕の手袋を外すとビスタの顔に投げつける。

 貴族の間では、これは決闘の申し込みだ。ビスタは当然の如く、 それを頬で受ける。

「いいだろう。我が名は逆賊、メリクリウスがNo.3ビスタ・ブエナ!いざ尋常に、勝負!」

「……。ただのエグゼだ。参る!」

 が戦斧を振り回し、上段から切り掛かる。

 まだ様子見といった軽い一撃だ。

 エグゼは、剣も抜くことなく容易く交わしてみせる。

 ハルバートの斬撃の軌道が途中で変わり、エグゼから遠ざかると 今までの緩さが嘘のような速度で突きに変化した。

 ゆっくりとした大振りからの、小さく鋭い突き。

 戦闘開始直後のこの動きに着いてこれる者はそうそういない。

 しかしそれすらも軽々と避けてみせる。しかも紙一重で、だ。

 それで終わる攻撃ではない。

 今のフェイントなど、ただの試しでしかなかったのだ。

 重量級のハルバートを容易く扱い、上下左右、あらゆる角度から連撃を繰り出してくるビスタ。

 それを顔色一つ変えず、紙一重でかわし続けるエグゼ。

「どうした、避けてるだけでは勝てんぞ? なぜ攻撃してこない?! 」

 少しずつ激昂し始めるビスタ。

 その問いに、ニコリと微笑み返すエグゼ。

「き、貴様……!」

 かぁっ、と頭に血がのぼる。

 それまで綿密に展開されていた戦斧の縦横無尽の攻撃が、 見る影もない力任せの大振りになる。

 その刹那。

 エグゼはゆるり、と流水のごとき足捌きで攻撃態勢に入る。

「!! しまった?!」

 しかしビスタもとっさに攻撃を変え、柄を上から下へと突き下ろす。

 とっさの攻撃すら読んでいたかのように交わしたエグゼは、納刀された状態の刀を素早く一閃する。

 ……。

 本来なら、高速の抜刀術で、敵を一刀両断していることであろう。

 しかし今は、鞘に納めたままの一撃。

 鎧で強固に守られているからこそ、無傷で済んだが、まさに痛恨の一撃だ。

「くっ! まさか、私が負けるとは……」

 ビスタの猪突猛進な性格も考慮しての戦略。

 そして大振りの隙を逃さない洞察力。一振りで決める決定力。

 どれをとっても、文句の付けようがない。

「まさか、人間にやられるとはな……。あの男とも違う、また異質な剣だ。まるで、こちらの手の内を全て知っているかのような……」

 予知のごとき予測で、敵の動きを見切り、返す刀で斬りつける。

「まぁ、立ち話もなんだ。詳しい話は駐屯地にて聞こう」

 とりあえず三人はメリクリウスの駐屯地にむかう。

 逆賊という立場上、グランベルトの支配下の街は立ち寄ることが出来ないため、どうしても野宿が多くなる。

 エグゼとアーニャは久しぶりに屋内でゆっくり休むことができたのだった。

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