洞窟の少女
たたらたちは、洞窟からほど近い河原に来ていた。
「気持ちいい…」
体力が落ちているため、川の冷水はよくない。
たたらは手早く火を起こすと、川の水を人肌より熱いくらいに温め、それにタオルを浸し、少女の体を優しく拭いてあげていた。
その間もティアラは少女の身体に無数にある、小さな傷を癒していた。
「お姉ちゃんちゃん達は、どうしてあたし達を助けてくれるの?」
「ん~。そうだなぁ」
その理由を探ると、ソウマの顔が頭にうかんだ。
「趣味、だな。あれは。うん」
自分で言ってなんだが、すごいぴったりの言葉を見つけた気がする。
「しゅ、み?」
言葉の意味がわからない、と言ったような表情で、少女は首を傾げる。
「趣味で人助けをしてるの?」
そんな善人がいることが信じられない、という風だ。
「あぁそうだ。どこに行っても誰かを助けてるな、あいつは。私たちもあいつと一緒にいるせいで、いつもそうだ」
と、ぶつぶつと文句を言う。
「でもでも、人助けはいいことだよ?私は、そんなそーまが好きだよ~」
少女の周りを飛び回りながら、ティアラは話す。目立った傷は、もう治ったようだ。
「まぁな。とてもいいことだ。あいつがもっと嫌な奴だったら、もっと悪態もつけたものを」
「ふふふ。お姉ちゃんたちはみんな、いい人なんだね! 正義の味方?」
初めて笑った少女の笑顔は、まるで可憐な花が綻ぶかのような愛らしさがあった。
つられて、たたらとティアラにも笑みがこぼれる。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな私は、たたら、だ」
「あたしは、ティアラだよ!」
「たたらお姉ちゃんに、ティアラちゃん…。わたしは…」
少女が自分の名を口にしようとした時、たたらは誰かの視線を感じていた。
こちらの様子を伺っているようだ。
しかし、ここは気づかない振りをして、相手の出方を待つことにした。
「ユーノ。ユーノ・リアライムだよ」
小さく笑ながら、自己紹介をする。
あたりには、干し肉の焼ける匂いと、野菜のスープの良い香りが漂ってきていた。
しかし不穏な気配に、ソウマが気づいていないはずがない。
あたりには、少し緊張感のある空気が流れている。
「ユーノか、可愛らしい名前だな。よく似合っている」
ユーノの服は、すでに着られる状態ではなかったため、たたらの服を着させる。
残念なことに、年端もいかぬ少女のサイズにピッタリだ。
「いい匂いがしてきたね!お肉の匂い久しぶり~」
やっと緊張や恐怖から解き放たれたのか、少女らしく食事を楽しみにしてはしゃいで見せる。
「よし、行こうか」
ごく自然にユーノと手をつなぐ。
少し、どきりとする。
もし自分に娘がいたら……。
たたらは見た目こそ少女だが、人間の何倍も生きている。本来なら子供がいてもおかしくはない年齢だ。
そして、相手は……。
今は離れてしまったエグゼの顔を思い浮かべる。
そして、そんな妄想を吹き飛ばす様にブンブンと頭を振る。
「たたら~、どーしたのー?」
ティアラが戻ってくると、ユーノの柔らかい髪の上に着地する。
「わぁ!妖精さんが頭にいる!」
「ふわふわだね~。すごいやわらかいよぉ!」
気持ち良さげに目を閉じるティアラ。
しかし心の中で、たたらに話しかけていた。
先程の妙な視線を感じたティアラは、偵察のために辺りを飛び回っていたのだった。
洞窟と川を一望出来る小高い丘の上。
そこに、杖を持った見たこともないモンスターがいた。
感じからしておそらく造魔だろう。
こちらが警戒しているのを知ってか、手出しはしてこなかった。
川から洞窟に戻りながらたたらはユーノとたわいもない話をしながら考えていた。
その造魔が犯人なのか?
と。
そして犯人ならどうやって村人をスライムに変えたのか?
と。
洞窟の入り口で火を焚いて料理を作っていたソーマの元に、たたら達が帰って来る。
「いいタイミングだな!
丁度夕飯もできたところだ。今夜は腕によりを掛けたからな」
前菜、主菜、副菜、主食、汁物。
見た目の彩りもよく、香りも申し分ない。
「こ、これが旅しながらに用意できる料理か?」
さすがのたたらも目を丸くする。
「生の野菜や肉を早く消化したかったからな。生野菜はこれで終わりだし、肉の残りは燻製にした。大切な食料だ、残すなよ!」
みんなで、挨拶をしてからそれぞれ、料理に手をつける。
街のレストランにも引けを取らない、見事な味だった。
「これなんかは私は食べたことないぞ」
主菜を食べながらたたらがつぶやく。
「俺の大陸の香辛料を使った、岩塩焼きだな」
「ソウマさんすごいです! 全部美味しい!」
ここ最近、まともな物を食べていなかったであろう、ユーノも、美味しい料理に舌鼓をうつ。
ユーノの料理にはさらに手を加えてあって久しぶりの食事に身体がびっくりしないように、柔らかく仕上げてある。
飢餓状態の体に、常人と同じ物を食べさせたら、それだけで負担になる。
「ティアラには、そこに生えていた、夜スミレの花の蜜だ」
夜に咲く美しいスミレの花でその根には、解熱、耐毒の効果があり、蜜は滋養強壮に良いとされている。
山間部の水の澄んだ場所にしか生えない、珍しい花である。
「わぁ! さっき見つけて、気になってたんだ。さっすがそーまだね!」
楽しい晩餐が過ぎていく。
その中でソウマ、たたらは警戒を怠っていなかった。
一定の距離を保ったまま動かない、造魔の存在。
それは、夜が更けてもまだ沈黙を保っていた。
朝。
交代で番をしていた、ソウマがみんなを起こす。
結局造魔に動きはなく、何事もないまま朝を迎えた。
ユーノを連れ、一度集落に戻ることにする。
昨夜は、無事だという少女をいち早く保護したいがために詳しい話を聞く前に集落を飛び出してしまった。
同じ道を辿り、集落へ。
そしてユーノを連れ、再び村長の家へと向かう。




