村落の異常
小さな集落に入りあたりを見回す。
陽の落ちかけた世界に簡素な小屋の火が灯る。
「こんばんはー! 誰か、いませんかぁ?」
ティアラが大きな声で、村人に呼びかける。
しかし誰も返事をしない。
「ふむ。人がいないのに、火が付いてる訳ないしな。おい! 誰か!?」
さらに大きな声でたたらが呼びかける。
返事がない。
「誰もいないのか?」
盛大な音を立てて扉を開けるソウマ。
「おい、貴様は何をやってるんだ!?勝手に人の家に……!」
と言いかけ中を覗き込んだ、たたらは、言葉を失った。
中にいたのは人ではなく、スライムだった。
「ま、まて。スライムが家に住んでいて、火を使って暮らしているだと?そんな話は聞いたことが……」
スライムたちは、恐怖に怯えているように、隅に固まっている。
家族なのだろうか。
一際大きなスライムが一番前に立ち、その後ろの少し大きいスライムが、小さいスライム2匹を抱えるように、守っている。
「安心しろ、敵じゃない」
ソウマはスライムと同じ高さまで、目線を落とすと、優しく話しかけた。
「あなた達に危害を加えるつもりはない。誰か、話せる者はいないか?もし困っているなら、助けたいんだ」
ソウマの優しげな眼差しに、警戒心を解いた大きなスライムはついて来い、と言わんばかりに、先頭に立って歩き出した。
「こうやってまた、トラブルに巻き込まれるんだな……」
諦めたようにたたらが呟いた。
ソウマたち一行は、スライムに連れられて一軒の家へとはいる。
そこには、一匹のスライムがいた。
しかし、驚くことにそのライムは字を書くことができたのだ。
「スライムが字を書けるだと? そんなこと聞いたこともないが……」
しかし、現実に目の前で起こっていることも確かだ。
この大陸の識字率は大して高くは無い。
しかし、一つの村、町、街には最低一人は文字の読み書きができる人物がいるように、聖エルモワール王は人を配置していた。
それが今、役に立っている。
「やはり、このスライムはこの村の人たちだったのか……」
この村の村長だというソウマがスライムとやり取りをして、情報を整理する。
『まずは、あの子を助けてやってください』
それが、村長の最初の願いだった。
夜。
月の明かりだけを頼りに山に分け入る。道とも言えぬ道を歩き、先ほどのスライムに教えてもらった方角へと、背丈ほどもある草を払いながら進む。
鬱蒼と生い茂る草原を抜けた先に、ある、集落から少し離れた洞窟の中。
1人の少女が暮らしていた。
薄暗い中で火を焚くここもできず、食事と言えば木の実を一日に数粒ほど。
このままでは確実に衰弱し、死を迎えるであろう。
「……。お兄ちゃん、たち? だれ?」
栄養も足りてなく、常に暗い洞窟の中にいるからだろうか、視力も衰えているらしい。
「だいじょーぶ? いま治してあげるからね!」
ティアラの、妖精の体液には傷を癒す力がある。
「心配ない。君を助けに来た」
たたらは、自分が夜露を凌ぐためのマントを少女の身体に巻きつける。
「川で身体でも洗おう。気持ちもさっぱりするぞ」
「で、でも外にでたら、あいつが……!」
あいつ。
少女が呼ぶ『あいつ』が何者を指すのかわからないが、この悲惨な状況に関与していることは間違いない。
「平気さ。こう見えても、お姉ちゃんは強いんだ。それにもっと強いお兄ちゃんもいる。なんの心配もないよ」
「よし、じゃあ俺はその間に飯を作ってる。なにかあったらすぐ駆けつけるからな」
ソウマは手早く夕飯の用意をする。
そして、たたらとティアラは、名も知らぬ少女とともに川に行くのだった。




