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人外娘さんと真面目にファンタジーしちゃう本  作者: 葛葉龍玄
亡国の魔法騎士

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戦いが終わって

「まさか、ヴィヴィアンがこうも容易くやられるとは……」

 玉座に座り、ミハエルは一人呟く。

 強い魔力を持つ者と造魔を掛け合わせ造った、造魔の中の造魔。

 ミハエルは『神魔』と呼んでいた。

 そのプロトタイプであるヴィヴィアンは最年長ながら、その分経験値が圧倒して多かった。自分の感覚と造魔、神魔と感覚を繋げると、どうしても隙やタイムラグ、誤差がでる。

 しかし、その点ヴィヴィアンは長い練習のため、一番扱いやすく自身の動きをトレースしやすかった。

「ソウマ君の強さ」

 想定外。ノームを使い、あの大軍とヴィヴィアンを持ってしても、怪我一つ負わすことができなかった。

「エグゼ君の強さ」

 こちらはもっと想定外だった。ソウマとも違う、異質の強さ。

 寒気がした。

 こちらの手の内の全てを見透かしたような、あの瞳。

 なんとしても……!

 しかし、こちらとしても手の内をすべて明かしたわけではない。

 ヴィヴィアンは、『神魔』の中でも最弱なのだ。

 これから狙うのは、『剣聖の鎧』と『エンシェントドラゴン』『光と闇の軍勢の混沌の力』そして『大精霊の創造』まだ、改良の余地はある。

 その力を試す上で、エグゼとソウマは恰好の標的だ。

 もし途中で息絶えたなら、この大陸を飛び越え、他の大陸を侵略するまでだ。

 ………。

 ……。

 …。

 座り慣れた玉座で、ミハエルは一人思索を重ねていた。


「ソウマの容態はどうだ?」

 処置を終え、たたらとティアラが、寝室から出てくる。

「大丈夫だ。あの化け物がそう容易く死ぬか!」

 しかし、その大きな一つ瞳が涙で濡れているのを、誰もが気付いていた。

「幸い、ティアラの魂の欠片も効いているしな。ありがとう、ティアラ」

「そーまのためだもん!なんてことないよっ!」

 妖精の体液や鱗粉には、傷を癒す効果がある。

 それは奥深くなればなるほど、濃くなればなるほどその効果が強い。

 しかも、魂となればなおさらだ。

 ティアラも元気そうにしているが、相当消耗していることだろう。

「でも、私、どうしよう……。私の所為で、ソウマは……」

 ソウマが助かったのも嬉しかったが、それ以上に後悔の念が押し寄せる。

 なぜあそこまで我を忘れて、あのサイクロプスを間近で観たいと思ったのか。

「アーニャにはアーニャの理由があったんだろう?キチンとした理由があれば、ソウマも怒りはしないよ」

 いつもと変わらない柔らかな顔で、ソウマが微笑む。

「戦いに気を取られ、貴様を止められなかった、私達にも非はある。一人で抱え込むな」

 たたらは悔しそうに歯噛みする。

 あの巨人のと戦いにおいて、たたらはなんの役にも立たなかった。

 もっと戦えると思っていた。

 しかし、現実は……。

「そんなこといったら、あたしなんて……」

 ついでにティアラまで一緒になって落ち込み始める。

「ま、まぁまぁ。そんなに落ち込んだって、しょうがないよ。ソウマは生きてる。その事実だけでもいいじやないか。もしみんなが後悔してるなら、次は同じ過ちを繰り返さないように、毎日を丁寧に生きればいい」

 それは、この数年エグゼが修羅のような旅を繰り返していたからこそ言える台詞だった。

「エグゼ。そうだよね、まだソウマは生きてるんだもんね! キチンと謝らないと!」

 その一言で救われたのか、アーニャの表情にも、明りが灯る。

「だいたい、内臓が飛び出してて、麻酔までかけたんだぞ? それでも意識をなくさない、あいつがおかしいんだ。殺しても死なないだろうとは思ったが……。あいつのことは気にするな!」

 たたらも、アーニャに気を使ってか、フォローをする。

 いくら強がってみせて、メリクリウスのNo2といっても、まだアーニャは幼い子供なのだ。

 自分の親しい人が、自分の所為で傷ついてしまった事実は、今まで生きてきた中でも群を抜いてつらいはずだ。

「でも、本当によかった……」

 そう言うと、アーニャその場に崩れ落ちるように、気を失ってしまった。

「緊張の糸が切れたみたいだね」

 エグゼは優しくアーニャを支えると、ゆっくりと寝室に運んだ。


「精霊玉は、ちゃんと機能してるか?」

 アーニャを寝室で寝かしつけたエグゼが、ダイニングテーブルに座ると、おもむろにたたらが訪ねてきた。

「あぁ、しっかり使えてるよ」

 そう言って、バッグから一つの玉を取り出す。

 それは、たたらに言われて自分で磨き上げた精霊石の玉だった。

「せーれーぎょく? きれーだね、えぐぜ!」

 パタパタとティアラ飛んできて、精霊玉のそばに止まると、いきなりギューっと抱きついた。

「せーれーせきで出来てるんだよね? あったかい!」

 ツルツルの玉に、頰ずりをする。

 と。

「ティアラちゃん、くすぐったいわよ」

 精霊玉から声がした。

「わぁ? このせーれーせき、おしゃべりできるよ、えぐぜ、たたら!すごい、すごーい!」

「そう、私は、精霊石の精霊なのよ〜」

「こら」

 ぺち、と軽く、エグゼが精霊石を叩く。

「嘘を教えちゃだめだろ、サニー」

 そう。この玉は、精霊を使役し終わったあとも、精霊を精霊界へ帰さないための言わば、『簡易版・精霊の寝所』なのだ。

「あらあら、怒られちゃったわ。ごめんね、ティアラちゃん」

「さにーお姉ちゃんだったんだね!お出掛けできるようになったの?」

 基本的に精霊は、この世にい続けることは出来ない。実体化するためには魔法力を使い、この世に留めておくしかないのだ。

 しかし、聖域と呼ばれる場所は、精霊界と人間界の壁が薄く、精霊がデメリットなしで人間界にいられる場所でもある。

 一度サニーが精霊界に帰ってしまったら、エグゼにはサニーを呼び出す術がなくなってしまう。

 そのため、この精霊玉を簡易の住処として、サニーのためにエグゼが高品質の精霊石のを加工して作りあげたのだ。

「この精霊玉を剣にはめて、剣を通して、僕とサニーの生命を一つにするんだ」

 今までの使役とはまた違う、精霊との一体感。あれは絵にも言われぬ高揚感あった。

「じゃあ、さにーお姉ちゃんもえぐぜと一緒に行くの?」

「そぉよ。ちょっと留守にするわね」

 おっとりと別れを告げるサニー。

「で、だな」

 別れの感傷を継ぎ、たたらも声を発する。

「私もエグゼたちについていく。ソウマは見事に約束をまもったからな。

『敵味方関係なく、死者を出さない』

こんな馬鹿げた約束を、あの男は見事にやってのけた。逆に私たちは『ソウマとエグゼ以外の人間を戦場に立たせない』という約束を破った訳だからな。当初の取り決め通り、メリクリウスで、お前らの武具を作ろうと思う」

 すっきりした表情で、たたらは旅に出ることを誓った。

「そっかぁ」

 しょぼん、と項垂れるティアラ。自分には、旅立つ理由がない。

「ソウマが回復し次第出発するから、ティアラも用意しておいてね」

 しかし、さも当然のように、エグゼはティアラに準備を促していた。

「え?で、でもでも、あたし…!」

 戦闘では、なにも役に立たない。

 そう続けようとしたが、たたらが言葉で遮る。

「ティアラがいなかったら、ソウマは死んでいた。それが事実だ。あれだけの戦力の命を救ったんだ。

ある意味、お前が一番の功労者だよ」

 たたらの大きな一つ瞳は、どこまでも優しさをたたえたまま、小さな英雄を見つめた。

「それに、今度同じことがあったときは、しっかりとアーニャを止めて、戦場に行かせないようにしないとね」

「わぁ! うん! あたしもいくっ! 身体の水分全部なくなっても、みんなを助けるよぉ!」

 壮大な決意だが、それは困る。

 しかし、水分を出し尽くして、ミイラみたいなティアラを想像して、エグゼとたたらは笑い出してしまった。

「もぅ! なんで笑うのよ!」

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