日の大精霊・サニー
『お涙頂戴は終わりですか? では、行きましょうか、エグゼ君。精霊の力がどれほどなのか、私に見せてください』
ヴィヴィアンも流水の構えを取ると、エグゼに相対する。
先に動いたのはサイクロプスだった。
ゆっくりにも思える動きで初手を繰り出す。
貫手から繰り出される、目潰し。
しかし、エグゼは交わそうともしない。それがフェイントだとわかっていたからだ。
完璧なるフェイントに隠された真の攻撃は蹴り。大木の如く太い足から繰り出される強烈な前蹴りが、エグゼを襲う。
エグゼはその蹴りに足をかけ、蹴りの威力を使って後ろに飛び、緩やかに着地してみせた。
『あの蹴りの威力を吸収した、ですか?』
一歩間違えば、まともに蹴りを受けて、この一撃で勝負は決まっていたはずだ。
『ならば、これならいかがでしょうか?』
フェイントを織り交ぜ、先程よりも早く鋭い攻撃を繰り返す。
直線的な攻撃は隙はすくないが、連続性に欠ける。
円運動の攻撃は連続性に優れているが、外した時の隙が大きい。
しかし、一つ目の巨人は、その二つをうまく組み合わせ、連続的に、さらに隙なく攻撃を次から次へと繰り返している。
直突き、鉤突き、裏拳、肘、肩。
蹴り上げ、回し蹴り、足刀、膝、踵。
頭突き、体当たり。
ありとあらゆる攻撃がエグゼに襲い掛かるがことごとく交わされる。
それは、ソウマのように洗練された武技とはまた異質のものだった。
まるで、次の手がわかっているような…。
いつもの優しげな瞳のまま、悠々と攻撃を交わしている。
「なつかしいね、サニー。そうだ、僕はこの感覚が大好きなんだ」
戦いが好きなわけではない。
精霊をその身に宿し、一緒に何かをするこの一体感。それが大好きなんだ。
エグゼの眼中には、巨人は映っていなかった。
ただ、日の大精霊とダンスを踊るように実に軽やかに敵の一撃必殺の攻撃を避けている。
『な、なんなのですか、貴方は! 私を見なさい、私の相手をしなさいっ!』
自分が相手をされていない事実に、ミハエルも気づいていた。激昂し、さらに攻撃が激しくなる。
「そろそろ攻撃もしてみようか。ね、サニー」
流れる水の如く繰り出される、精錬された連撃。
ほんのわずかな、コンマの隙を、剣尖が走る。
『ばかな! そんな隙など!?』
あろうはずもない。
はずだった。
達人でも見逃すほどのかすかな隙間。たとえ気付けたとしても、そこにつけいるのは至難の技だ。
しかし、エグゼはやすやすとやって退けた。
さらに繰り返される攻撃に対して、全てカウンターで剣撃を挟むエグゼ。
しかし敵も超一流。
致命傷だけは、すんでの所で免れていた。
しかし、だんだんとヴィヴィアンの攻撃が消極的になる。
攻撃やの合間合間、全てにエグゼのカウンターが挟まれる。まるで予知の如く、確実に、だ。
エグゼの剣閃は、さらに冴え渡る。
「もう少し、遊ぼうか?」
新しい遊びを覚えた少年のように、エグゼは実に楽しそうに剣を振るう。カウンターはカウンターを超え、相手の攻撃に後の後で合わせでいた剣を、敵の攻撃の仕掛け始め。
初期動作に合わせて攻撃を仕掛けるまでになっていた。
筋肉の動きが、全てをエグゼに知らせる。
二人の時間軸、スピード感がまるで違う。
この差を埋めることは、一つ目の巨人には。
ーー不可能ーー
なんとか大ダメージだけは避けていたヴィヴィアンだが、もう、限界だった。
『まさか精霊の力がこれほどとは……っ!!』
その力を手にするまでのエグゼは、まさに素人同然だった。
だから思った。精霊を手にした所で、その差が埋まるはずがないと、と。
だから油断した。目下の敵は、ソウマだけ、だと。
しかし現実は違った。
確かにまだソウマの方が強いかもしれない。だが、7大精霊のたった一体と契約をしただけで、この戦闘力だ。
もし、7大精霊全てと契約をしたら……。
あまつさえ、精霊王などと契約をされたら。
『流石、稀代の英雄、エグゼ・トライアド君、ですね。このヴィヴィアンでは、貴方には勝てないようです』
エグゼの攻撃をくらいながら、ミハエルが話す。
そう。たとえこの巨人を倒しても文字通り、ミハエルは痛くも痒くもないのだ。
『とはいえ、最後の足掻きくらいはさせて頂きましょうか、ね』
そう言うと、ヴィヴィアンの身体が突如、炎に包まれる。
『地獄の業火に焼かれなさい!』
その身にを持って、最後の攻撃に出たのだ。
「最後の最後で詰めを誤ったね、ミハエル。サニーは……。『僕』は日の大精霊。太陽の精霊。この程度の炎は、むしろ糧になるよ」
小さな火は、大きな陽に吸収される。
今エグゼが契約している精霊は『日の大精霊』それは、太陽の力を持つ強大な存在。
自らの体を命を業火に変え、敵を焼き尽くさんとした巨人は、自身を圧倒する神のごとき太陽に吸い込まれ、その姿を消した。
自死をもって、エグゼを殺そうとした一つ目の巨人の、あっけない幕切れだった。




