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人外娘さんと真面目にファンタジーしちゃう本  作者: 葛葉龍玄
亡国の魔法騎士

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絶望と希望

腹部を貫く鋭利な爪。

 飛び散る血液。

 響き渡る悲鳴。

 たたらとティアラが戦場に着いた時にはもう、全てが決着したあとだった。

「ソウマっ!!」

 泣き叫ぶアーニャの眼前で、身体を張って敵の攻撃を受け止めたソウマ。

『思った通りですよ、ソウマ君。君がこういう行動にでるのは。まぁ、間に合わなくても、メリクリウスのNo.2を殺せた訳ですから、私にとっては僥倖ですが……』

 ずるり、とソウマの腹部から、その豪腕を引き抜く。

「がはっ !……。へ、丁度いい、ハンデじゃないの」

 腹から飛び出しそうになる内臓を手で抑えながら、ソウマは軽口を叩く。

『まだ、戦う気ですか?』

 サイクロプスが片腕を軽く動かす。

 なんの変哲も無い攻撃。

 しかし、ソウマは避けることもできず、まともにくらい吹き飛ばされる。

「そうまぁ!」

「ソウマっ!」

 ティアラとたたらが駆け寄る。

 が。

「来るなっ!」

 それでもなお立ち上がるソウマが、静止をかける。

「約束、したろ? この戦場には、お、俺かエグゼしか、たたない、って。お前が、約束、破るなよ……』

「ばかな、そんなこと言っている場合か!? しかも約束のことを言うなら、アーニャをこの戦場に行かせてしまった私たちにも責任がある! そんな約束、反故だ!」

 鉄槌を手に、闘いに加わろうとするたたら。

 それを、ソウマが手をかざし、止める。

「止めておけ、お前じゃ勝てん」

「うるさい! なら、誰が戦う? 貴様がそのざまで、勝てるのか!?」

『はははは! いいですねぇ。私は、こう言った茶番が大好きなんですよ。もっと見せて下さい!」

手を叩いて笑う巨人と、その奥にいるミハエル。

「深、淵流……。『影の小太刀かげのこだち』!」

 どこにそんな力が残っていたのであろうか。

 鋭く振るわれた右の拳が一閃する。

 手を叩いていた一つ目の巨人の右腕が、深く傷つけられる。

『ば、馬鹿な!? どこにそんな力が!!』

 いつも冷静さを失わない、さすがのミハエルも、慌てていた。

 相手は明らかに瀕死の人間だ。

「ちっ! その邪魔な腕を、切り落としてやる、つ、つもりだったんだけど、な……」

「ソウマ、なんで……」

 アーニャの脳裏に、ソウマの台詞がよみがえる。

『闘う俺のために祈る人間がいるという事は、その戦で俺が負ければ、傷つく誰かがいるという事だ。なら、俺は負ける訳には行かないんだ。どんな窮地に立たされようが、どんな傷を負おうが、な。俺に託されたその想いこそが、俺の最後の力になる』

「ま、負けないって! 貴方が勝つって、祈る仲間がいれば、負けないんでしょう?! 勝ってよ!勝って、生きて帰って来て……っ!!」

 いつもと同じ、太陽のような笑顔を浮かべ、弱々しく親指を天に掲げる。

 その背中は、死地に赴く戦士そのものだった。

 勝敗は誰の目に見ても明らかだった。先程の一撃が最後の力だったのか、この後の攻防では、精彩が全くない。

『もう、終わりのようですね。ソウマ君。しかし、エグゼ君はなにをしてるんでしょうね? 仲間がこんなに懸命に戦っているのに』

 そう言いながら、サイクロプスは無造作にソウマに近づく。

 力を振り絞り攻撃を繰り出すソウマ。

 だがそこに相手を倒すだけの膂力はなく、呆気なくかわされてしまう。

「え、エグゼは来るさ……。俺ができるのは、そ、それまでの時間稼ぎ、だ」

『貴方は、まだ知り合って間も無いはず。なぜ、そこまであの男を信じることができるのですか?』

「さぁな。俺が信じると決めたから、信じてる、だけさ……」

『友情、ですか。虫酸がはしる』

「なんとでも……。言え……」

 多量の出血に、目が霞む。

 思わず膝をつきそうになる。

 だが、自分には守らなければならない人たちがいる。

 ただそれだけの思いで、ソウマは戦場に立ち続けていた。

「ははははっ! なんと愚かな! ありもしない友情を信じ、そのために貴方ほどの戦士がこの世からいなくなるとは!!」

 ミハエルはその追撃の手を緩めることなく、ソウマを攻撃していく。

 一撃、二撃。その攻撃を食らうたびにソウマは確実に死に向かっていく。 

 たたらも、アーニャも、ティアラも、あまりの実力差に動けないでいる。

 そして。

「遅えよ、馬鹿」

 一言。

 ソウマは操り人形の糸が切れたように倒れこむ。

「ソウマ!?」

「そーま!!」

「ソウマァッ!」

 三者三様の悲鳴があがる。

 しかし、崩れ落ちそうになるソウマを支える人影がいつの間にかあった。

「すまない、でも、ぎりぎり間に合ったか、な?」

 日差しのような柔らかな金の鬣。

 月明かりのように優しげな双眸。

 右手に携えるは、この世ならざるほどに光り輝く神剣。

 ソウマ以外の人間に気配すら悟られることなく、戦場の只中に降り立った、伝説の魔法騎士。

 紛れもなく、大精霊の力を手に入れた、エグゼその人だった。

「ティアラ、ソウマの手当てを。でももう、手は打ってくれてるみたいだね」

 ソウマの体内に残された、ティアラの魂の欠片。

 妖精の体液には、傷を癒す効果がある。

 先日ティアラとの出来事で、取り入れたティアラの魂の欠片は、ソウマの中で、常にヒーリングをしていた。

「手当ては任せたよ、たたら」

 エグゼは自分の荷物の中から、妖精の粉を取り出し、たたらに投げ渡す。

「ソウマの事は任せろ!」

 エグゼからソウマを預かった後、地面に布を敷き、優しく寝かせる。

「せ、精霊とは、契約、出来たのか……?」

「あぁ。見ていてくれ」

 大きく頷くと、エグゼは巨人の前に立ち剣を構える。

 それだけでわかった。エグゼは力を取り戻したのだと。

 まだ、完全ではないにしろ、ミハエルに一矢報い事ができる力を手に入れたのだ。

 過去、自身の大陸を救ったソウマはその役目を終えたのだ。

 これからこの大陸を救うのは、エグゼであり、ソウマではない。 

 しかし、ソウマの表情には笑みが満ちていた。  

 命がけの仕事を終えた男の顔だ。

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