神魔の正体
3日後。
ティアラとたたらの献身的な看護もあって。
「よし、もう大丈夫だ!」
完全に回復していた。
「ばかな! 腹部貫通だぞ! 感染症とかだって、危うかったんだ !こんなに早く回復する馬鹿がいるかっ!?」
自分で看護をしておいて、その回復ぶりに悪態を付くたたら。
「なぁ、エグゼ? なぜ俺は怒られている?」
訳が分からず、エグゼに尋ねるソウマ。普通は祝われるところだが。
「ま、まぁ驚くのも、無理はないと思うよ」
全くもって通常営業のソウマに、エグゼ以下の3人も呆れていた。
「どんだけ規格外なのよ……」
「でも、良くなってよかったねぇ!」
三者三様ながら、ソウマの回復に胸を撫で下ろしていた。
「さて、俺も良くなったところで、アーニャには、聞きたいことがあるんだ」
一転。真面目な空気を作り、アーニャに尋ねるソウマ。
「お前は、あのサイクロプスに『なにを見た?』」
ソウマらしい、隠すことのない直球な物言いだった。
「ソウマ、それは……」
たたらは、ソウマがアーニャを責めるものだと思い、口を開いていた。だが、それをソウマが遮る。
「いや、責めている訳では無いんだ。
アーニャの能力は、この中じゃ俺が一番よく知っている。『物事の本質を見極める能力』。この能力が、あの不可解な生命体に反応して、我も忘れて知ろうと近づいて来たんだろう」
そういえば、サイクロプスを一目見たあとから、アーニャの様子がおかしかった気がする。
たたらも、口を挟むのをやめて、話を聞く体制に入った。
「うん、それが……」
アーニャは言い辛そうだった。
自分の見たものが、信じられない。そんな面持ちだった。
「私が今回、あのサイクロプスに見たのは、その『魂の在り方』だったの。
普通の人は、もちろんなんの違和感もないんだけど……」
普通の造魔でも違った。
「あれはまさに、作られた命、よ。魂という器だけ作り、中になにも入れない。その代わりにいれるのは、ミハエルのおっさんの命令よ。だから、造魔は命令を聞いてるんじゃなくて、命令自体が、生きている理由みたいになってるの」
命令がないときは、まさに生ける屍なのだろう。
魂の中身がないのだから、感情や、自身の考えなどあるわけもない。
正に、操り人形だ。
「魂なんて不確定な物に、そんなに手を加えることが出来るのか?」
ソウマが、口を挟む。
「そこまで難しいことじゃないよ。僕だって、今回の契約では『大いなる精霊王の剣』を使って、サニーと魂を融合させている。
特に、ミハエルはそういったことの第一人者だった。でも、魔法が使えれば、ね」
聞き逃せない一言だった。
魔法が使えれば。
もともと魔法力は、その人間の魂の奥底にある、生命から湧き出る偉大な力の迸りを利用したものだ。
魔法力がなにか、を探求すると、必ず魂、生命へと結びつく。
その研究に於いて、この大陸でミハエルの右に出るものはいなかった。
「……。ミハエルは、魔法がつかえるのか?」
今まで何度かぶち当たった問題だ。
しかし、今考えても答えは出ない。
「それはすぐには答えは出ない。あとまわしにしよう。とりあえず、ミハエルは魔法なのか、魔法以外の力なのかわからないけど、魂をいじることができている。それが事実だ」
みんなが肯定の意を示すように頷く。
「でもそれだけなら、まだいいの。問題は、あの巨人だったの」
思い出すだけで身震いする。
見た目や戦闘力に、ではない。
その魂の異様さに、である。
「あの異様な強さの造魔は、『人間と造魔の子供』よ」
全員に予想だにしない、衝撃が走る。
そうとしか思えない、魂の在り方。
中身のない造魔の魂に、魔法力の高い人間の魂。
それらが理を捻じ曲げられ、解けること無くからまり合い、融合した、禁忌の魂。
おそらく、親は……。
「な、なんだそれ! 人間と造魔の子供だとっ!?」
机を叩いて、ソウマが立ちあがる。
他の面々はあまりの事実に、言葉すらでない。
「あの魂は、そうとしか考えられないわ」
非常識なおぞましさに、思い出しただけで、吐き気がする。
「じゃあ、なにか? 俺は人間の子供を相手に戦ってたってのか!? たとえ異形だとしても、この手で、人間の子供を殺そうとしたのか?」
ソウマの手に、あの巨人を攻撃した時の感触が蘇る。
「気にするな、ソウマ、エグゼ。あぁなってしまってはもう人間ではない。むしろ造魔の魂から、人間の魂を救ってやったと考えるべきだ」
絡まった魂を、造魔の魂から救い出す。
確かに、そういうことなのかもしれない。
「私が見えたのは、それだけ。あとは、他の造魔と同じように、魂をの空っぽの部分にミハエルとの繋がりが見えたわ。他の造魔とは、比べものにならないくらい、強い繋がりだったけどね」
繋がりというよりは、憑依に近い。
それほど魂の深いところで、ミハエルとサイクロプスは繋がっていた。
「しかし、ミハエルが、魔法は使えないのに魔法力が高い者を各地でさらっている訳は、それか」
ソウマの属する、メリクリウスの情報収集部隊からの報告だが、魔法力の高い女性が魔物、人間問わずミハエルに攫われているとのこと。
これで、合点がいく。
攫われた女性たちは、造魔の子を生まされているのだ。
ミハエルの邪悪な理想のために。
「ここで、ゆっくりしている訳にも、行かないな」
エグゼがつぶやく。
「そうだな。用意を整えて昼過ぎにでも、出発しよう。エグゼの次の目的地はどこだ?」
待ちきれない、とばかりに昼食の用意を始めながら、ソウマが尋ねる。
「僕は、ここから南東に向かうよ。
昔、僕が住んでいた森があるんだけど、次の7大精霊、月の精霊に会うためのアイテムが置いてあるんだ。
そのあとは月の精霊がいる、山沿いに東にいって、ツクヨミの街にいくよ」
「そうか。俺たちは、一度たたらたちを連れて、メリクリウスの本隊と合流するためにツクヨミの街に向かうとしよう!」
パンを焼き、卵を攪拌しながらソウマが返事をする。
なんとも締まらない。
「わたしは約束通りメリクリウス本拠地で、みんなのための武具を作ろう。戦闘もこなせないことはないが、二人の前ではどうも足手まといみたいだなしな」
たたらは肩をすくめながら、フォークとナイフを手にして朝食を待ちかねている。
「わたしは、そーまについてくよ!
そーま、強いけど怪我ばかりしそうだもん!」
ティアラは一足先に出された、花の蜜を美味しそうに飲んでいた。飲むのが下手なのか、こぼしまくっているが…。
そして。
「わたしは、エグゼに着いて行こうと思う」
と、アーニャは言った。
「エグゼにか?本隊には、戻らないのか?」
これには、ソウマも面を食らった。
調理の作業は鮮やかに続けていたが。
「うん。メリクリウスに戻っても、わたしはやることないし、それに、エグゼに着いて行った方が、色々なものが『視え』そう!」
彼女の真実の瞳は、体験したことのない冒険に、好奇心を揺り動かされているらしい。
「ねぇ、大丈夫?エグゼ?」
大きな瞳を瞬かせて、アーニャが可愛くおねだりをする。
その仕草が、幼き日の姫、ミスティにあまりにも良く似ていて…。
エグゼは動揺しながらも、
「もちろん!」
と答えた。
「わぁ、ありがとう! じゃあ、コンゴトモヨロシク、ね! エグゼ!」
歳相応の少女の仕草で喜んで見せた。
そうこうしているうちに、昼食も出来上がったようだ。
「さて、もう出掛けるし、残りの食材は、道中保存食にして、すぐダメになりそうなもので、作ったぞ!」
いつ見ても、なんとも不似合いな図だが、出来上がった料理は最高のものだった……。




