ソウマとヴィヴィアンと誤算
巨大な鉄の塊が、振り下ろされた。
造魔も、人間の兵も、そしてもちろんソウマも。
全てがその醜い魔物の餌食になった。
「ソウマ!」
「そーま!?」
遠くの森では隠れて見ていた、たたらと、ティアラが驚愕の叫び声を上げる。
しかし。
全てを破壊した余韻に浸っているはずだった魔物の腕から、血が吹き出す。
そして、その手にあった鉄槌が、粉々に吹き飛んだ。
「『深淵流・絶技、断罪之太刀』」
片脚を天に突き上げたソウマが、何事もなかったかのように立っていた。
砂の様に砕け散った敵の武器が降り注ぐ。その中にあって、立っているのはソウマのみ。他の造魔は、みな塵となり、消え失せていた。
これに驚いたのは味方だけではない。サイクロプス越しに、勝利を確信していたミハエルも言葉を失った。
ーーこいつは、本当に人間なのか?ーー
魔法が失われたこの大陸で、この『神魔、ヴィヴィアン』に敵う者などいない。
はずだった。
しかし。
『面白い。実に面白いですよ、ソウマ君!キミがここまで強いとは!』
心底楽しそうに、ミハエルが笑う。
『このヴィヴィアンでは、貴方に勝てないかも知れませんが、全力でお相手しましょう!』
ヴィヴィアンと呼ばれたサイクロプスは、その巨体に似合わず、まるで流水の如き足運びで、ゆるり、と、ソウマとの間合いを詰める。
「なるほど。気配を感じないわけだ」
その動きは、達人そのもの。
硬い物は砕けるが、水は切る、壊すことは叶わない。
しかしその奔流は、時として牙を剥き街を押し流すほどの激流となって、全てを破滅へ導く。
それを、肉体的強度では人間とは比べるべくもないこの怪物が使うのである。
その脅威は、いかほどのものか。
交差する拳、蹴り。
体格差で圧倒的に勝るサイクロプスの攻撃を一重で交わし、受け流すソウマ。
その攻防は、どちらも一歩も引かない、熾烈極まりない物だった。
しかしその一方で、ソウマの動きが変わってくる。大きく動き、かわしていた攻撃を徐々に、その場から動かずに避けるようになっていた。
サイクロプス渾身の突きを左手で受け流す。と、同時に相手の力の流れに任せて、その巨体を揺るがす。
遠い国の言葉では、それを『合気』という。
信じられない事にサイクロプスの巨躯が宙に舞う。
背中から地面に叩きつけられた一つ目の巨人は、一瞬、身動きが取れなくなる。
その刹那の隙を見逃すはずもなく、ソウマの右脚が死神の鎌の様に、サイクロプスに振り下ろされる。
まさに、その首を刈り取ろうとした脚を、サイクロプスは掴んで無理矢理止める。
「まじ、かよ!」
渾身の蹴りをそんな力技で止められるとは思っていなかったソウマは、なぜか笑みを浮かべていた。
今までの敵なら、先の蹴りで決まっていた。しかし、コイツは…!
久しぶりの強敵に、心が躍るのを感じていた。
ソウマの脚を掴んだサイクロプスは、お返しとばかりに、ソウマを地面に叩きつけようと、振りかぶりる。
その剛腕から抜け出て、空中に放り出されたソウマはそのまま落下する勢いで、サイクロプスの脳天に、拳を突き立てる。
山の如く突き出していた、角を拳一つで砕いてみせる。
ほんの微かな。
ミリ単位の差でしかない。
スピードは互角。力だけならヴィヴィアンの方が勝っている。
その自慢の力も悲しいかな、技を極めたソウマには無力だった。
山をも砕く一撃は当ったかと思うほどの僅差で交わされ、大地をえぐる拳はいなされその威力はかき消される。
逆にソウマの攻撃は確実にサイクロプスにダメージを与え、逆に、サイクロプスの攻撃は空を切る。
徐々に追い詰められて行くサイクロプスの向こう側にいるミハエルは、逆転の一手を考え続け、試し続け、その最良の選択肢を全てソウマに潰されている。闘いの経験値が、引き出しの数が圧倒的に違う。このままでは、確実に……。
そんな時サイクロプスの一つ目に飛び込んできたのは、一人の少女だった。
フラフラと戦場を歩く、アラクネの少女。アーニャだ。
まだ、ソウマも気が付いていない。
このチャンスを利用しない手はない。




