エグゼの心象
くらい。
クライ。
暗い。
闇の底。
ぽつりと、エグゼ漂っていた。
最初から居たのか、途中から居たのか。
長いこと居たのか、時間など経っていないのか。
全てが曖昧模糊とした状態で、ただ闇の中を漂っている。
心地よい。
ただただ、この闇の流れに身を任せていれば、それはなんと甘美な時間か。
ーーなんで、ここにいるんだっけ?ーー
考える。が、やめる。
ーーこんなに気持ちいいんだし、どうでもいいかーー
悪くない。瞳を閉じる。自然と笑みがこぼれた。
暗闇に、一つの灯りがともる。
あれは……。
幼き日のエグゼ。
森の中にいる。
あれは……。
遠い昔、森の中で暮らしていた時間。
柔らかな日差しの中、エグゼは菩提樹の下で、安らかに寝息を立てている。それを優しく撫でながら、微笑む一人の女性。
幸せな時間が流れる。
しかし、それは長く続かない。
次に映し出された映像では、焦土と化した森の中で、少年のエグゼが一人佇んでいる所だった。周りには、魔物の死骸がエグゼを取り囲むように転がっている。
そこに通りかかる、豪奢な装備の軍隊。
その先頭には、エグゼと幾つも歳の変わらない少女がいた。
その軍隊の隊旗は、この大陸で最も力と権力のあるもの。
聖エルモワールの紋章だった。
そしてその軍隊を率いる少女こそ、この国の王女、ミスティライト・フォン・エルモワール、その人出会った。
エグゼとミスティの出会い。
また、画面は流れる。
少しずつ、エグゼとミスティが成長して、エグゼはただの一兵卒から、一足飛びに成長していく。
王女に見初められた、孤児。
類を見ない精霊との親和性。
歴史上最高峰の魔法力。
大精霊、精霊王との契約。
そして、出自も定かでなはい孤児であるエグゼが、ミスティライトと婚約。
これは国中が驚いたものだ。
いままでの出来事が、走馬灯のように、暗闇にいるエグゼの回りに映し出される。
そして、場面はもっとも見たくない記憶へと結びつく。
ミハエル。
エルモワール王。
戦場となった城。
そして。
ミハエルに『造魔』に犯される、王女ミスティ。
その場面を思い起こした瞬間、暗闇は一気に晴れエグゼを中心に炎が広がる。
ーー僕は、なにを呑気なことを言ってるんだっ!ーー
このままこの暗闇で心地よいまどろみに身を任せるだなど、と。
違う!
復讐だ。
この国を。
王を!
ミスティを!
僕自身をっ!
全てを壊したあの男を殺してやるんだ!
たとえこの身が滅びようとも、魂だけになってでも棺桶から這い出て、あの男を殺すのだっ!
右手に携えるは生まれたばかりの神剣。それは薪のように過去の篝火をさらに強く燃え上がらせた。
憎悪の炎は、さらに勢いを増す。
この大陸を、この世界を飲み込む程の炎。
それだけが、今エグゼが生きてる理由だ。
……。
焦熱地獄に身を落とすエグゼの後ろに、サニーが立っていた。
『エグゼ。あの美しかった心は、今……』
悲しそうにエグゼを見つめる。
柔らかな陽だまりのような麗美なエグゼの心象世界は、今や見る影もない。
『大丈夫だよ。エグゼ。その願いも私たち7大精霊と、精霊王の力があれば叶うよ』
後ろからそっと、エグゼを抱きしめる。自身も炎と化したエグゼが、サニーに襲いかかる。
『溜め込まないで。ここは、魂の世界。自分に嘘はつけないよ。自分の思うがままに、私と契約を交わしましょう』




