真実を写す瞳
町人たちは信じられないものを見るような目で、戦況を見守っていた。
ただ一人の人間が、万の軍隊に打ち勝つ。
さらには人間でもない、魔物でもない、それらをはるかに凌駕した、人造生命体『造魔』すら手玉に取っている。
「これなら、勝てるかもしれない」
たとえ、このシスカの町の人々が手助けにいかなくても、あの男ならひとりで10万からなる最凶の軍団を全滅させることができるかもしれない。
「パパ、あれは神様なの?」
幼子が錯覚するのも無理はない。
軍神。鬼神。
正にその名がふさわしい戦いぶりだった。
一撃で数十人を行動不能にし、その技が決まれば数百人を打ち倒している。
そして、大地の精霊に近しい魂を持ったドワーフだから分かること。
大地の倒れた人間の兵は誰一人として、死んではいなかった。
それはあの男が極限まで『手を抜いて』いたからである。
……。
人間の兵はすでに全滅。
残るは異形のモンスターたちだ。
さすがにモンスター相手ではだめだろう。
しかし、あの男なら……。
入り混じる期待と不安。
町人たちは、今や希望すら抱いている。
異形の魔物が進軍を開始する。
万の絶望。
しかし、それすらも寄せ付けないあの男。
ただの力任せではない。
そこには見たこともないくらいの技があった。
この大陸のどこに、これほどの芸当ができる者いるだろうか。
いや、この大陸にこれほどの戦力はない。
もし。
町人は思い浮かべる。
もし、最強と謳われた魔法騎士が復活すれば、あのソウマと肩を並べることができるかもしれない。
そうなれば、グランベルトに太刀打ちできるのではないか。
圧制に苦しめられている町人たちは、久しぶりに希望を見出したのだ。
この10万対1の絶望的な勝負の行方は誰にも予想できるものではなかった。
(あれは、なに?!)
戦場となった平原から少し離れた森の中に、アーニャ、たたら、ティアラの三人が潜んでいた。
もちろん、ソウマの戦いを見守るためだ。
最初は絶望を感じていた三人だが、ソウマの予想以上の強さに、たたらもティアラも、今は少し表情が和らいでいる。
そんな中で、アーニャだけが、一人恐怖を覚えていた。
それは、あのサイクロプスの魂のあり方が、生き物として常軌を逸していたからだ。
アーニャの能力は、『物事の本質を見極める』こと。
その複眼はサイクロプスの魂の深淵を覗き見ていた。
造魔の魂は、まだわかる。
元からあるものに手を加えられた、まさに造られし魂だ。
意思や感情、そういったものをすべて奪われ、代わりに命令を聞くことにすべてを捧げる、悲しい魂。
しかし。あれは。
なんだ?
あの魂の存在のあり方は。
人間? 造魔?
魔物、人、の魂の融合。そこに割り込むようにミハエルの魂がある。
これは、テレパシーや、遠隔操作と言った魔法の類ではない。
造魔に自分の魂を、『直接』繋げているのだ。
それをどのように実現したかはわからないが、ミハエルが前王の時からしていた研究の果てなのだろう。
魔法が使える状況なら、そこまで難しくはないかもしれない。
しかし、魔法の使えないこの大陸において、その技術を使えていることがおかしい。
いったい、どうやって?。
もっと近くで見れれば……。
白熱するたたらとティアラは気がつかなかった。まるで、魅入られたように、戦場へ向かうアーニャの存在に。




