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異人  作者: 蒼蕣
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解放

雇い主に戻ってこいと言われた。世迷言をと軽くあしらうつもりはない。

なぜならついに完全犯罪計画が完成したからだ。

依頼主はこれが私がやったとバレれば、私は全てを失うかもしれない。その前にその会社から撤退した方がいいと助言してくれた。

何をためらっている。

こんなの承諾するに決まっているじゃないか。

犯罪計画は作り終わった。もう、ここにいる意味はない。

何より依頼主が私を買ってくれなければ私の命はとうの昔に潰えていたかもしれない。

彼は命の恩人だ。彼が私に新しい人生をくれた。

彼がいなければ妻に会うこともなく、ここまでの財力を手にすることもなかっただろう。

戸籍がないため事実婚ではあるが、彼女が私の大切なものに変わりはないし、彼女が私の活力であることも事実だ。

いや、しかし雇い主の下でまた一から働くのは忍びない。懸念材料はそこだ。

今や私は会社の上層部それも専務にまで入社から十年で上り詰めた。

確かに依頼主が私に仕事場と名前をくれたのは事実だが、私の今の財力、地位、名声は私が自分の力で得たものだ。

これを手放せというのか。

たった十年でそこまで昇進できるのであれば、依頼主の会社でも短い期間で出世することができると思われるかもしれないが、十年という歳月は私にとっては二十年にも、三十年にも感じた。

上から見た光景を知ってしまった以上もう下には戻りたくない。

ああ、これじゃあまるであの時と一緒ではないか。

やはりこの世は人が人の上に立つ社会なんだ。

人を嘲笑い、貶し、手を差し伸べるふりをして狡猾に利用する。

ああ、人の上に立つことがなんと快感に感じるか。

こうなってしまった以上もう下には降りない。ひたすら上を目指すだけだ。

そうだ、このまま世界の頂点に立って全人類を見下して、自分を磨くために利用してやろう。

え、思想が危険だって? なに、思想なんて心に秘めていればいい。それだけのことだ。

私にはもう犯罪計画など必要ない。私の存在意義は他にある。

計画を練らなくても生きていける。

棗という守らなければいけない存在もある。

ようやく私は他の人と同じ生活を手に入れた。

ようやく私は過去の束縛から解放されたのだ。

もう私を地にはいつくばせる者はいない。

私はこの社会で自由に羽ばたけるのだ。

その時テレビに目がいった。

「今、五年前の総理大臣暗殺計画及び未遂事件に加わった政府関係者など五人に死刑判決が言い渡されました。理由につきましては、この犯行は非常に綿密に練られた計画的なものであるにも関わらず、犯人らの犯行動機が恨みや妬みの類ではない。彼らには感情が欠如している。犯人らは自分のやったことに悪気を一切感じておらず、故に反省の色も一向に表さない。彼らの思想は日本国を滅ぼしかねない。ということです」

そこには見知った顔が写っていた。

しかし私はもう彼になんの疑念も期待も抱いていない。

私はもう彼とは違う。彼の後を追っていたあの頃の私とは違う。

私は自分の道を見つけたのだ。

私は依頼主に願い出た。自分の胸の内を明かしたのだ。この感覚は棗に告白した以来だ。

「あなたの元には戻れません。わたしはこのまま自分の会社で頂点を目指そうと思います。私の作った計画は実行に移して構いません。社長が死んだとしても私が何としても立て直して見せます。

申し訳ありません。あなたの最初の願いである、我が社を潰すことを叶えることができなくて」

「構わないよ。君はもう立派な社会人、いや立派な人間だ。言っただろう私の願いはただ一つ、君が無事にこの世の中で生き残ることだと。君が今いる場所で幸せに生きていけると確証があるなら、それに従ってくれ」

十年という歳月ですっかり依頼主も衰えた。

会社もあれからどんどん業績が落ち、火の車といったところだろう。

「本当に今までお世話になりました!」

私は深く、深く頭を下げた。

「君は…自由だ」

その言葉で私は思わず涙を流した。

あの施設では未だに完全犯罪計画者を育成、排出しているだろうが私はもうそこから脱した。

きっと中には未だにあの施設でのトラウマが自分の首を絞めている者もいるだろう。

未だ社会に適応できず、犯罪計画を作り続けることしかできない者もいるだろう。

その計画を、自分たちを買ってくれた資産家に提供しているのだろう。

彼らの思惑通りに私は動かない。

私はもうすでにその束縛から解き放たれている。

犯罪計画など作らないし、もう必要ない。

私には他の者と同じく、富、名声、地位、そして家族がいる。

この新しい社会で自由に生きていける力を手にしたのだ。


その後私の最後の完全犯罪計画は実行に移されることなく、依頼主の会社が倒産した。

みなさん、ご無沙汰しております。予定通り来週で『異人』が完結するので、そのあと”あとがき”も書くとして六月から新たな物語を投稿します。タイトルは『ピースメイカー』。もっとかっこいいタイトル名が欲しいところですが、他に思いつきませんでした。世界の平和を維持するもの、のような意味合いを持たせたかったのですが、日本語だと長すぎてかっこ悪いと思い、英語にしました。”維持”を意味する英単語、私が思いつく限りは”sustain”, "keep", "maintain"あたりでしょうか。それらに人物を意味する”er"をつけるとなると、語呂が良いのは”keeper"ぐらいではないでしょうか。しかしこれは私の感覚ですが、keepを使うと、世界の平穏が古来よりずっと変わらず保たれているようなニュアンスになる気がします。しかし社会は常に変化しており、それに伴って平和も新しく作り変える。つまり平和のあり方は変わるものの、平和そのものは保持されるという意味合いにしたかったので”maker"にしました。

ちょっと説明がわかりにくかったですかね。まあとにかく平和のためには多少の犠牲はやむなし、ということです。ということで『ピースメイカー』、よろしくお願いいたします。ペースメーカーではないですよ…

もし今の説明に合う題名がありましたら、ぜひ教えてください。

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