安らぎ
仕事と同じようにもう一つの方も順調に進んでいた。
棗と出会ってもう四年。
別に毎日会っているわけではないが、毎週末は彼女と会うようにしている。
私に些細な心変わりがあったからだろうか。
彼女の過去を聞いて私はこんなにも根気強い彼女に惹かれた。
心が惹かれた、というのだろうか。もっと彼女のことを知りたいと思った。
仕事のことしか頭になかった私にもう一つの好奇心を与えてくれた。
彼女と行動を共にすればするほど、彼女の強さが身にしみて、逆に自分の非力さを痛感する。
彼女は諦めず不条理な社会に対抗し続け、彼女の今の地位を手にしている。
私は早々に諦め社会の流れに身を任せてしまった。結果外見だけは他のものと区別ないが、内面は全くの別物。
社会の大波に何度巻き込まれようとも、彼女は自力で空気のあるところまで這い上がってくる。そして、笑っている。
私はそんな明るい彼女を誇らしく思った。
社会の理不尽さ、差別を目の当たりにしてもなお、その笑顔を絶やすことはなかった。
私の連絡は相変わらず、単調だと軽く罵られるが、それでも以前よりかは感情がこもっていると褒められた。
施設では感じたことのなかった人との繋がり、それが生み出す暖かみ、龍興とはただの互いを研鑽し合うための道具に過ぎなかったのに対し、彼女との関係は一体…
毎週末特に何をするわけでもない。買い物に付き合ったり、互いの家にお邪魔になったりする。
最初に彼女を私の部屋に招き入れた時、彼女はひどく驚いていた。
男の一人暮らしには生活感が丸出しになるのが当たり前だと考えていたらしい。しかし私の部屋は綺麗で、生活感はあるものの、清潔さを保っていたという。男らしさを自重していると感じならしい。
それも施設での知恵だろう。
B、Cランクではそもそもゴミがあまり出なかった。強いていうなら新品の本に挟まっているスリップとその本を包装しているラッピングぐらいだろう。ものも最小限な分、散らかることはなかったし、食事はDランクは別としてB、Cは食べ残しやその時使ったナプキンなどは回収してくれた。衛生管理もそれなりに徹底していて、定期的に看守が部屋を綺麗にしろと忠告し、監房に常備されているちりとりで自分たちで床掃除を行なっていた。
中にはストレスで部屋中を散らかす者もいたが、私には縁がなかった。
あの施設には小学校の頃に連れて来られた人が多いせいか、はたまたいずれ社会に出ることを予想していたせいなのか、礼儀やマナーは看守から学ばされていたため、部屋を散らかすことがよくないことであると学んでいた。
身の回りの世話は自分でやるのがマナーだった。
何より本を読むこと以外何もやることのなかった我々にとって、ちりとりでは途方にくれる広さの独房をもらうようになってからは、汚くなった部屋を看守に言って借りた掃除機を使って綺麗にするのは頭の休息になっていた。
それが大人になって習慣付いているのだろう。ゴミなどは極力人目のつかない場所に、本なども綺麗に本棚に詰め、新聞は必要だと思われる記事は丁寧にファイリングし同じく本棚に並べ、他は捨てている。なるべく床には何も置かないようにした。
掃除機は毎日ではないが、一週間に一回は最低でもするようにした。キッチン周りも使い終わった食器や料理器具は溜め込まず、すぐに洗い、洗濯物も脱いだらすぐ洗濯機に入れるようにし、一週間分詰め込んだら回すようにした。
もちろん洗濯し終わった洋服は一枚一枚丁寧に畳むか、ハンガーにかけてクローゼットの中にしまっていた。
手こずらせたのはアイロン掛けである。説明書を読んで使い方は理解したものの、何か効率的に掛けるコツがあるのではないかと模索していた。
それを教えてくれたのは棗だった。
依頼主に部屋を与えられてから一度も引っ越したことはなく、ワンLDKのままだったが、昇進し、収入が増えた後も部屋を大きくしようとは一度も思わなかった。
彼女は私の犯罪系の本で埋め尽くされた本棚を見て、ただ一言。
「事件ものが好きなんだね」
私ははいともいいえとも言えない曖昧な返答をした。
だが、そんな私を尻目に彼女は
「今度私のオススメの推理小説持ってきてあげる」と言ってきた。
私は刑事でも犯罪を取り上げるジャーナリストでもない。
ただのサラリーマンの部屋の本棚一杯に犯罪の本が詰められているのを見て気味悪がられないか心配だったのだが、彼女のその一言でそんな心配は消え去った。
ご無沙汰しております。こちらに書くのは久しぶりな気がします。みなさんいかがお過ごしですか。大学三年目も終わり、五ヶ月間の長い夏休みに入りました。自伝の方でも述べましたように活動を再開します。自伝と物語を並行して行おうと思っています。物語に関してはまず、この『異人』も完結が近づいています。あと十ページです。一回の投稿で約二ページなので、来月にはフィナーレを迎えるでしょう。先週から物語の時がだいぶ流れました。実はもともと新商品発表のくだりは存在せず、会社に慣れた頃から一気に先週の分まで飛ばしていたのですが、さすがにあっさりしすぎだと思い、後になってつけ加えたのです。しかし新商品発表以外、このようなビジネスマンはどのような経験をするのかわからず、結局時間を飛ばすことしかできませんでした。
これから書く予定の物語、候補は四つあります。最有力は昨年書いた小説の続編です。残りの三つのうち二つは過去に書いた作品の続編にしようと思っており、もう一つは完全新作なのですが、どれも手元に資料がないので、保留にしています。資料というのは私の敬愛する星新一氏のショートショート集やバイブル、『王様ゲーム』などですが、カナダには持ってきていません。どちらも星新一氏の方は作品の題材に使うことが多く、『王様ゲーム』や『のろいあそび』、『猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』は私の闇の価値観をアップデートするのに使っていたので、これらがないと一作目ほど、いやそれ以上の面白い物語を書けない気がします。しかし昨年書いたものの題材は大学の授業で習ったことなので、記憶に新しく、手元にあります。
長々と語ってしまいましたが、とりあえずはその方向で活動を再開していこうと思います。もう少ししたら、次投稿予定の作品の紹介もしていこうと思っています。これからもよろしくお願いします。




