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異人  作者: 蒼蕣
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関係性

寄ってらっしゃい見てらっしゃい、などとは言えない。庶民向けの商品を売っているとはいえ、一応格式ある会社であるし、格式ある会場でそんなことをすれば爪弾きにされるだろう。

しかしどうやって客寄せをすればいいのだろう。

周りを見ると、特別何をしているわけでもなく、ただ目の前を通ったお客さんに会釈をしてから。「お時間よろしいですか」などといって足を止めてもらい、説明する。

横を見ると、すでに大友さんと佐伯さんはお客様を捕まえて雄弁に語り始めた。

その二人が演説をする後ろで鍋島くんが実演をしている。

新納さんと頴娃さんは客寄せをしている最中だ。

「新商品、従来のものとは全く違う革新的なかるた、これ一つで三つの遊びが楽しめるかるた、三位一体かるたです」

「小さいお子さんから小学生ぐらいのお子さんまで楽しく遊べるかるたです」

あんな感じでいいのだろうか。

「お子さんだけでなく、親御さんも一緒に遊べるかるた、これでお子さんとの遊ぶ時間を作るのはいかがでしょう」

なんとなく、CMのような言い方をしてしまったと思った。

とりあえず、呼び込みの時は手短に自分たちの商品が何かを告げるのが一番だろう。細かな説明は客が引き寄せられてからで。

そう思っていると早速二人のお子さんと手を繋ぐ、お母さんが立ち止まった。

チャンスと思い、ここぞとばかりにアピールポイントを述べた。

「いかがです。共働きであまり子供と戯れる時間が作れないお母さんお父さん、子供とどういう遊びをしていいかわからないお母さんお父さん、このかるたならお子さんと楽しいお家時間を過ごせますよ」

その言葉につられてくれたのか、先ほどのお母さんが近寄ってきた。

「ええ〜と、こちら我が社の新商品スリーウェイかるたでございます」

最初に言うべきことは確か…私は考えるそぶりを見せず頭をフル回転させた。

演説というのは大変だ。

頭の中に詰め混んだ記憶を急いで取り出し、喋る。もちろんただ記憶を再生するのではなく、遅すぎず、早すぎないよう聞き取りやすい速度で話し、強調したいところは言葉に緩急をつけたり、相手の表情や相槌にも気を配らなければいけない。実演をしている人たちと連携を取ることも考える。何より大変なのが、子供からの何気ない感想や質問だ。彼らは純粋であるがゆえ自分の思ったことをそのままなんのフィルターも通さず発してしまう。それを親御さんは親身になって聞き入れる。もしそれがこの商品を酷評する形なら、親御さんは子供が嫌ならいらないやと言って離れてしまう。つまりそんな疑問やコメントをいかに丁寧に包み込み、子供を納得させ、親を引き止められるかが売り上げの鍵となる。

たまに突拍子もなくこれ嫌だと即答するお子様もいる。その理由を聞きたいところだが、なにが嫌なのかとはこちらからは聞けない。何より子供は論理を知らない。感覚でものを話すから、理由を聞いても「何となく」か「わからない」が返ってくるだけだろう。親が子供に聞き耳を立て、本心を察してくれるを祈るか、子供が自分の意見を変えるまで懸命に子供心をくすぐることを言い続けて粘るしかない。

それにしてもこれでいい反応を見せてくれたお客様の中で実際に店に行って買ってくれる人はどれだけいるのだろう。

この商品発売は一週間後、それまでお客様の記憶の中に留めていただけるほどのインパクトがこの商品、あるいは私の演説力にあるのだろうか。何より子供は飽き性だ。今これが気に入ったと言っても一週間後には飽きられてしまっているかもしれない。

「何考えてるんですか?」

隣にいた新納さんが手が空いた隙を伺って話しかけてきた。

「いや、実際この発表会に足を運んで、うちの商品がいいって言ってくれたお客様の一体何割ぐらいが売り上げに貢献してくれるだろうと思いましてね」

「そんなこと誰にもわかりませんよ。未来のことなんですから。もしかしたら雀の涙ほどなのかもしれません」

「…」

「もしかしてだったらこんなことをしても無駄じゃないのか、なんて思ってませんか? 言いましたよね、未来のことはわからないって雀の涙ほどかもしれないし、逆にここで手応えを感じたお客様全員が買ってくれるかもしれないんですよ。そんなチャンスを棒に振るうわけにはいきませんよ」

「新納さんの言う通りです」

話を聞いていたのか頴娃さんも会話に入ってきた。

我々はお客様の信用と信頼があるから新商品をどんどん売ることができるんです。それはつまり私たちも買ってくれるお客様が必ずいると信じているからですよね。クライアントとカスタマーは常に互いを支え合っていきてるんです。もし我々が一方的にその関係を断ち切ってしまえば、我々は終わりですよ」

利害が一致する関係、いや持ちつ持たれつの関係というやつか。それはあの施設で完璧な犯罪計画を完成させるために日々努力してきた我々とその計画、そして育て終わった我々を売っていた看守や、あの施設の職員らみたいな関係のことなのか。それとも完全犯罪計画を生きがいとしている今の私と私を買い、完全犯罪を依頼して今の私の全てをくれた依頼主のような関係ことのを指すのだろうか。

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