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異人  作者: 蒼蕣
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違った恐怖

発表会は無事に終わった。

正直スクリプトを覚えるのに必死で発表はろくに聞いていないのだがな。

流石に失礼だと思って発表会の間はスクリプトは見ていなかったが、頭の中でずっと復唱していた。

一通りの発表を聞いて、やはりうちのが一番いいと自負できる人は少ないと思う。

私自身他の人の発表を聞いていて納得したところや今度真似してみようと思ったことがたくさんあった。

それにしてもやはり円城寺さんはしっかりしている。

覚えたスクリプトを一字一句忘れることなく伝え、常に自信に満ち溢れた堂々とした佇まいをしていた。これだけの観衆がいるにも関わらず。

台本を丸暗記し、それを全て伝えようとすると、どうしても口調が早くなってしまうこともあるが、彼は常に冷静に、簡潔に紹介していた。

もちろんその間のボディランゲージも私から見れば完璧に思えた。

質疑応答の時も臨機応変に対応、悩んでいるそぶりも見せず即答していた。それだけ商品のことを理解しているのだろう。円城寺くんの商品をもっと知ってほしいと言う気概が感じられた気がした。

私であったらあの〜やその〜などの場つなぎ語を多用してしまうだろう。

点数をつけるなら文句なしの満点と言えるだろう。

とはいっても流石この公の場で演説する人たちだ。自ら推薦したのか、多数決で決まったのかは知らないが円城寺くんのみならず発表者全員がプレゼンで躓くことはなかった。

痛いところを突かれても長所を強調することで難なくかわして見せた。

正直彼らには脱帽した。自分も見習わなくてはと思った。

そしてそれを試す機会がもう直ぐ始まる。

各自自分の持ち場につき、お客の入りを待った。どれだけの人がくるかは知らされていないが、先ほど外を見てきたという江里口くんによるとたくさんの人が外で列をなして並んでいるという。

それを聞いただけで胸が締め付けられる思いだった。これが緊張というものか。心が締め付けられる思いといえば、恐怖心しかなかったがそれとは違う。苦しいわけではない。身が引き締まるというのが正しいのだろうか。しかし恐怖心と同様早く解放されたいと思う。恐怖心に打ち勝つには諦めるか恐怖心に負けない精神力と忍耐力を身につけること。しかし緊張に打ち勝つにはどうすればいいのだろう。さっきの円城寺くんたちみたいに堂々と振る舞えばいいのだろうか。空回りしないだろうか。

「大丈夫ですか」

隣にいた江里口くんが顔色を伺って来た。

「課長も緊張するんですね」

江里口くんが少し笑った。それにつられて私も少し微笑んだ。顔に出ていたのか。私としたことが…

「え、ええ。緊張というのに慣れていなくて…どうすればいいでしょう」

「課長にも弱点があって安心しました。そうですね、深呼吸して気持ちを落ち着かせること。あとは自分が今日までやってきたことを信じること」

「今日までやってきたこと?」

「はい。今日まで僕たち頑張ってきましたよね。そんな今までの努力が無駄じゃないって思い込むんです。そうすると自信に繋がりますよ。自分のやってきたことは正しかったんだって。今までたくさんのヒット商品を生み出してきた企画の神様の白谷課長が手がけたんです。成功しないわけがないじゃないですか」

彼のアドバイスを聞いて少し気持ちが和らいだ気がした。

そうか緊張というものは相手に貶されるかもしれない、相手の期待に沿うことができないという恐怖心からくるのか。

この時初めて自分は過去の自分とは違う、自分は今別の世界にいることを実感した気がした。

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