緊張
式場のスタッフによって私たちは十七番テーブルに案内された。
白いテーブルクロスが敷かれた木製のラウンドテーブルを囲むように椅子が十席用意されていた。
壇上を背にする二つの席以外を埋めた。九人目の円城寺くんは発表者なので今は壇上で準備をしている。
壇上を直線から眺められる席に部長、そこから時計回りに大友さん、島津さん、江里口くん、新納さん。そして二席あけて、私、佐伯さん、頴娃さん、蒲池さんの順番で座っている。
ここは壇上から見て右側端のテーブル。私の席からはちょうど角度的に壇上は見づらい。
今回の発表会は二段階に分かれている。一つは今私たちがいる会場で行われる新商品の発表会。参加した各会社代表者一名が壇上に上がり新製品の発表を行う。演説の長さは決められていないが、まあ一会社質疑応答時間も含めて十五分といったところだろう。会場に来ている三十近くの会社のうち実際に発表するのは二十社程度だ。つまり、ここで約三時間近く過ごす。
三時間も過ごすのだから飲み物は提供される。選べるのは二種類、コーヒーか紅茶。アイスかホットかも選べるので実質四種類か。もちろんタダだし、飲み放題だ。近くのスタッフに言えばいつでも持ってきてくれる。しかし流石に誰かが発表している最中に呼ぶものはいないだろう。ちなみに私はコーヒーより紅茶派だ。それもストレートで飲むよりかは、レモンを沈めておきたい。
発表会が終わったら、会場を移動する。
先ほど私たちがブースの準備をしていた会場だ。
そこでは玩具メーカーの社員だけでなく、お客様にも参加していただき、好きなブースを回ってもらうシステムだ。販売はしないが、お客様の前で実演し、興味を持ってもらう。ここでの良し悪しがきっと販売にも響くだろう。
お客様と言うのはご贔屓にしてもらっているお得意様から初めての方、そしてもちろん主役であるお子様のことである。
お得意様から引き続き当社の商品を贔屓にしてもらう傍ら、当社以外の顧客も引き抜こうというまさに弱肉強食な展示会となるだろう。
所要時間は実に四時間。常に多くのお客様でごった返すと思われる会場をわずかな人数で捌かなければならない。我が社では演説する人が五人、それに合わせて実演する人が四人。残りの一人は部長だ。手が開けば勧誘なども行う予定だ。ちなみに私は開発した班の班長なので演説係だ。本当は実演をしたかったのだが、実演は体力を使うと言うので江里口くん、蒲池さん、円城寺くん、そして島津さんの四人が担うことになった。喋ることも十分疲れると思ったのだが、部長が決めたことなので逆らえなかった。何より我々は開発部、こういった表立った仕事は門外漢である。なので慣れてないことばかりでより一層疲れるだろうと予測できた。
と言うわけなので、発表会が始まるまで私は演説用のスクリプトを頭に叩き込んでいる。
もちろん発表会の演説用とは違い、専門用語がなくお客様にもわかりやすいスクリプトだ。人と話すのが嫌いな自分ができるかと非常に不安だ。人の目を見て話す、表情を豊かに、早すぎず遅すぎず、決して聞き手を飽きさせてはならない。きっと他の人たちは中学や高校で学習済みだろうが、私にその経験はない。これこそ緊張というものなのだろう。




