昇進
交友関係は前途多難な気がするが、仕事の方はうまく行っていると言えるだろう。
あの施設のように進級試験があるわけではないが、着実に会社の上層部へ上り詰めているのを感じている。
私は新商品の開発に尽力し、その度に恩恵を受けている。
私が担当した商品のほとんどがヒット商品となり、いつしか私に新商品の開発を頼むのが一種のジンクスになって行った。
通常なら新商品の開発、それも指示する側に立つのは最低でも五年かかるらしいが、私はわずか半年でその地位に上り詰めた。これは前代未聞の偉業だと人は口々に言う。
なぜだろう。周りの人はある程度の商品を開発するとその歩みを止めてしまう。それはヒット商品を開発したことに満足し、陶酔してしまったか、はたまた画期的な商品を作れる創造力が尽きてしまったかのどちらかだ。
新商品の開発に終わりはない。それなのに私はその意欲が尽きることはなかった。それはおそらくあの施設での過酷な経験が功を奏した結果と言えるだろう。あの時は今まで存在しなかった完全犯罪を作らなければ、死んでしまうという危機的な状況だった。それに比べると、新商品の開発は私にとっていくらか楽に感じた。
ここまで来てしまえば依頼を完遂しなくても生きていくことができるだろう。
いやそれよりもこのままこの会社で働き続ければ、私はようやく他の人と同じ、”普通”の生活を得ることができるのだろう。
しかし私は自社の情報を依頼主に提供することをやめなかった。
私は未だ自分の存在意義、自己顕示欲に囚われていた。
自分の新商品の情報を提供しているのにも関わらず、依頼主の会社の業績は一向に伸びなかった。
それはきっとネームバリューに差ができてしまったためであろう。
ネームバリューとは客が商品を選ぶうえで重要な要因の一つであろう。
ネームバリューの低いところは値段を安くすることで客を集める。
対してネームバリューの高いところは多少値段が高くても安心と実績があるため、客は集まってくる。
我が社と依頼主の商品、どちらも似たような性能と機能を持っている。
が、ネームバリューに差がある。今や我が社の方が有名な分、多く売れる。
私が情報を漏洩している分、依頼主は我が社を上回る性能を搭載した商品を出してくるだろう。しかしその場合、ほぼ確実に我が社のものより値段は高くなる。
大手同士の商品でどちらを選ぶかはやはり値段であろう。
つまり結果的に大手なのに比較的安い我が社の商品が多く売れるのである。
大ヒットを連発する我が社はどんどん他社を突き放す。
要するに私がこの会社にいることが結果的に依頼主の会社を傾けさせている、と時々思う。
私が入ってから売上げが右肩上がりになったため、多く人が私の周りに集まり始めた。
私の名前は開発企画部にとどまらず、会社全体に知れ渡った。会社内で知らぬものはいないとまではいかないが、過半数が私のことを認知しているらしい。対して私はそのほとんどと面識がない。
会社の社長から会社の業績向上に貢献した者に送られる名誉勲章のようなものも授与された。
中には私に嫉妬するものもいたが、多くのものが私に期待を寄せていた。私がいれば、この会社は安泰であると。
普通なら周りの期待に応えまいと圧を感じてしまい、プレッシャーに押しつぶされてしまうそうだが、私は違った。
常に死と隣り合わせだったあの頃に比べれば、全く苦に感じなかった。
私は周りの期待に応えながら、次々に新商品のアイデアを、今顧客が求めているものを具現化した。
こうして私は開発企画部の部長になった。
それは会社に潜入してから二年ほど経った頃のことだった。




