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異人  作者: 蒼蕣
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束縛と解放

彼女は私に全てを打ち明けた。

思い出したくもない過去の記憶を苦しみながら私に話した。

こんな私を信頼してのことだろうか。

私が誰にも話さないとわかっていたからだろうか。

そうかもしれないが、彼女は一刻も早くその苦しみから解放されたかったのだろう。

中学校からずっと悩んでいたのだろう。誰にも相談できず、一人で。

中学校から今の今まで、長い間ずっと葛藤していたのかもしれない。

それは私でさえ感じたことのない苦悩であろう。

私も彼女と同じような経験をしたが、苦しみはほんの数年で消え去ってしまった。否、自主的に消したのだ。向き合わず逃げたのだ。

苦しんでも仕方がないと諦めてしまい、その結果感情を失った。

だが、彼女は違った。ずっと模索し続けた。ずっと解決方法を見出そうとしていた。それは彼女と私が異なる社会にいたからだ。

私はたとえ感情を失ったとしてもあの施設、あの社会で生きるのになんの不便を感じなかった。

しかし彼女の住んでいた社会では感情を失えば、社会の流動に飲み込まれ、取り残されてしまっていただろう。なぜなら人との交流が重要だったからだ。孤独になりたくないという一心で、努力し続けたのだろう。

全てを話し終えた彼女の表情はどこか明るく感じた。

話し始める前から明るく感じたが、あの時はあくまでそう振る舞っていたに過ぎない。社会の波に悶えながらも必死でついて行こうとしていた。しかし今、私に話すことによってようやくその波に他の人と同じように乗ることができたのだろう。

私も自分の本心を出すべきか迷った。彼女の表情を見てそう思った。

私も自分の過去を話せば、きっと彼女のように感情を取り戻すことができるのだろう。

いや、そもそも私の身に起こったことを話して、果たして彼女は信じてくれるだろうか。

私が、小学校の頃ある施設に囚われ、犯罪計画を作らされていたなんて。その犯罪計画で犠牲になった人もいるかもしれない。しかも、私の存在は書面上には存在しない。今働いている会社も自分の実力で勝ち取ったものではないと。

そんなことを言えば彼女は失望するだろうか。

そしたら、彼女は自分の過去を私に話してしまったことを悔いてしまうだろうか。

いや、彼女ならきっと私の気持ちを汲んでくれるだろう。

形は違えど、私も彼女と同じように差別的扱いを受け、努力で自由を勝ち取った。その事実に変わりはない。

私は彼女を見つめた。彼女の笑顔が眩しく映る。

悩んだ挙句、私は深呼吸した。

今はまだ話せない。

私はまだ完全な自由を得たわけではない。

私はまだ自分の価値観に束縛されている。

私は他の人のように学校に通ったり、人と会話したり、親から社会に進出するため礼儀や作法を学んでいない。

普通であれば私は生きられないだろう、地位や富、能力が全てのこの社会では。

それなのに私は生きている、いや生かされている理由は全て依頼主に雇われているからだ。

完全犯罪を作ること、それが私の存在意義だ。

彼女に全てを話してしまえば、当然その計画はご破算となる。

そうすれば、私に残るものはなんだ。何もない。

生きることを諦めざるを得ない。

そんな死への恐怖が私の願望を抑制しているのだ。

結局この日私は過去の自分から解き放たれることは叶わなかった。

しかし、彼女との距離は縮められた気がする。

こういった交友関係がいつの日か私を過去の束縛から解放し、明るい未来へ導いてくれるのだろう。

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