言葉の本質
—ごめん、迷惑だった?—
そう返信が返って来た。
日本人は言葉の本質を見抜くのがうまいと聞く。先ほどの私の発言を一体どう解釈したのだろうか。
結構自重したつもりだったのだが、気に障ってしまっただろうか。
何か返そうとする前に、続けて返信が来た。
ー会えて嬉しかったからー
これは建前だ。決して憧れの人に出会って感動したというような風に言っているのではない。
この言葉から察するに彼女は寂しかったのだろう。
多分過去の彼女を知っている人物を探していたのだろう。
何かありましたか? と聞こうと思ったが、思い止まった。
きっと、彼女にも何か事情がある。赤の他人である私がズカズカと侵食していい領域ではないと感じた。
こんなときどう返すべきなのか迷った。
これだから自分から話を振るのは嫌なのだと後悔した。
悩んだ挙句最初の返答に対する返事を打った。
—いえ、迷惑ではないですけど。ただ、こんなに人と話すのは初めてなので、勝手がわからなくてー
—克くんは引っ越した後どこに行ったの?—
せっかくこっちが相手の過去を詮索するのを避けたのに、相手は何の躊躇もなく私の黒歴史に付け込んでくる。
いや、これは単なる好奇心だろう。誰もあの後変な施設に連れて行かれて犯罪計画を作らされていたなんて想像できないだろう。
—中学校に行きましたー
—それは、そうでしょー
呆れられた。当然か。普通は小学校を卒業すれば中学校に進むからな。
—そうじゃなくて、どこの中学校に通ってたの?—
中学校は行ってませんと本心を言うことはできない。ここは適当な地名を言うべきか。九州か。北海道か。それとも外国か。
ただ、その場所の観光名所を聞かれたら、嘘だとバレてしまう。ここは慎重に答えなければ。
—隣の市の中学校にー
その返信と同時に自分の給料で購入したノートパソコンを開いた。
隣の市の中学校を調べるためだ。
普通どこの中学校という質問に対し、その中学校がある場所と中学校の名前を言うべきだろう。
検索エンジンで最初に出て来た中学校のホームページを開いた。
もしどんな学校って聞かれた時に、その特徴を言えるようにだ。
しかし、彼女はそれ以上の言及はしなかった。
—克くんならどんな中学校に通っても余裕だったろうね。成績良かったしー
その言い方から察するに彼女は中学校で苦労したのだろう。
もしかしたらいじめか。
よく推理もので学校でのいじめをきっかけに犯罪に手を染める登場人物が出てくるが、彼女もその類だろうか。
しかし、もしいじめだとしたら余計に言及はできない。
—そういえば、普通のサラリーマンって言ってたけどどこの会社? あ、言いたくなければ言わなくても…—
—□×社ですー
今度は速やかに答えられた。当然だ。今度のは事実を言えばいいのだから。
—え、あの有名な! すごいね!—
—私も大学で猛勉強して△○□社に就職したんだー
まただ。今の言い方だと、中学、高校で何かあったと察しがつく。
いやもしかしたらわざとそう言う言い回しをして、過去に何があったのと聞いて欲しいのだろうか。
それはつまり彼女は自分の過去を話すことによって私に慰めを求めているのだろうか。
それによって彼女の気持ちが楽になるのであれば、もちろんそうしてあげたいが、もし違ったら…
これが会話か…難しいな。




