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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【七章連載中】  作者: 村本 凪
胡蝶が舞うは夢か現か

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それぞれの至高

「力比べ以来だ」


「えぇ、そうね」


「今日は旅立ちの挨拶かい? それとも大欲がままに、新たな知識まで貪りに来たかい?」


「後者の意識で悪魔殺しを務めていたら、今頃は現世を守(・)ろ(・)う(・)と(・)し(・)た(・)英雄の一人に数えられているでしょうね」


 ダンタリアが生み出した秘密の結界。そこでは数日振りに、ハプスベルタとマルティナが言葉を交わしていた。


 冗談と返しからも分かる通り、この場をマルティナが訪れたのは挨拶のため。敵同士であろうと世話になったハプスベルタへ、戦場に赴く事を伝えるためだった。


「ハハッ! 私としては国民に届かずとも、凡百に手が届くほどの剣を遺して欲しいと思うが。あいにく少年も君も、自前の魔法で武器をこしらえてしまうからね」


 ハプスベルタとしても、戦士が戦場に向かうのは望む所。その魂が全霊を発揮できる様、敵対関係は忘れて盛大な鼓舞を以て送り出そうと考えていた。


「そうね。普(・)通(・)な(・)ら(・)私の死と一緒に、振るった得物も霧散してしまうでしょうね」


「ん? 普通なら?」


 だが、ふとマルティナの言葉に引っかかりを覚える。彼女はまるで自身の死によって霧散しない武器を、次なる戦いで振るうかの様に語って見せたからだ。


 確かにマルティナは普段から、模倣の基礎となる槍を背負ってはいる。しかし、折ったり砕いたりすれば、そのまま力は半減してしまうようなもの。あくまでも儀礼用の刀剣等と一緒で、最終手段としても用いられないような武器なのだ。


 けれどもマルティナは曖昧さを残しつつも、自身の死後も形を残す武器を振るう予定があるかの様に語った。そうなれば剣の魔王であるハプスベルタにとって、この場は重要でありつつも退屈な激励の場では無くなってくる。


「せっかく専門家がいるのだもの。審美眼を頼りにしても、良いかもしれないと思ったの。アマハラの結界内で使用する予定の槍五本。この中から三本程度、見繕ってくれないかしら?」


 この場をマルティナが訪れた一番の目的は、始めにも語った様に挨拶のためだ。けれど、たったそれだけのために魔王の顔を借りるのは、下手を打てば非礼と取られる可能性もあった。


 夢の魔王討伐作戦を前にして、関係のない魔王の怒りを生み出してはいけない。かといって、挨拶をしなければしないで、ハプスベルタの怒りを生む可能性がある。


 その板挟みと呼ぶべき非礼を呼び込まぬため、マルティナは挨拶以外の目的を用意していたのだ。擬井制圧(ぎせいせいあつ) 曼殊沙華(まんじゅしゃげ)内での使用が予定された、槍の目利きを。


「......主な用途は?」


 果たして、マルティナの思惑は上手く当たったようだ。先ほどまでは彼女を激励しつつ、どこか目に活力が感じられなかったハプスベルタ。しかし今は、ギラギラと殺意と見紛う程の光が瞳から槍へと放たれている。


 戦闘における役割まで聞き出してきた時点で、言葉にせずとも目利きには応じたものと取って良いだろう。


「内向きの変化魔法使い複数体を相手取った遊撃。ただ、チャンスがあればトドメを刺す事も厭わないわ」


「つまり、本格的な戦闘は極力避け、打ち勝つ事よりも戦場に長く留まる事に重きを置きたい訳だ」


「えぇ。大体はそんな感じ」


「教鞭を執った側として、その判断は評価しておこう。ハッキリと言ってしまえば、君は立ち回りそのものはともかく、剣の扱いがなってないからね」


「そんな事は言わなくても分かってるわよ。じゃなきゃいくら模倣品だとしたって、アマハラにもハプスベルタにもあんなポキポキ折られたりしないわ」


 あらためてハプスベルタから伝えられずとも、分かっていた内容だ。


 マルティナは魔法の特性もあって、用いる武器を常に消耗品だと考えて振るってきた。戦法も数を使った面制圧に重きを置き、近距離戦闘は及第点レベルの努力で終わっていた。


 だが、ここに来てマルティナは、自身の魔法に頼れない戦闘を強制される事となった。槍は何としても複数本は持ち込む予定だが、数が増えれば機動力が落ちる。そして、そもそも使い手の技量が低ければ、遊撃だろうと数回の使用でダメにする可能性もあった。


 そして、擬井制圧 曼殊沙華の中では、槍の補給すら満足に行えない。木刀だけなら翔の余裕次第で受け取れるかもしれないが、槍以外で近接特化の内向き変化魔法使いの悪魔を抑えるのは至難の業であろう。


「なら、何よりも大切なのは強靭さだ。君から見て、右から二本目。総合的な耐久性は、その一本が至高と言える」


「えっ、これ?」


 マルティナとて、自身の問題は十分に把握している。そのため持ち込んだ物は、いずれも耐久性に優れていると評価を下された槍だけだ。


 けれど、ハプスベルタの選んだ槍は、その中でも一番細い槍だった。見ただけで、硬質な素材だと分かる槍がある。普段の槍より重量があるものの、一回り太い槍がある。だというのに、彼女は細い一本を即決した。マルティナの頭に疑問が浮かぶのも仕方ない。


「不思議だって顔だ」


「そりゃ、そうでしょ?」


「ならさっさと、所感を伝えておくとしよう。君が一番だと考えていた硬質な槍。それは硬さこそ一番かもしれないが、耐久性と考えれば不安が大きい」


「どういうことよ?」


「衝撃を逃がす性能が低いって事さ。攻めに転じる分には、硬さは貫通力となって君を支えてくれるだろう。だが、その槍で内向きの変化魔法使いの拳なんて受け止めてみろ。一発で曲がり、もっと悪ければ折れる。その槍は決闘のような、逃せない一戦で用いられる槍だ」


「......続けて」


「次に目を向けた重くて太い槍。それは耐久性こそまぁまぁだが、使い手の特性からあまりにもかけ離れている」


「私と相性が悪いって事?」


「そう。重くて太い槍というのは、時に鈍器として甲冑の内にある頭を割るためのものだ。剣の扱いすらままならない少女に、鈍器の扱いは身に付いてるかい?」


「......いいえ」


「あぁ。必ず持て余すだろう。そして、ただでさえ機動力が求められる遊撃戦を、そんな重りで殺してしまっては元も子もない。悪い事は言わない。その二本は持ち出さず、もっと優れた使い手のために残しておくといい」


 そう言い切ったハプスベルタの顔は、これからの戦いがありありと予想出来ている様子だった。


 マルティナと武器を提供してくれた教会関係者。どちらも現代においては武器への理解が深いかもしれないが、所詮は知識として身に付けた部分が大半。その生を戦いに費やしてきたハプスベルタと比べれば、目利きも判断力も大きく劣っているのは仕方ない。


 むしろ、この場で指摘して貰えて幸運だった言えるだろう。さもなくばマルティナは適性の合わない槍まで持ち出して、余計な苦労まで重みとして背負い込む事になっていただろうから。


「こっちの二つについては分かったわ。けど、どうしてこの槍が至高なの?」


 ハプスベルタが否定した二本は、マルティナが持ち出した中でも特異な槍。言うなれば、一芸特化とでも呼ぶべき槍だった。


 そのため、適性が合わないといって否定されるのは仕方ない。けれど、ここまでの説明では、残った三本の中から至高の一本が選び出された理由が分からなかった。


 一見しただけの違いは、選ばれた一本が一番短い槍である事くらい。むしろ、短いという特徴は、小さいチャンスで決定打を叩き込まねばならない遊撃と噛み合ってないように見えた。


「その槍が一番である理由か。まず、一目見て靭性が高いと分かった点。良くしなって良く曲がる槍は、衝撃を受け流す点に優れている。耐久性という面では、これ以上ない評価点と言えるだろう。それに_」


「それに?」


「その槍は、君が背負う槍に一番近い。性能面に重きを置くのも良いが、窮地で輝くのは何千回と繰り返した動きだ。その点では使い慣れた槍こそが、一番の至高であると言い切ろう」


「あっ......」


 確かにハプスベルタの言う通り、マルティナは環境への適応ばかりで使いやすさを後回しにしてしまっていた。


 どの槍も使い心地は確かめていた。その上で抱いた違和感は、仕方がないと押し込めていた。けれど、ハプスベルタは誤魔化さなかった。マルティナの近接戦闘技術が低い事も鑑みて、余計な背伸びは寿命を縮める警告してくれたのだ。


「こんな単純な問いにすら答えを用意出来ぬほど、事態は急速に進んでいるんだろう? どうせイメージトレーニング程度で修練を終えていたんだろうから、ここらでハッキリと使い心地を確かめてはどうだい?」


 それは確信を突く答えである一方で、ハプスベルタの望みがこれでもかと透けている言葉であった。


 せっかくの集まりで、重ねるのは言葉ばかり。そして、今まさに言葉すら、ピリオドが打たれようとしている。ハプスベルタは言っているのだ。魔王との戦いこそが、使い勝手を確かめる一番の方法ではないかと。


「......言う通りね」


「なら、もう言葉は不要か。存分に私を練習台とするがいい」


 ハプスベルタとマルティナが同時に立ち上がり、周囲の景色が会話を行うのに適した部屋から砂が飛ぶ荒野へと変じていく。


 一迅の風と共に両者は距離を縮め、次の瞬間には大きな火花が舞い散るのだった。

次回更新は10/10の予定です。

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