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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【七章連載中】  作者: 村本 凪
胡蝶が舞うは夢か現か

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創造魔法で生み出された世界は

「上での話し合いは、順調に終わったようだね」


「今さら盗み聞きすんなとは言わねぇけどよ。そんなら顔を出して、俺らの不備を指摘してくれても良かったんじゃねぇの?」


 それぞれの担当する相手を大雑把に決定し、また一つ夢の魔王との決戦準備を進めた悪魔殺し達。


 マルティナとニナの二人は、これから決戦で使用する事になる武具を調達するために外出。そして残った翔と姫野は、ダンタリアと大熊が待つ大図書館へと移動していた。


「いやいや、自由な発想というのは、時に模範解答を凌ぐ完全解を導いたりするものさ。そうでなくとも、前回から引き続いて私は十分に手を貸した。これ以上は保(・)護(・)者(・)としても、看過出来ない依存度になるんじゃないかい?」


「いきなりこっちに振ってくんな。チッ、けどまぁ......そこんとこは、その通りだ」


 二人がダンタリアの下を訪ねたのは、必勝の要である翔の世界創造のリハーサルをするため。結界内は現世とは別空間となっており、この場のメンバーは少数精鋭。つまりはどんな事故が起ころうとも、被害を最小限に留める用意が備わっているのだ。


 だが、いくら環境が最上であろうと、この場は魔王の腹の中。ダンタリアが込めた皮肉の様に、依存しすぎれば足元を掬われた時に起き上がれなくなる。


「すんません。大熊さんの思いとは真逆で、またこうしてダンタリアの手を借りちまって」


「違う違う! 翔が申し訳なく思う必要なんて、どこにもねぇ! それもこれも、まともな設備の準備や人員の派遣なんかを実行出来なかった俺の落ち度だ!」


 しかし、そこで代案を出せない所が、現世の貧弱さを物語っていた。


 世界の魔法組織を片っ端から尋ねていけば、もしかすれば同レベルの環境を整えられる場所が存在するかもしれない。けれども、国防の要である悪魔殺しを、どう日魔連に文句を言わせず出国させるのか。そして、環境を借り受ける際の料金を、どうやって支払うのか。


 途方もない準備と政治的な駆け引きが絡まり合うのは確実。決定を下すまでに年が明けていても不思議ではない。加えて、時間的な余裕なんてものは、どれほど残されているかも分からないのだ。


 そうなれば、ダンタリアにお伺いを立てるしか無くなる。交渉の度に取引材料はみるみる目減りしていくが、日本と悪魔殺し達のためには必要経費と割り切るしかなかった。


「大熊が慌てふためく様はいつ見ても愉快だけど、時間の浪費は仕事を終えてからの方が望ましい。少年、悪いが準備に入ってくれるかい?」


「お、おう」


「テメッ、自分から振っといて、いけしゃあしゃあと......!」


 大熊はまだ何か言いたげだったが、いざこざが再開すれば時間の浪費はさらに進む。翔は気遣うような目線こそ送ったものの、ダンタリアの指示を優先させた。


「この白線を座標にすればいいんだよな?」


 普段はテーブルや本棚のせいで雑多なイメージが強い大図書館だが、現在は床に長方形の白線が引かれている以外は、他に何も存在しない一画が出現していた。


「そう思って構わないよ。白線内部の広さは、縦が十メートルで横が十五メートル。少年が一番目にしてきたであろうコ(・)ー(・)ト(・)を参考にして、勝手ながら線を引かせてもらったよ」


「そんな所まで盗み見してんのにはツッコミを入れてぇけど、たぶん創造魔法的にはそれが正解なんだと思う」


 ダンタリアが生み出したコートの広さは、まさに翔が長年の立ち合いに利用していた道場のサイズそのもの。意識して周りの風景を除外してしまえば、すぐにでも大悟との立ち合いが鮮明に頭の中で浮かんでくる。


 そして、創造魔法の特性を考えれば、こういった細かい準備こそが成功の秘訣なのだろう。


 翔が生み出そうとしているのは、敵と自分だけを隔離して一対一を行う空間。そのイメージの基となったのは大悟との立ち合いであり、ならば彼の実家こそが、戦場として一番ふさわしい。


「それじゃあ、私も移動するわね」


「あぁうん。本番はこんな都合よくは行かねぇけど、これが一発目だからな」


 翔が白線の内側に立ったのを見計らって、姫野も中へと移動する。これが本番である夢の悪魔との決戦中なら、辺りは夢の悪魔まみれ。指定した座標内に存在する悪魔も、たったの一体では済まないだろう。


 しかし、本番一発目である今回は、あくまでも自分と敵だけを現世から切り離すのが目的。世界の構築と望んだ人数の隔離に成功してしまえば、後は反復練習で人数を限定する感覚を掴んでいくつもりだった。


 さらに、決戦中は数回も発動すれば、悪魔側もカラクリに気付いて距離を取り出したりするだろう。そうした場合にコートとなる場所の範囲外からでも、捕捉した悪魔だけを世界に取り込む力。これも完成させねばいけない。


 全ては今回の一発目次第だが、その後にもこなすべき課題は山の様に積まれているのである。


「大熊さん、ダンタリア」


 今回の失敗は、自分一人の被害で済まない可能性がある。それを本番が近付いて思い出したのか、翔は確かめる様に保護者達へと声をかけた。


「こっちを気にする必要は無いよ。何かしらの異変を察知したら、すぐにでも大熊が世界に干渉を始める。真っ向勝負の強さについては、少し前に味わっただろう?」


「そういうこった。本当なら麗子がいねぇと別世界への干渉なんて出来ねぇが、こいつの手広さは分かり切ってるだろ? ガッチガチの契約を固めて、緊急時は世界に干渉する補助をもらう手筈になってる」


 けれど、翔とは違って、あちらは百戦錬磨のベテラン達。当の昔に準備も覚悟も決めており、浮足立つ様子は見られなかった。


「それじゃあ、神崎さん」


 両者の様子で少しだけ余裕が生まれた翔は、そのまま対面に立つ姫野へと声をかけた。


「えぇ。準備はできてるわ」


 そして、当然と言うべきか。こちらにも緊張の様子は見られない。


 そもそもが感情表現に乏しい姫野だ。もしも緊張をしていたとして、表情に出るかは怪しい。だが、誰もが気負わず、翔の世界構築を見守ってくれている環境。これこそが信頼として伝わり、背中を押してくれる要因となった。


「よし、やるぞ!」


 掛け声と共に、翔は大量の魔力を放出し始める。


 いつもなら翔の周囲に留まって、それぞれ望む形へと変質していった魔力。しかし、此度は彼の身体から引き離されていき、ふよふよと漂いながらも一定の場所へ収束していく。


 その場所こそが、ダンタリアの用意した白線だ。放出された魔力の役割は、世界構築に必要な壁を作り出す事。擬井制圧 曼殊沙華で除外した魔力に留まらず、現世のあらゆる要素を白線内から除外する壁を作り出しているのである。


 けれど、現世のあらゆる要素を除外してしまえば、空間内に残るのは無だけ。それでは呼吸などの生命活動さえ満足に行えなくなり、瞬く間に翔と姫野の身体は死へ直行していただろう。


 だが、何も翔の望みは、あらゆる要素を除外した空間を生み出す事では無い。現世とは異なる定理が働く別世界を、一時的に現世の隣に生み出す事だ。


 想像するのは、翔という悪魔殺しを構築する武の歴史。殺しの対極にありつつも、邪悪なる悪魔を退ける術を身に宿してくれた鍛錬の記憶。


 魔力が現世のあらゆる要素を除外していたせいで、翔の周りには暗闇が広がるばかりであった。けれども、想像力が魔力と合わさり、暗闇の中に新たな空間が生み出されていく。存在し得ない場所に、見知った空間が広がっていく。


 夢の魔王が達成したような、ありとあらゆる定理が異なる世界を生み出す必要は無い。呼吸をすれば酸素が取り込まれ、道場に差し込む日光には暖かさを感じられる世界。


 そうした現世の普通を改めて空間内に取り入れて、不要な世界の構築コストは安上がりになる様に切り詰めていく。そうせねばとてもじゃないが、連戦仕様の世界構築など叶わない。


 (そして、最後は......!)


 空間が出来上がった事で、翔は最後の仕上げに取り掛かる。この世界を生み出したのは擬井制圧 曼殊沙華で伊勢神宮を覆った際に、結界の補修へ走る彼が悪魔達に袋叩きにされぬため。いわば、緊急の避難所としての側面もあった。


 だが、逃げ続けるだけでは、いずれ限界を迎えるのは翔側だ。あちらは文字通り、国家そのものが襲撃を仕掛けている状態。消耗しようと替えはいくらでもおり、消耗戦に付き合うのは望む所なのだ。


 だからこそ、逃げ続ける場所だけではいけなかった。


 抗い、苦労に見合わないと、後悔させるだけの要素が必要だった。


「天原君、この様子だと成功したのね?」


「神崎さん。ええっと、たぶんそうかな?」


 目の前から声が生まれた。そして、呼応するかの様に、いつの間にか姫野の姿があった。立ち位置はまさに、世界構築の前段階で彼女が立っていた場所。


 見知った見知らぬ場所に、翔と姫野が二人きり。彼女の言葉通り、世界構築における隔離の段階は成功したと言えるだろう。


「これで天原君が、一方的に狙われる可能性は無くなったわね」


「あぁ。そうなると後は、ルール構築の方が上手くいってるかどうかか」


 ぶっつけ本番でありながら、ここまでは何の支障もなく成功が確認出来た。けれども、現世から除外された空間とはいえ、この場を満たすのは現世の定理だけ。一番重要な翔の追加したルールが正常に機能しているかどうかは、いまだに確認が出来ていない。


「それなら、始めましょうか?」


「あぁ、助かるよ」


 翔が自身で生み出したルールとは、戦闘に関するルール。そして、それを確認するためには、戦う事が必要不可欠だ。


 姫野と争ったのは、四人の悪魔殺しが一堂に会する以前の一度だけ。それだって彼女の新たな契約をお披露目するという要素が大きく、全力ではあっても本気とは程遠い戦いだったと言えた。


 世界の強度、ルールの機能。それらを確認するためには、それなりに派手な戦闘が必要不可欠だ。事前に示し合わせていた二人は、そのままの距離で構えを取る。


 そして、一拍の呼吸を置いて、翔が姫野へ飛び込んだ。世界が正常に機能しているかどうか。それを確かめる模擬戦のために。

次回更新は9/24の予定です。

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