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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【七章連載中】  作者: 村本 凪
胡蝶が舞うは夢か現か

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知覚への対応と追跡の抹消

 姫野による提案。マルティナとしては、特に否定する内容では無かった。なぜなら姫野は、どの悪魔に当てても望まれた分の仕事をこなしてくれる能力があるからだ。


 姫野の戦法は、相手の魔法を体験した上で相性の良い魔法を選択するカウンター。本来ならダンタリアレベルの技術と知識が無ければ成り立たない戦法だが、彼女は自身の体質によって不足をカバーする。


 姫野はとにかく神(・)に(・)愛(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。その愛は常軌を逸しており、取り扱いを誤れば即座に命の危機へ直結する程だ。


 だが、同時に無数の神による愛は、様々な加護となって姫野を助けてくれる。代償こそ求められるが、姫野は契約した神の数まで多彩な魔法を繰り出す事が出来るのだ。


 導入を相手取るための、自動追尾型の魔法があるかもしれない。追駆を相手取るための、接近戦に特化した魔法があるかもしれない。亡羊を相手取るための、強力な魔力感知魔法があるかもしれない。


 取り扱いさえ間違えなければ、姫野は理論上あらゆる悪魔に特効の攻撃が出来るのである。


「それは別に構わないんだけど、何か理由でもある訳?」


 そのため、本人のやる気があるのなら、導入にぶつける事は問題無い。けれど、なし崩し的とはいえ、マルティナは悪魔殺し達のブレイン役に収まりつつあるのだ。理由と根拠を聞いておかねば、次へと繋がらない。


「一つは追跡の始祖魔法が、時間経過で強力になる系統の可能性。相手を見てからじゃないと動けない私では、追駆の必勝戦術を素通ししてしまう可能性があるわ」


「......なるほどね」


 追駆と呼ばれる悪魔は、追跡という概念型始祖魔法を操る事が分かっている。


 追跡とは、痕跡を頼りに目標を追う行為。もしも、至近距離へと辿り着く事が、魔法を強化する条件であれば。さらに、戦闘を経て痕跡を増やす事が、魔法の強化へと繋がるなら。


 待ちの姿勢で出方を見る必要がある姫野は、相手に最高の準備時間を与えてしまっているに等しい。そして、ハプスベルタの話を信じるのなら、追駆の白兵戦能力は剣の悪魔を凌ぐレベル。例え特効の魔法を準備しても、戦闘経験と完成した魔法の出力で押し切られてしまう恐れがあった。


 もちろん、これらは推測に過ぎない。追跡の始祖魔法は魔力感知に近い支援型の可能性はあるし、追駆の白兵戦能力は彼の長きに渡る戦闘経験が成せる業なのかもしれない。


 しかし、石橋は叩ける内に、いくらでも叩いて確認しておくものだ。魔法の相性差を覆す程の出力。警戒にこした事は無いと思われた。


「二つ目は導入の魔法が、ラッツォーニさんの戦法と噛み合いが悪い可能性。導入は認知する回数が増す毎に、周囲に強力な幻覚を生成していくわよね?」


「えぇ。話が全部真実なら」


「なら、攻撃が命中する事。これも認知の一つにならないかしら?」


「そうか! マルティナの魔法は、多段攻撃が基本!」


 姫野が二つ目に上げたのは、マルティナと導入の相性についてだった。


 ダンタリアからの話によれば、導入は夢送りの柵越え(クライングサーパス)と呼ばれる契約魔法を主力にしている。


 発動した瞬間から導入を認知する毎に幻覚が挿し込まれていき、いずれは夢と現の区別が付かなくなる程に五感を支配されてしまう。


 ダンタリアは言っていた。実際に導入の姿を見る事、導入の立てた音を聞く事、導入へ抱いた感情に、魔力感知などの分析。それら全てが、夢送りの柵越えを悪化させる要因となってしまうと。


 実質的に、導入へのアクション全てが魔法強化のトリガーとなってしまうのだ。そして、ダンタリアの言い回し的に、この魔法は数を重ねる毎に悪化していく。そんな相手に、多段攻撃など放ってしまえば。


「一瞬の内に五感が幻覚で埋め尽くされて、戦うまでも無く潰されてしまうって言いたい訳ね?」


「その可能性は、あり得ると思うの」


 こちらも前述の追駆と同じで、裏付ける方法は実際に相手取るしかない。そして、その瞬間が本番となる時点で、どこかで予測の決め打ちを行う必要があるだろう。


 マルティナは姫野の意見と導入の魔法を照らし合わせ、少しばかり熟考に入る。そして、翔が沈黙に居心地の悪さを感じ始めた頃、唐突に口は開かれた。


「カンザキの案を採用しましょう。亡羊の相手はニナ。導入の相手はカンザキ。そして、残った追駆を私が相手をする事で、アマハラの戦いに横槍を入れられぬ様にする。これでいいわね?」


「意見を採用して貰った側だから、ボクは問題無いよ。でも、マルティナの方は大丈夫なの?」


「そうね。なし崩し的に、追駆の相手を押し付けてしまったんだもの。解消出来る不満であれば、本番までにいくらでも補助に回るつもりよ」


 ニナと姫野が望む相手を指名してしまった分。そのシワ寄せは消去法で相手が決まったマルティナへと押し付けられてしまう。


 いくら魔王本体で無いにしろ、幹部であるからには実力も確かな筈。相性差があっても、即座に戦闘を終わらせて別の戦闘に介入するのは不可能な筈だ。


 そのため二人は、マルティナに何らかの手助けが出来ないかと提案した。だが、彼女は少しばかり余裕が感じられる表情で、首を横に振った。


「大丈夫よ。二人の推測に似たものだけど、私も出来るなら追駆の相手を望んでいたんだもの」


「えっ、そうだったの?」


「えぇ。だって、追駆は追跡の概念型始祖魔法を操るのよ?」


「そうね。その追跡という概念が時間経過による魔法の強化だと踏んで、私は敬遠したのだけど」


「カンザキの戦法なら、そうでしょうね。だけど、私が再奮起(リトライ)を使ったら、その追跡はどうなるかしら?」


「え、えっと、再奮起はマルティナの状態を、存在も含めて過去に巻き戻すんだよね?」


「追跡と、巻き戻し......だったら痕跡は!」


「そうよ、アマハラ。追跡そのものが、白紙に戻る可能性があるわ」


 追駆の追跡魔法が、どんな原理で相手を追い始めるかは分からない。だが、追跡と呼ぶからには、何らかの基点が必要な筈だ。


 そして、マルティナの再奮起は、そういった基点もまとめて存在を巻き戻せる。つまりは、追跡に至った経緯を、丸ごと潰す事も可能かもしれないのだ。


 追駆の魔法が姫野の推測通りなら、相手は築こうとしていたアドバンテージを一瞬で失う事になる。それどころか、魔法が何らかのエラーを起こす可能性だってある。


 三人は望まざるして、被らずに理想の相手を指定出来る事となっていたのだ。


「戦場では、何が起こるか分からない。それぞれの理想とする対面が、叶わない可能性だってある。だけど、いくら一国が相手だろうと、私達にも勝機はある。喜び勇んで攻め込んできた連中に、吠え面をかかせてやろうじゃない」


 そう言ってマルティナは、かつてを彷彿させるような悪魔への敵愾心をさらけ出す。全ての壁を乗り越えたには遠いが、今日のおかげで、一つの壁を乗り越える目途が生まれたのだった。

次回更新は9/20の予定です。

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