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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【七章連載中】  作者: 村本 凪
胡蝶が舞うは夢か現か

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見えだした自他の相性

「なんか、みんなが別々に動いてたせいで、すごく久しぶりって感じがするね」


「えぇ。まずはそれぞれの準備が、無事に終わった事を喜びましょう」


 ダンタリアとの交渉と世界構築の最終調整から後日。凛花を除く悪魔殺し達は日魔連事務所に集まり、テーブルを挟んで向かい合っていた。


 少しずつ魔法世界を学ばせていた凛花がいない理由は一つ。この場で行われる話し合いは、より夢の魔王陣営との戦いを意識したものであるからだ。


 それぞれの役割を明確に定め、一人の失敗が全体の足を引っ張る事になる戦い。そんな場所に魔法の発動すらままならない凛花を呼び集めた所で、彼女に心配と無力感を味わわせるだけになるだろう。


 故に、決戦の必要性こそ凛花に説いてはいたものの、作戦の決行日までは告げていない。彼女が次に夢の魔王陣営の情報を得る時は、翔達の戦いが終わった後になる予定だ。


「それにしてもマルティナ。本当にここにいて大丈夫なのか?」


「しつこいわね。確かに戦えるコンディションでは無いわ。けど、再奮起(リトライ)の発動制限は守った。副作用のタイミングで、適切な治療も受けれた。ここで口を開くくらいで、死にかけたりなんてしないわよ!」


 この集会が始まる以前に、翔達は大熊から交渉に至ったきっかけを聞かされていた。


 一度のぶつかり合いこそ起こったものの、いまだに謎が多い夢の悪魔陣営。そのヴェールを剥ぎ取るべく、マルティナは実戦形式でハプスベルタに決闘を挑んだという話を。


 顔色こそ悪いものの、目の前のマルティナに死の気配は感じられない。ならば本人の言う通り、ハプスベルタとの決闘は非常に上手く事を運んだのだろう。


「......けど、せめて行動に起こす前に言ってくれ。何の力にもならないかもしれない。むしろ、決意を揺らがせる事になるかもしれない。でも、全部が終わってから報告されるのは......心臓に悪いんだ」


 数日前には姫野から、交渉は命の危険が伴うものだったと聞かされた。そして、今日は大熊の口から、マルティナの決闘は非常に激しいものだったと聞かされた。


 どちらも命に届くような問題には発展しなかった。だが、一歩間違えれば、二人は翔の与り知らぬ所で命を散らしていたかもしれないのだ。


 もしも、そんな最悪が現実になれば。翔は自身の世界構築が進展しなかった事を憎み、乱れた魔力は予期せぬ事故を巻き起こしていたかもしれない。


 ニナは人魔大戦の悲惨さを翔よりも割り切って考えているが、反対に身近な人間が傷付く事には敏感だ。マルティナを信じて送り出したものの、何かあれば彼女は自身の選択を深く恨む事となっただろう。


「......悪かったわよ」


 前日も大熊から説教を受けたのだ。マルティナも自身の行動が軽率であったという反省はしているのだろう。彼女にしては珍しく、それ以上言い返す事はしなかった。そのおかげで、周囲の空気も少しだけ和らぐ。


「この後に翔と姫野は、ダンタリアさんの所で奥義の発動に挑戦するんだよね?」


「あぁ。俺と神崎さんだけを隔離して、世界が正しく機能してるかを確かめる。そんで、何かしらの不具合を感じたら、ダンタリアと大熊さんの力で救出作戦って感じらしい」


 夢の魔王陣営が、いつ再び動き出すかは分からない。そのため、スケジュールはギチギチに詰められており、この情報共有が終われば翔の世界構築が行われる予定なのだ。


「そ、その、マルティナは体調があって立ち合いは難しいと思う。けど、ボクは立ち会っても......」


 マルティナが重症を負い、姫野が人知れず命の危機にあったのだ。そのためニナは人員配置に不足が無い事は理解しつつ、どうにか理由を付けて同席したいのであろう。


「いや、気持ちは嬉しいけど、俺と神崎さんに大熊さんとダンタリアの救助要員。ここに下手な同席者を増やせば、巻き込まれたりする事故が起こらないと言い切れない。そんで俺の結界は、一対一を強いる結界の筈だけど_」


「そんな結界に三人目が巻き込まれたら、どんな不具合が発生するか分からないって事ね。ニナ、気持ちは分かるけどあきらめなさい」


 本番の世界構築は、多数の悪魔から一体を選出していく連続作業となるだろう。だが、いくら本番がそうであっても、控えているのは初挑戦という名の未知。イレギュラーは出来るだけ、排除するのが望ましい。


「......分かった。二人共、本当に気を付けてね」


「あぁ」


「えぇ」


 粘っていたニナも、翔とマルティナの説得で折れた。彼女は二人に激励を送ると、腰かけていた椅子に深く座りなおす。


 そして、ニナが落ち着いたのを見計らって、マルティナが話し出した。


「それじゃあ落ち着いた事だし、まずは私から夢の悪魔の魔法について説明するわね」


「お願いするわ」


 マルティナの議題は、絶対に共有しておかないといけない情報。夢の悪魔を率いる幹部クラスが振るう魔法と、親玉たる夢の魔王が振るう魔法についてだ。


「ハプスベルタは、気前よく情報を吐き出してくれたんだったな」


「えぇ。追駆(ついく)と呼ばれる、大柄な浮浪者染みた姿の悪魔。使う魔法は、追跡を司る概念型始祖魔法。亡羊(ぼうよう)と呼ばれる、猿飛さんを閉じ込めた張本人の悪魔。姿はハプスベルタも知らなかった。多重構造の結界を高速で展開して、対象を無限に続く迷宮に閉じ込める契約魔法を使う」


「そこに導入って悪魔を合わせて、幹部クラスは全員だよね?」


「えぇ。ここで話しておくべきは、それぞれがどいつを担当するかね」


 この場で予定されているのは、情報共有に役割分担。そして、悪魔の魔法が概ね判明したのだから、ついでに理想の対面を考えておくのは自然な流れだった。


「まず、アマハラは除外するわ」


「そこはまぁ、仕方ねぇよな」


「当たり前でしょ。それとも偉大な悪魔殺し様は、世界の運用に夢の魔王との対決。そこに幹部クラスとの戦いまで、受け持てるって言いたいのかしら?」


「悪かったよ! 幹部クラスは、三人に任せるって!」


 翔の役割は夢の世界を封鎖して、奪われた現世を取り戻す事だ。ただでさえ負担が大きい上に、世界の奪い合いとなれば夢の魔王との直接対決となるだろう。


 そんな翔に、幹部クラスとの戦いまで押し付ける訳にはいかない。そのため三体の悪魔を担当するのは、残った三人の悪魔殺しと決められていた。


「ったく、余計な苦労まで背負いこもうとするんじゃないわよ。それで肝心の対面だけど、何か相性なんかで提案はあるかしら?」


「えっと、亡羊って悪魔は、多重構造の結界で対象を監禁するのが得意なんだよね?」


 マルティナの質問に対し、真っ先に声を上げたのはニナだった。


「そうね。同じ座標に何重もの結界を発動して、それぞれの出口を隣接する結界に指定する事で対象を閉じ込める。とにかく結界の発動速度が速いせいで、魔王クラスすら閉じ込める能力も持っている。おまけに抜け出そうとしたら、優れた破壊力か魔力感知能力が必須になるわ」


 三幹部の中で、一番搦め手と言えるのが亡羊だろう。


 亡羊の魔法は、地位の高い悪魔にしては殺傷能力が低い。しかし、その分だけ分断能力は強力であり、かつてはハプスベルタを完封した実績まで持っている。


 抜け出す能力を持ち得なければ、決戦から除外されたに等しい。そして、結果としてハプスベルタは、同行した部下を全員失う事となった。


 三人の中でニナは、魔力量でも魔力感知でも劣っている。カタログスペックだけを見るなら、彼女が最も亡羊に対面させては行けない筈だ。


「それなら閉じ込められた先は、亡羊の魔力しか存在していないって事だよね? だったらボクの血があれば、結構簡単に脱出出来ちゃうんじゃないかなぁって......」


 だが、ニナには他の二人には無い特異な魔法がある。 それこそが、魔力を浸食する血液。あらゆる固定型魔法のカウンターに成りえる、絶対的な魔法だ。


「確かに。デュモンさんの魔法であれば、それほど労力は無しに破壊が叶うかもしれないわね」


 マルティナと姫野が亡羊を相手取れば、まずは結界からの脱出が急務となる。そして、どれだけスムーズに脱出が成功しても、何の対策も無ければ結界内にとんぼ返りとなるだろう。


 亡羊の分断結界は、とにかく発動のコストが軽い。魔力感知による頭脳を用いた脱出なら言わずもがな、魔力をこれでもかと破壊に振りまいた脱出とて彼女の魔力消費は軽微に違い無い。


 一方は脱出で消耗した後、もう一方は用意した結界が空振りに終わっただけ。仮に魔力の続く限り繰り返せば、先に限界を迎えるのは悪魔殺し側であろう。


 だが、ニナだけはそれに抗う事が出来る。零れた血が結界を浸食していき、出入り口として隣接する全ての結界すら崩壊させる事が出来る。


 ベリト戦にて多くの血液を消費したニナだが、家族達のおかげで補充には一定の目途が立っている。故に、下手な消耗戦を挑んでしまえば、亡羊側が後悔する展開となるかもしれない。


「盲点だったわ。亡羊の相手は、あなたが適任かもしれない」


 マルティナの考える予定では、亡羊の担当は時間稼ぎに徹して貰うつもりだった。


 適度に結界を突破し、決して亡羊に片手間を許さない戦い。そうする事で彼女自身を決戦から除外し、残る悪魔と悪魔殺しで決着を付けようとしていたのだ。


 けれど、ニナの案があれば、亡羊を討伐する事も可能かもしれない。そして、仮にそれが叶えば、一気に盤面の余裕が生まれる事となる。


「じゃあ、ボクの相手は亡羊で決定だね?」


「えぇ。ニナ、任せるわ」


 思わぬニナの提案によって、少しだけ余裕が生まれたかもしれない決戦。そんな彼女に続こうとしたのだろうか。流れに乗る形で、今度は姫野が口を開いた。


「ラッツォーニさん。それなら私は、導入の相手をしてもいいかしら?」

次回更新は9/16の予定です。

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