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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【七章連載中】  作者: 村本 凪
胡蝶が舞うは夢か現か

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持ち帰った知識と忠告

 日魔連の息がかかった神社内にある社殿。そこでは翔と姫野が試行錯誤を繰り返し、夢の魔王に対抗する世界の創造を習得しようとしていた。


「天原君、調子はどう?」


「......神崎さん。うん、進展はしてると思う」


 創造魔法の極致たる世界創造。その難度はダンタリアによる軽い説明だけでも推し量るには十分であり、魔力量だけでは解決しようがない問題。いわば、翔が最も苦手とする分野でもあった。


 戦闘面以外の想像力は、お世辞にも高いとは言えない翔。そんな彼にいきなり世界の創造を求めた所で、それより数段は前段階にある新たな想像物の生成を達成するのが関の山であっただろう。


 しかし、幸運にも翔には、ダンタリアという最短経路までの道筋を示してくれる者がいた。姫野に大悟と、世界創造の基盤を整えてくれる者達がいた。


 真に世界創造を達成した者達からすれば、翔の努力は未だに途上。生み出される世界も、出来の良い結界と揶揄されても仕方がない代物であろう。


 だが、たったの数日で、翔はそこまで辿り着いたのだ。制約も多く、創造主に牙を剥きかねない世界であれど、現世とは違う定理で動く空間の創造までこぎつけたのだ。


 いくら児戯に等しい創造でも、定理すら捻じ曲げたのなられっきとした世界である。そこまでくれば、先人達も笑いはしない。むしろ、排除すべき脅威として、認識を改める事だろう。


「進展って事は、まだ完成はしてないの?」


「あぁ。これなら上手くいくって自信はある。それに、アドバイス通り世界は出来るだけ簡単な作りにもした。これなら肝心の戦闘で消耗しない限り、連発も可能だと思う」


「じゃあ_」


「でも、まだ一度だって発動まではしていない。やってるのは高速で座標の指定をする事と、盛り込みたい定理を頭に覚えさせる事だけ。それ以上になると大熊さんや麗子さん、ダンタリアあたりが近くにいてくれないとな」


「......そうね。どれだけ理論を詰めた所で、本番が完璧に終わるとは限らないもの」


 人類と夢の世界による衝突が小康状態になっているのは、偏に夢の世界側からのアプローチが激減したためだ。


 これが思わぬ兵力の消費によって、浮足立った結果なら良い。けれども、次なる本格侵攻を見据えた嵐の前の静けさだとしたら、待ちの姿勢では大きな痛手を被る事となる。


 翔の世界創造は、まさに人類側から夢の世界へと逆侵攻をかけられる一手。本当ならば多少の拙さには目をつぶって、少しでも早く実戦運用を行うべきなのだ。


 しかし、今回の戦いで翔が生み出す世界は、自身にも多大なるデメリットがかかりかねない危険な代物。加えて、一歩でも定理の扱いを誤れば、試験運用だろうと取り返しが付かない事態に発展しかねない代物でもある。


 世界が正しく運用されているかを確認するためには、翔本人と協力者。それに不都合が発生した場合に備えた、世界へ干渉出来る第三者が必須である。


 けれど、第三者になり得る大熊とダンタリアは、マルティナを伴った何らかの交渉の真っ最中。麗子は麗子で、大熊には出来ない緻密な魔力感知を用いた夢の世界の動向調査に追われている。


 そんな第三者が欠けた状態で世界を生み出したりなどしたら。


 成功するならば、大熊の説教だけで済むだろう。彼とて多くの危険がある事は承知でも、同時に世界の迅速な完成が何よりも大切な事は理解しているのだから。


 だが、失敗の場合は大惨事だ。


 翔と姫野を対象に世界を生み出したとしよう。定理が間違っていれば、二人は消滅しない世界の中に取り残される事になるかもしれない。座標指定に粗があれば、彼の世界が現世の浸食を始めるかもしれない。


 そうなってしまえば、翔は救世主どころか新たな侵略者の仲間入りだ。前大戦でついぞ起こらなかった百一体目の悪魔の出現。それが形を変えて、現世を蝕みかねなかった。


「本番はみんなの前でやるつもりだよ。万が一の時に世界に干渉出来るだろうダンタリア。そんなあいつが、悪さをしないか見張れる大熊さん」


「可能かどうかは分からないけど、ラッツォーニさんの再奮起(リトライ)なら世界に閉じ込められた私達の魂を呼び戻せるかもしれない。デュモンさんの血液を使えば、世界という強大な魔法を打ち崩せるかもしれない」


「あぁ。だから、ここでの訓練は進展だけでいいんだ。元々、一番大事なのは神崎さんとの話し合いだと思っていたしな」


「私と?」


 突然の言葉に姫野は首を傾げた。


 翔との会話には、他者にはない僅かな心の高揚がある。彼自身から望まれて話しがあると言われれば、喜びとは行かないまでもいつだって受け入れる用意がある。


 けれど、改まってまで行う会話の内容。それが姫野にはどうしても思い当たらなかったのだ。


「うん。神崎さんなら、そんな反応になると思った」


「ごめんなさい」


「いや、怒ってるんじゃないよ。むしろ、謝りたいのは俺の方だ」


「えっ、でも......」


 そこまで言われても、姫野には心当たりがまるで無かった。いっそ連日の世界創造修練によって、ありもしない妄想の記憶が生み出されたのではないかと思う。


 しかし、そこから発せられた言葉は、実感が無いにせよ心当たりだけはある内容だった。


「神崎さんが届けてくれたアドバイス。一歩間違えれば、命の危険に直結していたんだろ?」


 それは何かと世話を焼いてくれる神界の住民、武速(タケハヤ)須佐之男命(スサノオノミコト)から翔への忠告だった。


 姫野は神々に愛されている。いや、愛されすぎている。


 その身は血肉はもちろん髪の毛の一本でも神を動かす交渉材料となり、話す声も実行した行いも、ふとした仕草すら神を惹き付ける誘惑へと変わる。


 そして、現世への干渉を制限されていると言っても、神の力は常人を遥かに凌駕する。面と向かってぶつかれる存在など、それこそ悪魔をおいて他にないだろう。


 そんな存在が、のこのこと神界へとやってきたのだ。戦友に効果的なアドバイスをもたらすため。ただそれだけのために、まさしくカモがネギを背負って肉食獣がひしめく檻の中へと飛び込んでいったのだ。


 翔は姫野の行いを、仲の良い神からアドバイスを貰う程度にしか考えていなかった。まさか、たった一体の神が暴発するだけで、存在そのものが奪われかねない死地に送り込む事だと思ってもみなかった。


「でも、こうして、無事に帰って来てるわ」


「だけど、バッカみてぇな無知を晒して、神崎さんの命を危険に曝したのは俺だ! ごめん! 俺の認識が甘すぎた!」


「天原君......」


 姫野としては、必要だったから実行したに過ぎない行為だ。故にこうして謝られてしまうと、どんな反応を返していいか分からなくなってしまう。


 それに、命の危険を曝しているのは、何も姫野だけじゃない。


 翔は世界が完成しなければ、夢の悪魔達によってたかって袋叩きにされるポジションへ立つ事になる。


 マルティナは仲間達が命の危機に瀕すれば、副作用を承知で限界を超えて再奮起を使うだろう。ニナだって夢の悪魔に打ち勝つまでは、致死量ギリギリまで魔力と血液を使用するに違いない。


 だから姫野には、翔が改まってまで謝る理由が分からなかった。お互い様だと、気に病む必要はどこにも無いと言い切りたかった。


 けれど、その言葉をギリギリで取り止めたのは、姫野本人の意思によるものだった。


 この発言をしてはいけない気がした。気に病む理由はどこにもないのに、余計に翔を傷付けてしまう気がした。


 だから姫野は二の句を告げなかった。ただ翔の手を取って、いつぞやの様に己の小指を彼の小指に絡ませた。


「神崎さん?」


 翔から、困惑した様な声が聞こえてくる。


 それもそうだろう。なんせ謝罪した筈の相手が、いきなり指切りをしてきたのだから。


「天原君は私が起こした行動を、自分のせいだと思っている。同時に私も、自分のせいで天原君を困らせてしまったと思ってる」


「いや! 神崎さんは全然! これっぽっちも悪くは!」


「だから、指切りをしましょう。今度はもっと、行動を起こす前に話し合うと。お互いの危険を、共有し合うために話し合うと」


「あっ......」


 翔の謝罪を受け取った後でも、姫野は自身の行動を必要な行為であったと疑ってはいない。


 けれど、姫野だって人間社会を学んでいる。時に感情が道理を超えて、正しさを持つ瞬間を目にした事がある。


 故に姫野は、自身で分からない分野を共有しよう指を絡めた。実行に移す前に、静止の言葉をかけてくれるよう翔に求めた。それこそが二人の間に結ばれた、正しき対等の関係だと思ったから。


 姫野は結ばれた小指の先に、力が込められた事を感じた。

次回更新は9/12の予定です。

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