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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【七章連載中】  作者: 村本 凪
胡蝶が舞うは夢か現か

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魔王を動かした価値ある情報

「多忙を極めて手を貸せなかった分際がって思うだろうが、もうちっと無茶をする前に連絡を入れるなりは欲しかったな」


「......すみません。この機を逃すまいと逸ってしまいました」


「それもあるだろうな。けど、一番は過保護な俺に止められたくなかった、だろ?」


「......」


「だから、そんな顔をすんな。俺も悪かったって言っただろ。再奮起(リトライ)で起こる副作用の治療を頼み込み、こうしてあの野郎に怒鳴り込みに行く前で声をかけてくれた。それだけで手を貸す側としては十分だ」


 日魔連事務所の一階。そこではマルティナと大熊が、直近の情報共有を行っていた。


 マルティナが主に伝えたのは、ハプスベルタとの血生臭い交渉で手にした夢の悪魔の情報について。悪魔殺し達が行う決戦で対峙するのは間違い無いだろうが、それ以前で遭遇する確率が一番高いのは夢の世界拡大を阻止している日魔連の魔法使い達だ。


 仮に真正面からぶつかる事があれば、例え情報があっても焼け石に水感は否めないだろう。しかし、その僅かな情報で一人でも生き永らえる事が出来るなら。そう思ったマルティナは、他の用事で助力を頼みたい事もあって、大熊に情報とそれに伴う無茶を打ち明けたのだ。


 情報を聞かされた当初、大熊は幼い子供を見咎める大人として対応した。そんな無茶は二度とするな。せめて万全のバックアップが取れるまで、実行するなと苦言を呈した。


 だが、一方で大熊は謝罪を口にした。マルティナが大きな無茶へ挑まねばならなくなったのは、守るべき大人達が不甲斐無かったせいであると。


 現世に残された悪魔の資料は少ない。なぜなら、悪魔は畏れられて語り継がれる事こそ求めているが、同時に理解されて対応される事を嫌っているからである。


 先の見えない力は脅威そのもの。だが、一度タネが割れてしまえば、悪魔の力は大きく目減りしてしまう。そのため、悪魔側に大きく傾いた人魔大戦は、いずれも多くの情報が焼き捨てられた。そのせいで、現代における悪魔への知識は拙い部分が多いのだ。


 一般常識として叱りつつ、マルティナの行動が起こした結果は評価した。そんな大熊だからこそ、梯子を外されずに頼って貰えた部分もあるのだろう。


「どうせあっちには、訪問する事も含めて筒抜けなんだ。マルティナちゃんは、本当ならまだ安静の身なんだ。準備が万端なら、さっさと用事を済ませて療養を再開して貰うぞ」


「はい。こっちとしては準備は問題ありません」


 ハプスベルタとの語らいから二日。再奮起の副作用もようやく落ち着いてきたマルティナは、敵側の沈黙でどうにか手が空いた大熊を伴ってダンタリアの下を訪れようとしていた。


 わざわざ知識の魔王を尋ねる理由は、ハプスベルタから手にした情報を精査するため。


 正々堂々の勝負によって、手にした情報だ。ハプスベルタの性格を考えれば、真っ赤な嘘を投げ渡してくる可能性は低い。


 けれども、ハプスベルタも完成度はともかく、頭の中身は人間と大差が無い。つまりは危機的状況で相手の力量を見誤る可能性は否定出来ないし、導き出した答えが大きく的を外している場合だってある。


 だからこそダンタリアという知識の泉を通して、誤りという汚れを洗い落とす必要があるのだ。


 何かと情報を出し渋るダンタリアだが、一方で相手の知識量によっては平気で核心を語って聞かせる事もある。恐らくは永劫中立を守るための複雑な契約が関係しているのだろうが、その点に照らし合わせれば、情報の確認くらいは行ってくれる可能性が高かった。


 これでもまだ情報量が足りないのであれば、残念だが情報の精査についてはあきらめるべきだろう。しかし、根源の継承が示す通り、ダンタリアは情報を話す事自体を好んでいる節がある。


 そして、マルティナよりもダンタリアを知る大熊も、快く協力してくれたのだ。彼女の望みが叶う勝算は高いと言えた。


「うし、じゃあ煩わしいだろうが、背中に乗ってくれ。今のマルティナちゃんには、力仕事も魔法の使用も控えて貰いてぇからな」


 大熊が大図書館に続くハッチを開き、促すように背中を指差した。


「はい。お世話になります」


「ちぃとばかし揺れるぞ」


 マルティナを背負った大熊は、そのままハッチに繋がるロープを無視して穴へと飛び降りた。


 大図書館の中は、翔とダンタリアが空中戦を繰り広げられるくらいには広い。ハッチから床までは数十メートル。大熊が何の対策も無しに着地していれば、床は赤一色に染められていた事だろう。


 しかし、大熊の魔法は、密度を操る始祖魔法。着地の瞬間に床の密度を操ってしまえば、たちまち衝撃はトランポリン以上に周囲へと散らされてしまう。二人にはケガはおろか、高高度から飛び降りた証拠すら欠片も残りはしない。


「どうせ知ってた事だろうが、邪魔すんぞ」


 大熊はマルティナを背中から下ろしながら、いずこかにいるだろう部屋の主に向かって語り掛けた。


「そう言いながらも、挨拶は欠かさない事は美徳だよ」


 すると、大熊とマルティナの見つめていた先に、小ぶりな丸テーブルと対面の椅子に腰かけるダンタリアが出現した。いくら自身の生み出した結界内だと言っても、その登場はあまりに静か。魔力感知に集中していなければ、魔力が流れた事すら把握は困難だっただろう。


「単刀直入に聞くわ。私が手にした情報の精査。やってくれるつもりは?」


 元々まだるっこしい事が嫌いなマルティナだ。大熊に続く様に、一切言葉を飾らずダンタリアへと問いかける。


「その気が無ければ、テーブルなんて用意しないさ」


 そしてダンタリアの方も、待っていたとばかりに二脚の椅子を虚空から出現させた。それは歓迎でもあり、腰を据えて話し合う内容であるとも暗に語っているのだろう。


「そう。なら、遠慮なく」


「はぁ、気取りやがって」


 マルティナと大熊が椅子に腰を下ろすと、どこからともかく現れた使い魔らしき女性がティーセットの用意を始めた。そして、湯気の立つティーカップを受け取ったダンタリアは、少しだけ楽しそうに口を開いた。


「凡百殿に無理を通すためとはいえ、今回も過激な手段に走ったものだ」


「それが何よ? 魔王を相手にしながら、五体満足で副作用も数日。これ以上の成果を今の私で求めるのなら、ぜひとも方法を教えて貰いたい所ね」


「いやいや、最適解だったよ。ただ、此度の若い悪魔殺し達は、どれもこれも突き抜ける事へ躊躇が無いのだと思ってね。これでも助け舟を求められた時に向けて、色々と準備を進めていたんだよ?」


「ケッ、そんで口車に乗った先が、意図していなかった契約の成立だろうが。べらべらと御託はたくさんだ。準備を進めてたってんなら、さっさと蓄えた情報を吐き出しやがれ」


「それもそうだ」


 大熊の皮肉に微笑みながら、ダンタリアはティーカップにゆっくりと口を付ける。


「導入、追駆、亡羊。君達は夢の国を牛耳る幹部達の魔法を知り、残すは情報の裏取りと本丸の魔法だけになった。そして、君が手にした情報にイエスかノーを突き付けるだけなら、わざわざ腰を据えて語り合う必要もない」


「......ん? なら、お前」


 大熊が何かに気が付いたような声を上げる。


「せっかくだ。夢の魔王について、少しばかり語って聞かせようと思ってね。こうでもしなければ、知識の魔王の名折れになってしまうからね」


 ダンタリアが二人に語って聞かせた宣言。それは、謎に満ちた夢の魔王に迫る標であり、彼女が知識の魔王たり得る事を示す知識の解放でもあった。

次回更新は9/4の予定です。

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