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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【七章連載中】  作者: 村本 凪
胡蝶が舞うは夢か現か

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適材適所の奥義開発

「そんじゃいっちょ、問題解決をしてやりましょうかな!」


「......自信満々みたいだけどよ。これで悪ふざけみたいな案を出したら、チョップだからな」


 意気揚々と拳を突き上げた凛花と、そんな彼女を白い目で見る翔。


 一瞬だけ凛花の意見に同調しかけた翔だったが、すぐさまそれが高い壁だと自覚したためだった。


 確かに凛花には、擬翼一擲(ぎよくいってき) 鳳仙花(ホウセンカ)の開発で世話になった過去がある。しかし、あの時は求める物が明確であり、彼女もジャンルの中で意見を投じていけば良かったのだ。


 だが、今回の奥義開発は、そんな前回とは雲泥の差。なにせ、現時点で雛形はおろか、どんな奥義を作り出したいのかすら全く定まっていないのである。


 翔だって、アドバイスが有用なら素直に受け入れよう。けれど、肝心の提供者は凛花。学力では互いに底辺の争いを繰り広げている、悪い意味での好敵手。


 そんな凛花に、一から奥義を作り出すようなクリエイティブな行いが可能なのか。なまじ付き合いが長い分、翔はいまいち信用し切れなかったのである。


「日本の命運がかかっている場所で、変なおふざけなんてやりませんー。まずはなにより、翔が言っていた木刀の意味を深堀りする所からだよね」


「先に言っとくぞ、これでも大体の案は考えたんだからな」


「分かってる分かってる。凛花さんに任せなさい!」


「まぁ、任せるしか無いんだけどよ」


 なおも疑いの目を向ける翔であるが、凛花の方も慣れたもので気にする様子はない。そして、彼女は顎に手を当て首を捻りながら、何かしらに思いを巡らせ始めた。


 立ち合いバカの翔と大悟と違って、凛花は広く浅く趣味を持っている。男子の会話に乱入出来るような硬派なゲームをプレイしたかと思えば、自分の性別を思い出したかの様にファッショントークを同性と繰り広げる事もある。


 それを考えれば、確かに翔よりも知識の引き出しは多いかもしれない。問題があるとすれば、やはり知識を活用出来るだけの知能があるかという面だろう。


 脊髄トークに、思い立ったら考えずに動き出す行動力。そんな凛花から創造などという、高尚な行いが生まれ出るのか。悩み続ける彼女をそこまで期待せず眺めていた翔だったが、数分の後に両手がポンと叩かれた。


「はい! 先生!」


「......誰が先生だ。で?」


「好き好んで木刀なんていうショボイ武器を使ってるんだから、そのショボさを相手にも強制するような奥義はどうでしょうか!?」


「訓練用の得物に、ショボいもクソもねーだろ......あと、悪いが意見は不採用」


「どうしてさ?」


「それだと多分、武器を使わない悪魔に縛りを付けられなくなる。おまけに、曼殊沙華(まんじゅしゃげ)みたく空間に縛りを付ける感じだろ?」


「そりゃあ、もう」


「だとすると、効果の無い相手を前にすれば、俺だけ無駄な魔力を垂れ流しながら戦う事になるだろ。ステゴロが得意な、内向きの変化魔法使いを大量に送り込まれてみろ。勝手にしょうもない縛りを付けて、魔力を消費するバカの出来上がりじゃねーか」


「あー......なるほどねぇ......」


 凛花が思い付いた最初の意見は、武器として見た木刀の貧弱さを利用して繰り出す、相手に縛りを施す結界奥義であった。


 この奥義を採用する際のメリットは、やはり悪魔側の火力が著しく下がる事だろう。刀剣を好む悪魔からは鋭さを奪い取り、ハンマーのような大型鈍器を好む悪魔からは重さを奪い取る。全体火力を下げられる点には、光る部分があった。


 しかし、この結界を運用する面での問題点は、立ちはだかる悪魔が武器を用いなかった場合だ。


 ハプスベルタのせいで認識が歪みかけているが、別に悪魔は得物を持たずとも火力を生み出せる。むしろ取り落とした際のデメリットを考えれば、悪魔側が得物に頼るメリットは薄いのだ。


 自らの肉体を変質させれば、鋭い鉤爪も相手を踏み潰す巨大な足も自由自在。そして、凛花のニュアンスを汲んだ結界を運用すれば、どれだけの火力だろうと生身に縛りは付けられない。


 つまり翔は結界の生成で魔力を無駄使いしながら、何の制約も掛かっていない悪魔の相手を強いられる事となるのだ。


 これでは仮に形となっても、対策されてしまえば一瞬である。相手取るのは国家。適した人材なんて、いくらでも湧いて出てくるのだから。


「だから、その案は悪いけど却下だ。悪魔が得物に頼らなくても強い関係上、下手な武器への制約は足を引っ張るだけで終わりかねない」


 おまけに結界として運用するのなら、その効力は敵味方関係なく無差別に降り注ぐ事となる。力を借りる先によっては制約の掛からない姫野を抜きにしても、槍使いのマルティナに様々な近代兵器型魔道具を扱うニナ。彼女達にとって、結界はメリットではなく死地と変わってしまうのだ。


「そういえば姫野ちゃん達って、揃いも揃って武器使いだもんねぇ......」


「そういうこと」


 凛花の意見は、ブレーンストーミングとしては参考になるものであった。しかし、彼女は悪魔の事をほとんど知らない。超常の力を持ち、世界を捻じ曲げる様々な魔法を有する事しか知らない。


(......けど、目の付け所は、俺よりも鋭い)


 言ってしまえば、この意見は凛花の経験不足が原因で発生したもの。だが、裏を返せば、悪魔を知ればより洗練された意見が出るかもしれない。


 そう思うと、凛花にアドバイスを貰う事自体は有用かもしれない。翔の心情が、ゆっくりと疑心から期待へと傾き始める。


「う~ん......そうなると......」


「急いでないって言ったら嘘になるけど、別に根詰めて考えて欲しいって訳でも無いんだぞ? どうせ明日になれば、神崎さん達も戻って来る。全員で意見を出し合った方が、良い内容が生まれるんじゃないか?」


 翔としてはアドバイスを貰っていい事に気付かされた時点で、大きすぎる収穫だったのだ。そして、彼にはたくさんの味方がいる。様々な思想を持ち、多くの戦いを生き抜いた頼れる仲間達がいる。


 翔はせっかくなら全員を集めて、もう一度考え直せばいいと凛花を説得した。


「や、もうちょっとだけ......」


 だが、凛花の方も熱が入ってしまったのか。聞く耳を持ち合わせていないのは明らかだった。


「そんなこと言っても、昼休みだって無限じゃねーんだぞ?」


 昼食こそすでに終えていたものの、話し合いを始めて数十分は経過している。いくら素行で問題が無くとも、翔と凛花は成績面で揃って問題児。授業の開始に遅れてしまえば、同情的な教師の心証が悪化するのは間違いなかった。


「む~......!」


「ほら、放課後でも考える時間は作れるだろ? さっさと教室に戻るぞ」


 もはや地面と並行になるまで傾けられた凛花の頭に向けて、翔が声をかける。返答があっても無くても、彼はこれを最後に中庭から移動するつもりだった。


「ねぇ、翔。翔が編み出したい奥義ってさ。すんごい数の悪魔を相手にしても戦えるような、集団戦に特化した魔法って事だよね?」


「ん? おっ、おう」


 そんな翔に対して、凛花から声がかかった。


 内容は生み出したい奥義の詳細について。翔も黙っておく理由は無かったため、素直に返答した。


「ついでに、木刀の意味ってさ。どこまで拡大解釈していいの?」


「えっ......」


 そう問われて、翔も困ってしまう。


 すでに翔は生み出した木刀を、材木の一種として組み込む運用が出来ている。木刀が材木として利用可能なのだ。その気になれば、納得次第でどんな拡大解釈も受け入れられる可能性があった。


「オッケー、その反応で大体分かった。決着は放課後! 凛花さんのアンサーに、腰を抜かして崇め慄くといい!」


「って、おい! 凛花!」


 そう言い残すと、凛花は我先にと教室へ走り去ってしまった。どうして彼女が、ここまで奥義開発に前向きなのか。どうして彼女が、姫野達の帰還を待たずに答えを出そうとしているのか。


 その答えを口に出来る凛花は、すでに遥か向こう。後に残されたのは、困惑する翔だけ。


「せめてカッコよく締めるつもりなら、忘れ物を出さない努力をしろ......」


 いずれにしろ、悪いやる気ではないのだから、無理に止める必要は無い。翔はそう判断すると、取り残された凛花の弁当箱を片手に教室へと移動を始めるのだった。

次回更新は7/14の予定です。

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