許されたアドバイス
「ほへ~。じゃあダンタリアちゃ......さんに、宿題を押し付けられたって訳だ」
「何でわざわざ言葉を軽くすんだよ。提出が間に合わないと日本が滅亡する宿題なんぞ、ぶん投げる事自体が間違いだろーが」
「あちゃあ、そりゃそうじゃ。じゃあ、もっと親身に指導してくださいって、今日の放課後にでも抗議に行く?」
「それが出来れば苦労は......って、そもそも凛花は普段のダンタリアを知らねぇのか。他人に魔法世界の知識をツッコめるほど成長した事に、喜ぶべきか悲しむべきか。まぁどっちにしろ、教えられる側で反発の選択肢が真っ先に出てくるお前は大物だよ」
「まいったか!」
「褒めてねぇよ、バカ! それに、お前の方の進捗はどうなんだよ?」
「そりゃあもう.....えへへ」
「......よく分かったよ」
昼食時の定番となりつつある中庭で腰を下ろし、翔と凛花は現状の照らし合わせを行っていた。翔の方は、開発を進める事が決まっただけの奥義についてを。そして凛花は、遅々として進まない魔法の発動についてを。
二人の努力が不足している訳ではない。翔は幼い頃から武門で努力の必要性を叩き込まれているし、凛花だってそんな彼の姿を間近で観察してきたのだから。
ならば何が足りないのかと言えば、単純な取っ掛かりの少なさか。
「なら何度も言うけどさ! 経験してこなかった感覚を形にしろって、それだけでも無理難題なんだよ? 翔は尻尾の使い方が分かる? 角の正しい使い方が分かる? 今の私にとっての魔法は、そんなよく分かんない部位がいきなり生えてきたようなもんなんだよ?」
「そら、いきなり尻尾だの角だの振り回せって言われたら厳しいけど」
「でしょでしょ! しかも、この尻尾や角は、目に見えないし触れもしません。これでどうやって使う感覚を掴めってのさ。それなら翔の言ってるような、本質を掴む練習? てのの方が、よっぽどマシだって!」
「いや、尻尾とか角なら、練習次第でいくらでも使えるようになるだろ! それに比べてこっちは木刀の意味を掴めなんていう、トンチみたいな事をやらされてんだぞ? どう考えても、俺の方が難しい事をやらされてんだろ!」
窮地からの脱出を完全に他者任せとしてしまった凛花は、翔と違って魔法を使う感覚を得る間も無く悪魔殺しとなってしまった。そのせいで才能は死蔵されたままであり、もう一度窮地に立たない限り、ただの練習で引っ張り出すのは難しいのだろう。
そして、翔は多くの場合において感覚派。唯一、理論的な思考が回るのは戦闘関連のみであり、もちろんダンタリアに提示された創造物の意味を知るなんて、まるでピンと来ていない。
故に停滞していた。どちらも求められているものが、手を伸ばせる範囲に存在していないのだから。
「そんな事ありませんー! こっちのが百万倍難しいですー!」
「バカしか使わない桁を持ってくんな! ......はぁ。そもそも、それならお前なんかに相談した俺もバカか」
「ようやく自覚した? しっかり成果を出してくるだろう姫野ちゃん達と違って、私らは揃いも揃ってお荷物状態だよ?」
時が経つに連れてお互いの語気が高まっていくが、そこは幼馴染。どちらも相手が本気で怒らないラインを見極めているし、だからこそ遠慮の無い言葉が飛び交い続けている。
この光景をまだまだ付き合いの短い姫野達が見れば、慌てて止めに入るかもしれない。だが、幸か不幸か、彼女達は揃って学校を欠席していた。夢の魔王を討伐するための足掛かりとして、他派閥の持つ情報を手に入れる交渉を行うために。
「死ぬほどムカつくけど、その通りだ。面識の無い相手との交渉らしいから心配だけど、神崎さん達ならやってくれるだろうって安心感がある」
「だよねぇ。他人の心配の前に、自分の心配だよ。よく知らないけど、翔の努力に日本沈没がかかってるんでしょ?」
「よく分かってねぇなら、物騒な言葉を出すな。でも、まぁ......たぶんヤバい」
このまま言い合いをした所で、何の解決にもならないと理解したのだろう。凛花の話題は夢の魔王陣営の動きへと変わり、それに合わせて翔も真剣な表情を作る。
もしも、翔の奥義が完成せぬまま決戦に挑めば、難しい戦いとなるのは間違いない。
夢の魔王陣営の侵略を封じる事は、擬井制圧 曼殊沙華で可能だ。けれど、結界を破壊されれば簡単に侵略は再開されるし、奥義が無いままでは現世の奪還が望めない。
つまりは、結界が壊れる度に修繕し、隙を見せた破壊役の悪魔を討伐していく戦い。恐ろしいまでの長期戦が、約束されてしまうのである。
創造魔法の技量に関しては、世界を生み出した夢の魔王の方が何十段も上だろう。もしかすれば、長期戦の間に翔の結界が解析されてしまうかもしれない。弱点どころか無力化の手段を用意されてしまうかもしれない。最悪は、夢の魔王出陣の準備が整ってしまうかもしれない。
魔王が自由に動ける様になれば、配下達の士気もうなぎ登り上がっていくだろう。そして、それは現世の住人達のおびただしい出血へと繋がるだろう。そうならないためにも、翔は夢の世界に干渉するための奥義を手に入れなければいけないのだ。
「翔の魔法って、木刀をトランスフォームさせる魔法なんでしょ? 何か上手い具合に、悪魔達をペッて吹っ飛ばせる形に出来ないの?」
「そんな簡単な話なら、苦労してねぇっての。凛花には翼と結界は見せてたよな?」
「うん」
「あの二つは木刀同士をくっつけて、どっちも完全に木刀を完成させずワザと中途半端な形で止めてる。そんで、魔法自体は木刀を完成させようとして、魔力を垂れ流し続ける。翼は飛行機のジェット燃料として。結界は......言葉は悪いけど、部屋に殺虫剤を充満させる感覚」
「それでそれで」
「今の俺の技量だと、木刀の組み合わせと魔力の垂れ流しでしか魔法を作れないって事だ」
「え~と......夢の魔王から、世界、を取り戻したいんだよね?」
「お、おう」
「そんで、さっきの翔の例えを基にすると、殺虫剤で中の害虫を退治したいんじゃなくて、害虫に占拠された部屋そのものを取り戻したい。だけど翔は殺虫剤を部屋に充満させて、害虫を退治するか追い出すかが精いっぱい」
「あぁ。それでダンタリアからは木刀の意味を深く理解しろって言われたけど......恥ずかしい事に足踏み中って訳だ」
詳しく説明したせいで、翔は余計に自分が不甲斐なくなっていた。
必要なものは分かっており、それを得るための大筋まで用意して貰っている。だというのに、翔は道に迷い続けたまま。まるで、経路案内を見つけるのが下手くそな、方向音痴の様だ。
売り言葉に買い言葉で、先ほど凛花とは言い合いになってしまった。だが、そもそも魔力を感じ取れない彼女と比べれば、翔の悩みなんて頭の悪さに集約されてしまう。
だからこそ前に進みたかったし、進めなかったからこそ焦りが生まれていた。そんな堂々巡りの果てに自虐の言葉を零してみたが、ふと凛花を見れば何かを考えていた。
「ねぇ、翔。その奥義ってさ、スケールは違うけど翼を生み出した時と同じ悩みって事だよね?」
「えっ......あ、あぁ。確かに、そうとも言えるけど」
「じゃあさ。ダンタリアちゃ、さんはアドバイス出来なくても、私がアドバイスするのは禁止されていないよね?」
「はぁっ? いや、そっちもダメに決まって......あれ、そういえば......」
翼、凛花、奥義。翔の中で、記憶がパズルピースの様に組み合わさってく。そうだ。自分は同じ様な悩みを抱え、偶然出会った凛花に打ち明けた事があったじゃないかと。
ダンタリアも去り際に言っていたではないか。奥義習得に手を貸してくれた顔ぶれを思い出せと。
「魔法の習得はてんでダメだけどさ。これでも凛花さん、連想ゲームは得意ジャンルに分類されていましてな。翔さえ良ければさ、ちょっと問題解決に挑戦してみない?」
ずっと迷い続けていた暗雲立ち込める迷宮に、思わぬ角度から光明は差し込んだのだった。
次回更新は7/10の予定です。




