悩めど見つからぬ進化の先
「木刀の持っている意味。普通に考えるんなら、練習用の刀や不殺の刀ってとこだよな?」
ダンタリアの遠回しなアドバイスを基にして、翔も自分の力だけで考えてみる。何も知らない者が木刀について聞いてきたら、翔は第一に練習用の刀であると答えるに違いない。
もちろん、現代において次なるステップに進む可能性は低い。仮に真剣を握る事があったとしても、向けられる先にあるのは巻き藁ぐらいであるだろう。
だから、翔の考える木刀が有する意味とは第一に不殺の刀、第二に活人の刀であると思い、ダンタリアへと問いかけた。
「......」
「おい、ダンタリア?」
「言っただろう? ここからは、君が一人で答えを出すターンだと」
「チッ、相槌の一つすら無しかよ」
「申し訳ないとは思っているさ」
だが、ダンタリアから返ってきたのは沈黙と明確な拒絶。彼女は彼女で徹底的に、翔の想像に己の根源が紛れ込む余地を排除したいのだろう。
申し訳ないと言ってはいるが、その表情は笑顔の鉄面皮。この分野については、一切の干渉を許さないという意思表示が見て取れた。
「分かった! 分かったよ! 自分で考えりゃいんだろ! 俺だって、不殺の剣で夢の魔王に対抗出来るなんて思ってねぇよ!」
創造魔法の発動を成功させるためには、突き詰めた想像力と不足を補う多大な魔力が必要不可欠だ。けれど裏を返せば、それさえ揃っていれば発動してしまう。翔の考える不殺の剣も、望んだ意志のままに生み出されてしまう事になる。
不殺を中心に据えているのだから、その剣で悪魔を討伐する事は不可能となるだろう。加えて、発動状態では、他の生み出した木刀さえも不殺の属性を得てしまう可能性がある。
敵対者に致命傷を与えられない制約は、何かしらの大きなメリットを持つ魔法効果をもたらしてくれるかもしれない。けれど、これから翔達が挑むのは対魔界国家戦。頭数を減らせないという制約は、時間が経つ毎に重くのしかかる事になる。
此度の戦いは、守り切れば終わりという戦いではない。夢の魔王陣営を現世から追放し、彼女達が奪い去った現世の土地を取り返して初めて勝利と言えるのだ。そんな所で不殺の剣を掲げでもしたら、展開がどう転ぼうとも悪化に傾くのは間違いなかった。
「不殺で勝負が決まるなら苦労しねぇっての。ダメだ。単純な木刀の説明に目を向けたって、出てくるのは火力が下がる選択肢だけだ」
「そうだね。せっかくの己を見つめ直す時間だ。まずは思いつく限りを列挙するのをオススメするよ」
「ほんっと、当たり障りのねぇアドバイスだなぁ......!」
「ふふっ、本当に申し訳ない」
薄笑いを含む謝罪の言葉に無視を決め込むと、翔はさらに木刀の持つ意味とやらを深堀しようとする。
(要は連想ゲームって事だろ? で、その連想が俺の才能よりも遠くに行ってしまったら、急性の魔力切れみたいな症状に襲われるって感じだろ。となりゃ、連想だけはタダだ。あんまりにもヤバい案なら、流石にダンタリアもストップをかけるだろうからな)
擬翼一擲 鳳仙花は、木刀を組み合わせて翼を生み出した奥義。擬井制圧 曼殊沙華は、木刀を組み合わせて柵を生み出した奥義。つまり、今の翔でも木刀を組み木細工のように改造する事は可能なのだ。今回彼が目指す先は、その連想をさらに進めた場所である。
(まずは木刀って物から、一旦目を外そう。どれだけ考えた所で、木刀って時点で武器としては最底辺なんだから)
連想ゲームを始めるに当たって、翔は第一に木刀という物品に目を向けるのを止めた。どんなに連想を深めたとしても、木刀が刃先を持たない振り回しやすいだけの鈍器に変わりはない。仲間達の武器と見比べても、見劣りするのは明らかだったからだ。
(つっても、じゃあ木刀って何なんだ? 刀モドキ、当たったら死ぬほど痛い鈍器、目や喉に先端が当たったら......ダメだダメだ! こっちに進めたって、相手を殺してないだけの拷問具に変わっちまう! そんなの残虐な悪魔達の行いと、どこが違うってんだ!)
物品として見ないと志しても、真っ先に思いつくのはやはり、見た目や使用方法になってしまう。
不殺という縛りから抜け出せたのだから、生まれる奥義も火力を手にする事は出来るだろう。だが、何度も言うが木刀だ。訓練用の道具であり、実戦での使用など万が一も考えられていない物品なのだ。
そんなものを無理やり奥義の枠に嵌め込み火力を求めれば、どうしたって活用出来る方法は限られてくる。それどころか、よっぽど当たり所が良くても木刀で即死など稀だ。その意識が反映されれば、相手を半死半生に追い込む奥義に変わりかねない。
夢の魔王を除く住民達は、討伐される事が存在の消滅に直結している。そんな中で負傷者を量産するというのは、救助の意味でも士気を下げる意味でも機能する可能性はあるかもしれない。
だが、肝心の翔には、そんな奥義を振りかざす覚悟が備わっていなかった。例え敵とはいえ、いや、許されぬ敵だからこそ、同じ外道に落ちたいとは思えなかった。
創造魔法は術者の想像や意識を強く反映させる。ここで拒否感を抱いたまま奥義創造に取り掛かりなどすれば、とんでもない失敗作を生み出す事にも繋がりかねなかった。
(俺の才能がどれほどかは知らねぇけど、失敗作の量産が許されるとは思えない。ダンタリアも言ってたじゃないか。使うべき魔法は、絞ってこそ真価を発揮すると)
ダンタリアはとある魔法の手ほどきにおいて、複数の魔法を記憶する事のリスクを語っていた。
確かに多くの魔法を使いこなせれば、様々な場面で模範解答を提示する事が出来る。だが、魔法は覚えれば覚えるほど、魂が使いたい魔法へ適した形に変化出来なくなっていくと。
どれだけ手札が多くとも、極めた魔法の一撃は相性差すら覆す事がある。器用貧乏で終わらぬ様に、魔法は多くても数個に限定しておくのがダンタリアは語っていた。
肝心の当人はそんな忠告とは正反対の戦闘スタイルを取っているが、それこそがダンタリアの根源に関わる秘密なのであろう。翔に再現出来る筈が無いし、結局は奥義作成も一発成功が望ましいのだ。
(だけど結局は、木刀の意味ってなんだよって所に戻ってきちまうんだよな。いや、本当に......木刀の意味って何なんだ......)
様々な思考の果てに辿り着いたのは、何も思い付かないというゼロ点の解答であった。
やはり、木刀が非殺傷武器であるという点が、どこまでも足を引っ張って来る。
不殺を絡めて想像を行えば、そこから生まれるのは頭数を減らせないジレンマ。無理やり武器の側面を際立たせてみれば、そこから生まれるのは残虐な拷問風景。
今までの創造は、木刀の木材としての側面を強く際立たせる事で上手くいっていたのだ。しかし、いざ武器としての面を際立たせようとすると、多くが不足する。メインの扱い方に詳しいからこそ、武器としては落第という事実がどうしても頭をよぎってしまう。
(......ダメだ。ここで一人で考えていても、これ以上の案は出てこない)
その後も数分ばかり考え続けた翔だったが、やはり思い付くのは条件に合致しないものばかり。どうにか解決の糸口を求めてダンタリアに目を向けても、彼女は先ほどと変わらず微笑むばかり。まるで相手をするつもりがない。
しかし、同時に翔が行き詰まっている事も理解していたのだろう。
「今日はここでお開きにしようか。頭の面でも魔力の面でも、少年は回復の必要があるからね」
そう言うと、パチリと指を慣らし、翔のすぐ横に真っ暗なポータルを生み出した。恐らくは疲労困憊な翔を気遣って、縄梯子以外の出入り口を生成してくれたのだろう。
「いや、ちょっと待ってくれ! せめて、もう少しだけ考える時間を!」
けれど、翔としては何の糸口すら掴めずにいる状態なのだ。せめて何かしらの成果を得てからと、訓練を終えようとしてたダンタリアに抗議する。
「ふふっ、申し訳ないね」
だが、ダンタリアは聞く耳を持たなかった。さらにパチリと指が鳴り、翔の身体だが強い横からの衝撃で押し出される。
「待っ......!」
腕が暗闇に沈み、足が暗闇に消える。そのまま翔の半身はズブズブと飲み込まれていき、景色にゆっくりとモヤがかかっていく。
「......これは独り言だけどね。翼を手にした時の事を、もっと思い出してみるといい。別に私だけが、少年の奥義習得に手を貸した訳では無かった筈だよ」
すでに返事をするための口は暗闇に飲み込まれ、ダンタリアを見つめるための目も失われていた。最後に残された耳が聞き届けたのは、独り言とは名ばかりのアドバイス。
それを反芻する前に、翔は日魔連事務所の入り口へ送り返されていた。
次回更新は7/2の予定です。




