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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【七章連載中】  作者: 村本 凪
胡蝶が舞うは夢か現か

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盛衰の狭間にて得た知識

 年代を感じさせる置時計に、一目で高級品だと分かる油絵や石像。そんな高価を凝縮したような客間の中央に設置されたソファに、横一列で腰かける悪魔殺し達の姿があった。。


「ねぇ、マルティナ。翔、何か掴めたかな?」


「どうでしょうね。まぁ、私達は私達に出来る事をやっていくだけよ。そうでしょ、ニナ?」


「う、うん。えっと姫野、今から会うのは、大熊さんの知り合いなんだっけ」


「えぇ。防人(さきもり)派の構成員で、名前は鬼柳(おにやなぎ)さん。国会議員としての顔も持っていて、長年に渡って日本魔法界を牽引してきた重鎮でもあるわ」


 翔がダンタリアとの訓練に明け暮れる中、残された悪魔殺し達は、大熊の紹介でとある魔法使いの下を訪れていた。


 翔の行う訓練は、終わりも見えず道のりも厳しい。さらに、此度の敵方である夢の魔王が率いる悪魔達は、時間をかける程に相手は有利を築いていってしまう。


 このまま手をこまねいていれば、翔の訓練が実を結ぼうとも失敗に終わる可能性もある。そのため、残された悪魔殺し達は、さらなる情報収集へと奔走していたのだ。


「あぁ。待たせてしまったようで悪いね」


「いえ、むしろお忙しい中で時間を作っていただき、感謝しかありません」


 そうこうする内に、家主である鬼柳に時間の余裕が生まれたらしい。彼は同い年程度くらいの老齢な執事と若々しいメイドのみを伴って、客間へと入室してきた。


 一目見た鬼柳の印象は、油断ならない老人といった所であろうか。


 議員プロフィールを鵜呑みにするのであれば、年齢は85歳。けれど、背筋は真っすぐと整っており、オールバックの髪と健康的な小麦肌のおかげで若々しい印象を受ける。


 だが、スポーツマンなのかと問われれば、答えは否。その表情に宿っているのは、スポーツマンシップの対極にあるだろう交渉人の顔。毒を皿まで食らい、時には白を黒に塗り替える事も厭わない政治屋の顔であった。


「それで、求めているのは伊(・)勢(・)神(・)宮(・)の(・)間(・)取(・)り(・)図(・)だったかな?」


 そう言いながら鬼柳が悪魔殺し達に向けたのは、探るような目。人間としての器の大きさ、魔法使いとしての覚悟、単純な実力。それらを見透かしてやらんとばかりに、じっとりと昏(くら)い視線が向けられる。


 日本人的な観点で言えば、初対面なのも含めてかなり無礼な態度と言えただろう。彼女達が血の気の多い悪魔殺しだったなら、そのまま激昂と共に手をかけられてもおかしくはない態度だった。


 いくら鬼柳が優れた魔法使いであろうとも、悪魔殺し三人相手では勝負にもならない。後ろに控える従者達が参戦した所で、焼け石に水なのは分かっている筈だ。


 けれど、そんな事は百も承知で、鬼柳はわざと失礼な態度を取っていた。どうせもって十数年の命。ならば日本の守り手となるだろう悪魔殺し達を見極めるために、自分の命を消費する。


 まさに国家の守り手たる防人派らしい感情で、鬼柳は悪魔殺し達に接していたのだ。


「はい。私達の求める最大限の成功には、伊勢神宮の間取り図が必要不可欠です。そして、表だけではなく神祈派の本拠となっていた裏まで知り尽くしているのは、神祈派上層部を除けば防人派くらいのものです」


「妥当な判断だ。加えて、その選択は正しい。いくら情報収集特化の隠形(おんぎょう)派だろうと、派閥の本拠を完全に書き記すのは難しい。出来ないとは言わないが、バレたら派閥という大口の取引先を失うんだ。その後に日魔連の幹部会で槍玉に上げられるのも確定。割に合わない」


「ですが、日本の守護者たる防人派だけは違う。表立って堂々と視察が行える」


「表立っては言いすぎだな。いつの時代も権力の座に居座っていた私達と異なり、他派閥には明確な栄枯盛衰の時期があった。そして、一度でも権力から転がり落ちたなら、再び登り切るために代償が必要だ」


「資金や資材、あるいは人材を与える見返りとして、他派閥の内部事情を手に入れていったって訳ね」


 マルティナの答えに鬼柳はあえて頷かなかったが、続く無言が何よりも肯定であると示していた。


 防人派は日本の守護を大義として掲げており、時代によっては悪魔以外の国難すら対処してきた過去がある。そんな派閥が時の権力者に目をかけられるのは当然で、彼らは彼らで権力を得るための努力を惜しまなかった。その結果が、現代おける表の顔だ。


 他の派閥の長達は、精々が宗教組織のトップとしての顔しか持たない。続く上層部達も、同じ宗教の中でしか権力を振るえない者達ばかりだ。


 故に他派閥は、明確に衰える時期があった。立つ場所を誤り、時の権力者に排除される時代があった。それでも滅びずにいられたのは、防人派の支援があってこそ。己の身を切り売りした過去があったこそなのだ。


「神祈(しんき)派の不穏は、日魔連の上層部は知る所だった。本当なら惨事となる前に手を打ちたかったが、いかんせん敵方の動きが早すぎた」


「防人派の方々を責める気持ちはありません。元より悪魔の動く案件は、悪魔殺しの領分。皆さんにお願いしたいのは、他派閥に行った様に私達を支援していただく事だけです」


 日本という国を第一とする防人派にとっては、魔界の国家が顕現するなど悪夢としか言いようが無いのだろう。防ぎたかったと思う気持ちには、少なくとも嘘は含まれていない様に思えた。


 しかし、人間に出来る事には限界がある。それ故に人は悪魔と契約し、悪魔の力を身に宿して抗うのだ。


 姫野達とて、防人派に死出の旅路へ付き合って欲しいと頼むつもりは無い。ただ、弱った他派閥に手を差し伸べた時の様に、自分達への支援を確約して欲しいだけなのである。


「ここで弱り目を突いて代償を求める様なら、きっと我々は悪魔殺しの信を失う事となるだろう。大昔はそれでも権力を傘に手綱を握っていたらしいが......」


「アマハラやカンザキ、ユウキに手を出してみなさい。教会は黙っていないわよ」


「ボク等もいつだって、新たな家族を受け入れる準備があります。そちらが捨てるのなら、喜んで拾わせていただきます」


 国同士が悪魔殺しを戦力として扱っていた時代であれば、悪魔殺しも出身国の言いなりになる事例が多数存在したのだろう。


 けれども、前大戦で大熊が成し遂げた悪魔殺しの絆は、国という鎖から悪魔殺しを解き放った。さらに、ラウラという容赦の無い暴力装置は、行き場の無い悪魔殺しの受け皿となった。


 これで防人派が日本の悪魔殺しを無碍に扱うようなら、とんでもないしっぺ返しが飛んでくる。間違っても代償などを求められる状況では無かった。


「ふっ。ならば行われたのは、懇願ではなく命令という訳か。しかも、魔法組織の本拠一つを、他国の悪魔殺しにすら開示しなければいけない状況。全く、時代が変わった事を痛感する」


「で、渡してくれるの? くれないの?」


「渡(・)す(・)と(・)も(・)。そもそもこの場は長を通して、大熊が組み上げたものだ。これで何も与えず追い返すようなら、緩やかな協調関係すら崩す事となる」


「その割には、代償を求める寸前の様だったけど?」


「納得の上で代償を受け取れるなら、それに越した事はないだろう? 交渉とは求めてこそ。無償の奉仕など、これまで防人派を治めてきた歴々の顔に泥を塗るようなものだ」


「フン、政治屋ね。気に食わないけど、スジの通し方は認めてあげる」


 相手が素直に代償を渡してくれれば儲けもの。そうでなくとも、情報を渡す事には変わりない。老練な政治屋だからこそ行えた命知らずな交渉に、マルティナは目を細めつつも納得したらしい。


「会話を通して、君達の人となりも把握出来た。ここからは日本のための実務に移ろうか」


 言い終わると、鬼柳は手を叩いて執事を呼び寄せた。


 呼び出された執事が懐から取り出したのは、やや黄ばみがかった折りたたまれた紙。その広げられた先には、求めていた情報が記されていた。

次回更新は6/16の予定です。

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