↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【七章連載中】  作者: 村本 凪
胡蝶が舞うは夢か現か

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

469/509

痛み分けで終わった膠着の戦場

「夢の国側からの攻勢は衰えたが_」


「日魔連側も部隊の再編や重傷患者の搬送で、組織立った追撃はならず。痛み分けって所だね」


「悪魔殺しも無しに痛み分けなら上出来だ。むしろ、首尾が良すぎて震えすら覚える」


 夢の国による侵略戦闘開始から約一日。大熊とダンタリアは夢の国側の勢いが減じたタイミングを見計らって、二度目の話し合いを始めていた。


 議題の内容は、言うまでもなく今後の動向。ダンタリアの予測通りに一日ほどで攻め手を緩めた夢の国側が、次はどういう手に出るかを具体的に話し合う場だった。


「詳細な戦果は上がっているかい?」


「悪魔相当が七体、魔人相当が二十四体、魔獣は数百。少なくとも、千には届かないだろうって試算だ」


「ふふっ、すごいじゃないか。そこまでの被害が上がれば、少なくとも個体間の諍いでは済まなくなる。所属する国が異なるなら、必ず落とし前を付けに国家が出張って来る被害だよ」


「そもそも端っから出張って来てんじゃねぇか」


「そりゃあごもっとも。けれど、これで改めて夢の国の覚悟が見て取れただろう?」


「迷惑千万な事、この上ねぇがな」


 日魔連側は知る由も無いが、討伐された悪魔と連なる者達は、いずれも捨て駒となる事を求められていた。


 キッカケは自身の大欲を自制出来なかった事。そして、その落とし前を導入によって求められ、彼らは自らの出血をもって領土の拡大に務める事となった。


 確かに日魔連側の認識として、戦果に喜ぶのは間違いでは無い。しかし、ダンタリアの言う通り、夢の国側は犠牲を必然と捉えている。比喩ではなく、直接国家が現世に出張って来ているのだ。


 想定内の犠牲と想定外の犠牲では、残された味方にかかる精神的な衝撃に格差が生まれる。ましてや相手は、人間の様に犠牲を尊ぶ精神など皆無な悪魔達。多少は犠牲が多くとも、損得勘定と敗者を嗤う残酷な感情で終わっている可能性が高かった。


「日魔連側の被害は?」


「五行派については焼野原。ありゃあ再編しようにも、御託を並べられて突っぱねられる可能性が高ぇ。他の派閥についても、良いとは決して言えねぇ。どの派閥だってこれ以上に下がり様がねぇから、追加の人員を派遣しているだけだ」


「おやおや。それだと次は耐えられても、その次は無さそうだね」


「あぁ、おそらく無理だ。だから教えろ。前にテメェが言っていた様に、ここからが夢の国の本気なんだな?」


「間違いないね。ここまでの行動は陽動。前線で肉を切らせている内に、後方で盤石な骨を組み立てる算段だよ」


 一度目の話し合いにおいて、ダンタリアは攻め手の覚悟で戦略が分かると豪語した。


 散発的な攻めが続くようなら、国家としての介入準備が整っていない状態。けれど、一日以上無謀な攻勢が続くようなら、それはさらなる大攻勢の前触れであると。


 実際に一度目の攻勢では、昼夜が一回転しても彼らは戦いを止めなかった。例え、命を落とす事になろうとも、止まれない理由がどこかにあったのだ。


 多くの悪魔を討伐出来た日魔連だったが、最終的に戦闘が終わったのは夢の国側が退却したため。言い換えるのなら、捨て駒達に退却の許しが下りたからに過ぎない。


 いくら捨て駒であろうと、己が国民には他ならない。無駄に消費して国力を落とすくらいなら、許しを以て飼い慣らしてしまう方がいい。そして、後方の準備が整ったのなら、無駄な戦いをいつまでも命じておく理由など無い。


「ここからは、さらに酷い光景が生まれるって事か?」


「それは準備の内容によるさ。この島国一つを丸ごと攻め取る準備だったら、大熊の言うような酷い光景に繋がるだろうね。けど、足元を整える準備だったら、一時的な平穏に繋がる場合もある」


「だが、足元にビッチリと根を張られちまうようなら_」


「取り除くのは困難を極めるだろうね。そして、そこまで支配体制が整えば、当然ながら世界の支配権も夢の魔王側に移る。文字通り夢のような光景が現実化する世界さ。仮に少年達が束になったとしても、果たして世界を解放出来るかどうか」


 あくまで状況証拠による推定に過ぎないが、夢の魔王の目的は現世の土地を攻め取る事である。そして、その目的を達成するためには、別に悪魔殺し達を殲滅する必要は無いのだ。


 夢の支配が盤石となれば、現世のルールも夢の世界のルールに書き変わっていく。そして、一度ルールが相手側に渡ってしまえば、悪魔殺し複数人でも取り返すのは至難の業だ。


 後はダンタリアが過去に語った様に、悪魔殺しを避けて人間への襲撃と土地の侵略を続けていけばいい。一定の段階まで支配が進んでしまえば、その時点で悪魔殺しは手も足も出せなくなるのだから。


「猶予は、まだあるんだな?」


「夢の魔王が姿を見せていないからね。逆に、彼女が堂々と姿を現す様になれば、世界の管理が片手間で済む程に支配が進んでしまったと考えるべきだ」


「......翔達には万全の用意をさせてやりてぇ。だが、時間は夢の国側の味方。誰かが血を流して、時計の針を止める必要がある」


 放置したままでいれば、夢の国側は嬉々として支配を推し進めるであろう。そして、半ば夢の世界と化してしまった神祈派本拠地に牽制を仕掛けるためには、どうしたって腕利きの出血が必要不可欠となってくる。


 悪魔に抗い、国家の指針に待ったをかけられる存在。そんなものは悪魔殺し以外に存在しない。言うまでもなく、翔達頼みになってしまうのだ。


 人魔大戦が始まるまでに、日魔連の浄化が間に合わなかった己の無能。仮に組織の指針を変更させる事は無理でも、もっと広範的な魔法使い育成に力を注げなかった悔い。それらが揃って大熊の顔を曇らせる


「まぁ、少年達でなくとも、多少は時計の針を遅らせる事には成功したと思うよ」


「何の話だ?」


 だが、そんな大熊の苦悩とは正反対に明るい声で、ダンタリアは希望のタネを撒く。


「何って、大熊の所の子飼いが、潜入調査で最悪のバッティングを遂げただろう?」


「猿飛の話か? いや、だとしたって、何でこのタイミングで......」


「いくら魔法の才が乏しくとも、いや、魔法の才が乏しいからこそか。彼は多くの傲慢によって命を狙われ、そして、はち切れた大欲を利用して地獄から生還を果たした。君達側からすれば奇跡だが、夢の国側からすればどう思うかな?」


「......警戒するって事か?」


「ご名答。魔力は低くとも、思わぬ対応力と魔法知識は持っている。こんな存在が悪魔殺しと共に襲撃を仕掛けてくればと、今頃は拠点の防衛力強化に勤しんでいるに違いないよ」


 それは時計の針を遅らせるという点においては、ほんの僅かな遅延と言えただろう。しかし、猿飛の活躍は夢の魔王以外へ虚像を生み出した。地べたをはい回るだけの虫から、油断すると痛い目を見る毒虫へと認識を書き換えた。


 いくら盤石な準備を整えようと、彼らの想定していた襲撃者は悪魔殺しだけ。ここに数の力が加わるとしたら、根本から準備の内容を考え直す必要が出てくる。


 それはどれだけ片手間の仕事だろうと、確実に本筋の準備にも遅れを生む。猿飛にとっての最悪の遭遇戦は、悪魔達にも最悪の結果を生んでいたのだ。


「......猿飛には、いくら感謝しても足りねぇな」


「ふふっ、ここを感謝の上限に設定していたら、いっそ主従関係の逆転すら視野に入ってきてしまうよ?」


「あっ? どういう事だ?」


「片手間に盗み聞きをさせて貰ったんだけどね。君の子飼いがもたらした証言。巻き込まれた魔法の特徴には、私も覚えがある」


「おい、それって......!」


「永劫中立を掲げる私には、誰かを貶めるだけになる根源魔法の説明は出来ない。けれど、実際に体験した魔法を基に、アドバイスを送る事は可能だよ。特に、夢の国でも五指に入る悪魔の魔法と似ているなら、なおさらね」


 猿飛が成し遂げた奇跡の生還。彼が持ち帰った情報は、さらなる奇跡へと繋がる道しるべであった。

次回更新は6/4の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。