78話 4月29日 ハプニング。からの。
77話のあらすじ。
きれいな鳥さんが、何か黒いのにかぷかぷ喰われたよ?
朝の体力作りを終え、いったん部屋に戻ったディアナは、軽くシャワーを浴びたあと、制服に着替えて学園へと登校した。
「ディアナ様~!」
寮を出たところで、うしろから声をかけられたので振り返ってみると、ファルシナがストロベリーブロンドの髪をなびかせながら走ってくる。
「おはようございます。ファルシナさま」
ディアナは、立ち止まってファルシナを迎えた。
「おはようございます。ディアナ様。今日の朝練、きつかったですね~」
まいりました~、と言いつつも、どこかやりきった感であふれているファルシナ。
今日の朝練メニューは、見張りの塔で一階から最上階までひたすら階段ダッシュ。しかも往復三十回。見張り塔がおよそ十階建ての高さらしいから、往復三十回となると、横浜ランドマークタワーを、一階からてっぺんまで、約四回往復したことになる。ランドマークタワーなら、もちろんエレベーターという文明の利器を使えるけれども、イリュージア学園の生徒たちにあるのは、自らの体だけ。
最後の方なんて、もう、ぜいぜい喘ぎながら登り降りしていたディアナだった。その横を、朝からさわやかな笑顔を向けつつ、余裕で追い越して行くクライヴがかっこよかった…! ……なんてそんな、訓練中に不謹慎なことは思っていない。……あんまり…………、…たぶん。
「でも、階段の上り下りって、体力つくんですよね~っ」
「ですねえ…、ははは……」
う~んっと伸びをしながら、はきはきした口調で言うファルシナ。
そういえば、ゲームのヒロインちゃんも、学び好きの運動好きだった。何でも明るくオールマイティにこなせるのも、ヒロインに必要な資質なのだろう。だから、悪役、しかもD番目の自分にそんな根性はなくてもいいのだ。しかたないのだ。
と、ちょっと強引な思考で自分をかわいがりつつ教室に入り、席に着く。
そして、学生鞄から教科書を取り出し、机の中に入れようとしたところで………。
ぬるり。
机の中が、なにやらぬめっている。
「ん?」
その原因をさぐるべく、机の中から、そおっと手を出してみると。
「…!」
ディアナの白い手の平が、おそらく何ものかの体内から流れ出た血で、真っ赤に染まっていた。
*************************
ディアナの白い手が鮮血に染まるすこし前、ライルとクライヴが、朝から生徒会室でひと仕事したあと、授業を受けるべく教室に向かっていた。
「――――魔動翼機を動かすには、やっぱり竜の魔石がいいらしいんだよね。なぜか」
「確かに、おれが今まで手にした魔石の中でも、一番動力があるように思えます」
「問題は、竜の魔石がめったに出回らないことだな……」
「そうですね…我が国には、竜は生息していませんし…。たまに近くの島から降り立つ竜を打つにしても、戦力に問題があります」
「…竜が降り立つのは、なぜか東南領…。東南領で、今一番軍事力を持っているのは…ファンノルデン侯爵か」
「ファンノルデン候は、竜を領土に入らせない政策を取られているようですね」
「そりゃあ、領地で竜に暴れられたら、それこそ大惨事だからな。ヘタをすれば、ひとつの町が吹っ飛びかねない………いっそ、おれ達で竜を狩りに行くか?」
「………………」
「嫌そうだな」
「命をかけてまで、手に入れる必要性を感じません」
「後世まで、お前の名前が語り継がれるかもしれないぞ?」
「それこそ必要ありません。……おれはただ、今の生活を守れればそれでいい」
「ふぅ――――――ん…」
クライヴの返答に、ライルはつまらなそうな顔をした。それからすぐに、からかいを含んだ口調で問う。
「そんなに婚約者が大切か?」
「大切です」
「即答だな……っ」
話の途中で、突然ふらつくライル。
「? 殿下? どうしましたか? …具合でも?」
苦し気な表情でうつむき、壁に手をつくライルを、クライヴが気づかう。
「……いや」
が、ライルは首を横に振り、ふう、と大きく息をつきながら顔を上げた。
「問題ないよ。おれはね」
「?」
そう言うと、不思議顔のクライヴを置いて、何ごともなかったかのように歩き出す。
「ライル様? どこに行かれるのですか?」
ライルが歩き出したのは、今までとまったく逆方向。
「そちらは、一年生の教室の方向です」
「そうだねぇ」
ライルは、クライヴの指摘にのんきな口調で答えた。
「せっかくだからさ、会いに行こうよ」
「? 誰にですか?」
「行けばわかる」
そう言ったきり、ライルはただ前を見据えて歩き続ける。
「………」
理解できないライルの行動に、眉をひそめるクライヴ。けれども、一年の付き合いで、こうなってしまっては、もう何を尋ねても答えが返って来ないことも知っている。
「…授業に遅刻する言い訳は、お任せしますよ」
追究をあきらめたクライヴは、肩をすくめて、ライルの後に続くのだった。
次回タイトルは、『あふれる感情』
ディアナ「な、何で、ぬめって、ぬめって…!」
そのころのライル「はいはい、こっちこっちー」
そのころのクライヴ「……。(一体どこに連れて行かれるやら……)」




