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幕間   魔女と少女の話

前の話で、少年と出会った少女の過去です。


残酷で気分の悪くなる描写があるかもしれませんのでご注意を。

魔女と少女にとっては、ハッピーエンドが訪れます。



 ある国の端に、現在も存在を確認されている中で有数の力を持つ魔女の塔が存在している。


 数百年前から名が記録に残っている魔女は、あるときは少女の姿、あるときは妖艶な女の姿、ある時は老婆の姿と、様々な世代の姿で現れたという。


 魔力は歴史に残る稀代の大魔導師達とは少し劣るとされているが、それでも「今でも確実に居る」中では、ほぼ最高の魔導師だと言われている。


 魔女は、知識や研究について悪食とも言える無差別さで自身が興味をもったものに対して研究に没頭する。得意分野は魔法薬の作成だったが、他の魔法についての造詣も深かった。


 数百年前、魔女の住処がある国が建国された際、王と魔女の間である取り決めが成された。お互い不干渉である事と、偶に研究成果を下賎して魔法式の発展に寄与する事だ。


 そのため何年かに一度、定期的に国の特使団が訪れる。魔女は気まぐれに自身の研究成果の内、飽きた物からいくつかを断片的に授けた。それが原因で多少の混乱や騒ぎが起こる事もあるが、概ね、国の繁栄に寄与する内容である。


 魔女は今日も明日も明後日も、暇潰しのために研究を続ける。だが、この世界に無い知識も得たいと欲が出て、かつて交友もあった”転生者”や”転移者”の世界も見たいと、次元を超えて別の世界を覗き、鑑賞する術式を完成させた。


 そして、魔法は表向き存在せず”かがく”が発展しているという、ある世界を観測し始めた。



 観測のために焦点をあわせると、狭い部屋の天井が見えた。誰かこの世界での人族の身体を視点にしてしまったかと思い、視線位置をずらすと、横に巨大な赤ん坊がすやすやと寝ている姿を確認する。


 思わず「ひっ」と声が出てしまった。これは、眠りこける西方竜の王を、師匠に連れられて間近に見た時以来だった。


 だがよくよく観察すると、赤ん坊が巨大ではない事がわかる。視点が固定されているものが小さかったのだ。魔女はほっと胸をなでおろすと、術式を制御して依代を動かす。


 だがどうにも動かし辛い。人形にどうやら固定されているようだが、その人形の関節が固定されており、動くのは両腕と胴体周りだけなのだ。


 どうにか胴体を接合部で回転させると、何が器になっているかがわかった。柔らか目の素材でできた、胴体と腕しか動かない人形だ。


 世界記憶に接続した所”そふび”という素材でできている人形らしい。


 魔女は依代を変えようと考えたが、一度、その世界の因果律に半固定されてしまったため、余計な干渉をすると反動が起きる可能性があったので自重する。


 そして、諦めたように人形の姿勢だけ戻して赤ん坊の方に向き直る。赤ん坊の顔を見つめている内、何が気に入ったのかいつの間にか微笑みながら、魔女は飽きもせず赤ん坊を観察しつづけた。



 魔女が観察をし始めて数日。赤ん坊とそれを取り巻く状況を整理する。


 赤ん坊には今、女親が居ないらしい。周辺の道具の高度さから王族や貴族の類かと思ったが、乳母などは居ない。やはりあの世界から渡ってきた者達の言葉は真実なのだと、今更ながら感心した。


 そして赤ん坊を抱き上げ、あやし、食事を与えるのは、いつも同じ男の役目だった。


 どうやらその男が赤ん坊の父親らしい。育児は手馴れている様子だが、別途、仕事をしているためか、朝、赤ん坊をベッドから取り上げては、一緒に居なくなる。夕方か夜には二人で帰ってくるので、日中の仕事でどこかに預けているのだろうと考えた。


 推測に過ぎないが、身動きが困難な依代ではそこまでが限界であった。赤ん坊の姿が見えない間は観測はせず、目の前に赤ん坊が居る間はじっと見守るのが、魔女の習慣になりつつあった。



 殆ど同じような日々が続くが、魔女は赤ん坊から目を離せず、いつも大体同じ時間に観測をする。観測を続けて3年が既に経過し、赤ん坊から幼児と呼べる状態になっていた。


 赤ん坊が泣き出し、父親が手を離せない状況で、こっそり人形を動かしてあやしたり、病の気配があれば人形に音を立てさせて父親にそれとなく知らせたりと、ままならない依代で獅子奮迅の活躍である。


 立ち上がれるようになってからはさあ大変。依代の観測範囲から簡単に出てしまうので、常に必死に情報収集に費やしてきた日々だ。


 だがこの日、観測の際に違和感を覚えた。幼児の側に居る事は確認できたが、向こうに飛ばしている術式から戻る情報が多くなっていたのだ。


 どうやら、魔法式の改良が功を奏し、違う依代に入れたらしい。不思議な事に、幼児は新しい依代に興味が移った。


「こっちが…わかるのかしら?」


 以前までの依代より、今の依代を抱いて寝ることが多くなった。形状は角張っているため寝づらいだろうに、寝る時に無いとぐずるのだ。父親は少々困った顔で、我が子の好きにさせている。


「司令じゃないが、メトロフレック●、我が子の防衛を頼む」


 新しい依代は動きづらいとはいえ、関節の数が多く、部屋の中であれば動き回れた。ただ、動いている事実を幼児が認識するレベルでの動作は避けている。


 幼児は泣いたり笑ったり動きまわったりと大忙しだが、概ね聞き分けは良く、父親の言う事はきちんと守った。守った上で斜め上に解釈して失敗する事もままあったが。


 やはり、幼児の観測は飽きなかった。




 幼児が育ち、幼女になる。暦と照らし合わせるなら5歳児程度だろうか。今日も魔女は観測と観察を続けている。

 ただ魔女は、幼女が変な所で父親の影響を受け始めている事に気付いた。


 ある日、父親が休日で本を呼んでいた時、一人で遊んでいた幼女が立ち上がり、父親にまとわりついた。魔女は依代を操作して視点を変える。


「ぱぱ、てれびみたい!」

「そうかそうか、何を見たいんだ?」

「えとね、ろぼっと!」


 あい! という感じで片手を上げて元気よく答える幼女。父親はどこかバツの悪そうな顔だ。


「プリキュ●じゃなくて?」

「こないだみてたの! おーたがばきゅーんばきゅーんしてるのがいい!」

「パトレイ●ーのTV版か…、いいよ、DVDだそうか」


 父親は本棚に収まっている沢山の箱から、娘が望む映像が収まった光る円盤を取り出した。これは、幻像の情報がおさまった円盤を専用の魔法器具に入れ、連続で動く幻像を映し出す代物だ。


 魔女は悩んだ。子育ての経験は無いながら資料は十分持っている。だが、この年頃の子供が好む物語の傾向や嗜好と、幼女はどうにもずれているのだ。


 それは、大好きな父親の影響が大きい。普通ならいわゆる「女の子らしい」ものに惹かれる中、幼女はそういった物に一定の興味は惹かれつつも、最も食い付くのが「ろぼっと」の事だった。


「俺、育て方、間違ったかなぁ」


 天国の妻に詫びる父親。膝の上では、幻像で映しだされている魔像こと「ろぼっと」の姿に、大はしゃぎする幼女の姿がある。


(あなたのせいよ!?)


 魔女は妻でもなんでもないのだが、あらぬ嗜好の方向に向かいつつある幼女の将来に、一抹の不安を覚えていた。




 それから数年が経過していた。魔女は今日も観察を続ける。幼女は少女となりつつあり、可愛らしさは花盛り。父親は趣味が良いのかそれともアドバイスしてくれる者でもいるのか、魔女が見てもセンスの良い服を娘の為に用意する。


 仕草も幼女時代のような大雑把さは鳴りを潜め、小さな淑女といっても間違いではない可愛らしさを備えつつある…、というのは魔女の贔屓目か。


 だが、それ以上に少女はろぼっと好きが加速していた。


 仮想領域で表示される幻想を動かす「げーむ」を父親が遊んでいたのだが、それに興味を示すや否や物凄い勢いで攻略を進め、操る巧みさに父親はもう追い付けない。流石に、自律制御式を組むような「げーむ」では父親に軍配が上がるが。


 それと、手で持つ程度のろぼっとを組み立てる「ぷらもでる」にも興味を示していた。あまり部品点数が多いものは困難な様子だが、それでも、ある程度の規模のものは自分一人で組み上げる程になっていた。


 そして現在、再度変わった魔女の依代は、少女が作ったぷらもでるになっている。変わった当初は戻ってくる情報量に涙目になった。それから把握できた構造の複雑さ、精緻さに驚きつつも、人間に近い動作が可能になって部屋の中であればほぼ造作なく動き回れる事に喜んだ。


 ただ、部屋から外に出ると干渉範囲から出てしまうのか幻像が途切れる。喜び勇んで扉から出ようとした途端に動作が停止し、再度、接続ができた時には目の前で父親が少女に平謝りする姿があった。


 何事かと思ったら、少女の机からお気に入りのぷらもでること依代が転がり落ちていたのを、父親が触れて落としたものと勘違いしたからだった。


 父親にはやった記憶は無いのだが、冬着を春服に変えようと少女の机の側にある押し入れを開けたのは覚えている。


(ごめん! ほんとごめん!)


 魔女は心の中で父親に謝りつつ、依代が壊れなかった事に今更ながら安堵した。その後、新しいぷらもでるを買ってくる事を約束させた少女は、満面の笑みになったという。現金なものである。


 そこは女の子らしくお菓子とかか衣装とか玩具でしょうに、と思わず突っ込んだ魔女であった。



 少女はさらに成長している。魔女は我が子の成長を見るかのように喜びつつ、その日、少女が着た制服を見て首をかしげた。


「街の娼館や衣裳屋にあった”せぇらぁ服”と一緒?」


 日本からの転生者や転移者はどうにも業が深いらしい。もっと業が深い部分といえば、強力な護符と術式により、超高級な探索者や傭兵用の魔法装備として作られている物があったりする所だろうか。


 魔女は色々と複雑な感情を抱きつつ、少女のせぇらぁ服姿を観察する。


「うん、贔屓目無しにこの子が一番可愛いし似合ってる」


 十分贔屓してまんがな、と突っ込める人は魔女の側には居なかった。


「お、着てみたのか。うん、似合ってるぞ」

「ホント? うふふ」


 スカートを翻してくるりと回ってみせる。魔女は思わず出た涎を拭った。少々、危ない方向に向かっているかもしれない。


「明後日は中学校の入学式だ、パパはちょっと仕事を片付けてから行くから、少し遅れるかも」

「ううん、いいよ、お仕事、頑張ってね」

「じゃあ行ってくる」

「はい、いってらっしゃい」


 それが、父親との最後の会話になった。



 少女の中学校への入学式当日、父親は娘と学校前で待ち合わせをしていた。


 だが、横断歩道をわたっている最中、信号無視して突入してきた車が玉突き事故を起こし、跳ね飛ばされた軽自動車が父親を押しつぶしたのだった。


 魔女は、いつまで経っても帰ってこない少女と父親の事を心配していた。遅くとも夕方までには戻ってくると思われた少女も、遅くはなっても2日以上は家をあけない父親も、戻って来なかったのだ。


 次の日の夕方、表情が消え、新品だった筈なのにシワだらけになった服で、少女が部屋に戻ってきた。だが、父親の姿は無い。


 少女はその姿のまま、机に突っ伏した。疲れていたのだろう、そのまま寝入ってしまう。


 魔女は依代を動かし、少女の髪に触れた。そして何があったかを探るため、短期記憶を読み取る。


 痛みが走った。だが物理的な痛みではない。少女の感じた、心の痛みだ。


 そして、父親が病院で亡くなった事を知った。偶然とはいえ、少女を間近で一緒に見守り続けてきたあの父親が、事故で致命傷を負い、治療のかい無く。




 どこにでも有り得るありふれた悲劇だろう。


 だが、少女が赤子であった頃からその姿を見守ってきた魔女にとっては、我が身が引き裂かれんばかりの心の痛みだ。


 自身の工房内で手足を使って大暴れ。髪を振り乱し、壁を殴りつけ、狂乱した。


 塔の上に出て、中へ向かって自らが持てる魔力の全てを駆使して、音と光だけはド派手な魔法を乱射する。周囲に棲む魔獣や獣達は、恐ろしい轟音と怪しげな光の乱舞にただただ恐怖した。

 山一つ向こうで探索していた冒険者や傭兵達は、空に乱舞する光の渦を見て取るや、踵を返すと所属する組合に相次いで報告に行ったほどである。


 しばし暴れた後、魔女は思考する。自己の膨大な思考領域に、いくつもの仮想の模造知性を作り出し、議論と討論と罵倒と、性質を変えた思考を用いて何をすべきかを考える。


 そして、気の遠くなるような因果律の調査の結果、少女の因果律を捕捉する。解析した結果、出生時点から定められた運命の災禍を発見した。

 それは時限式の爆裂魔法式のようにも見て取れた。他の人間と較べて、余りにも理不尽な振れ幅を示していた。上限が他の人間程度であるにも関わらず、谷になる部分が余りにも深いのだ。


 それに気付いた魔女は、ギリと歯を食い縛ると悪影響を極力抑えながら、少女を襲う運命と因果の流れへの干渉をすべく、動き始めた。


 その間も、少女の観察はかかさない。いつしか、依代は少女自体に移ったが、視点があまり近くに寄れない。少女の動作に干渉する事もできるが、影響を考えて極力、行うことは控えた。




 父親の姿の無い部屋。狭い部屋だったが、それでも広く感じてしまう。


 あの日以来、少女は泣かない。心と認識が追い付いて居ないだけとも考えられるが、泣かないのだ。


 ただ、眠りについた時、稀に一言だけ、


『お父さん…』


 と言った時だけ、一筋の涙を流す。


 魔女は水晶球を覗きながら、まるで自分の事のように涙を流した。涙を流しながら、少女が幸せを掴む方法が無いか、必死に考え続けた。




 数年が瞬く間に経過した。魔女は世界に影響の出ないレベルでの干渉方法を見つけ出し、少女の因果歪曲を修正し続けている。


 少女の歳は一七歳に届き、魔女の世界では既に成人となる年齢を越している。少女の世界ではまだ子供と扱われている様子だが、世界記憶庫によればこの国での結婚可能年齢ではあるらしい。


 少女は魔女の見立て通り、美しく育っている。胸も腰もほどほどに育ち、若さと色香が両立している。魔女は自身の今代の身体と見比べて、重たいからと育てる設定をしなかった事に今更後悔した。


 それはさておき、少女の居る世界での教育制度は大多数の平民にも施されており、統一された制服は小奇麗で華美だった。装飾が少なく、それでいて機能美と愛らしさに溢れている。


 気の置けない友人も多く出来たようで、思わず知らず、魔女はその姿を見て微笑む。観察を続ける最中、父親の事を知り、一緒に涙を流してくれた友人も居る。それは、かけがえの無い絆を少女に与えていた。


 よく笑うようになり、休日は屋内で過ごすことが多かった少女が、外で積極的に過ごすようになった。


 ただ、年頃の子女の趣味としては特殊だ。幼少期、父親が楽しんでいた”ろぼっと”の姿に魅せられ、教育施設内での同好の士の集まりの内、金属を用いた魔像の製作に熱をあげている。


 趣味の領域では少々心配もあるが、魔女の世界に比べれば安定した制度と社会体制が敷かれているので、このままなら、少女は幸せを順当に掴むに違いない。


 余りに偏りの酷い因果歪曲については修正したが、転生者などを迎えるような魔力移動に比べれば微々たるものだ。


 少女を見守り始めて結構な時間が経つ。その間、不慮の死を迎えた何人かの魂が別の世界へ引き取られたことを確認している。それと比べたらほんの細やかなものだ。


 色々挫折や壁もあるだろうが、そこは少女の芯の強さがあれば乗り越えられるだろうし、事実、少女は頑張りと性根の健やかさで切り抜けている。今日など、前日まで上手く行かなかった、小型の魔像の歩行に成功していた。


 これならもう、大丈夫だろう。


 魔女は少女の観測と干渉から離れる事に一抹の寂しさを覚えつつ、これ以上の干渉は余分な問題を引き起こす可能性があるかもしれないと訴える”祝福”の報せに従い、少女の継続観測を打ち切った。


 少女が健やかに、幸せになれるようにと願いながら。




 魔女の記録では十年が過ぎた。


 何度か国の使者が訪れてきたので、いくつかの小さな成果を伝えた。使者達は涙を流して喜んでいたが、魔女にとっては児戯と思いつきに等しいレベルであり、毎度、不思議に思う光景である。


 研究による魔力の使いすぎで、魔女は薹が立ち衰えが見え始めた身体から、新たに製作していた身体へ交換した。歳の頃は十代前半を模してある若い体だ。視点がどうにも低くなりすぎている。少し、若すぎたかもしれないと苦笑する。


 ふと懐かしくなり、補足していた波動を頼りに、少女の様子を見るべく水晶球を覗く。不必要な干渉を引き起こさないよう、慎重に慎重に術式を操作した。


 だが、おかしい、少女の姿がどこにもない。


 あるのは、褪せたというか派手さの無い色合いの花々と、白木でできた箱だけ。中を覗く事はできなかった。


 魔女は嫌な予感に襲われながら、視点を動かして周囲の様子を見る。


 周囲には、かつて少女が関わった友人知人が、それぞれ、黒い衣装を纏っており、総じて悲しみにくれている。時間が経っているせいか、総じて相応の歳を重ねていた。


 黒い衣装。白木の箱。魔女はかの世界の世界記憶へ意識をつなぎ、意味を知る。


 魔女の居る世界と同じである。黒は、死者を送る衣装だ。


 体中から力が抜けた。手に力が入らなかった。魔女は呆けた表情で、参列者達の口の動きで少女に何があったのかを知る。


『強姦された後…』『顔は酷い有様だったそうだ』『腕や体中に煙草を押し付けられた跡が』


 少女は、強姦者の集団に拉致された後、幾度も嬲られ、犯された挙句、車から道端に投げ捨てられ、その時の衝撃で首の骨を折って死んだ。


 それが、魔女が断片的に聞くことができた情報である。首の骨を折ってもすぐに人は死なない。ゆっくりと苦しさと冷たさを感じながら死に向かう。


『なんで、なんでよ…っ! 助教授目指して、頑張ってたじゃない!』


 参列者の一人が、開くことの無い棺桶の小窓を前に堪え切れず泣き出す。それを見た何人もの参列者が、震えながら目を伏せた。


 大抵の場合、死化粧というか体の破損の保全も含めて、故人と最後のお別れの際は、その顔と対面する事ができる。


 だが、少女の葬式では、それが行われなかった。遺体は欠損こそしていなかったが、顔面の変形は修復の限度を超えており、また、その死の前に行われていたであろう強姦行為の事を考えれば致し方ない事かもしれない。


 花に囲まれた先には、白衣と少々野暮ったい眼鏡をかけ、それでも隠しようのない華やかな笑顔をした、成長していた少女の姿が絵で飾られていた。


 だが、その成長した姿を、動く姿を、魔女は見られない。永遠に見ることができない。棺桶の中にあるのは、無残に壊された、少女の亡骸だけだ。


 少女は少ない親族と多数の友人達に見送られ、火葬された。




 生物的多様性から特異な個体、異常な個体が出ることはある。突発的状況への対処に役立つこともあるが、知性と社会性を備えはじめた生物にとっては、異常さは群れの存続を脅かす。人間は、社会に害を成すものを排除、抑制するために、法律を定めた。


 だが、罰則はあっても尻尾を捕まえる事ができなければ、意味は無く、犠牲者は増え続ける。法律と制度を軽視し、欲に浮かされて国家の法を蔑ろにする存在は、過去の熱を忘れる事はできず、繰り返す。異常者というものは、そういうものだ。


 突発的なイレギュラーによる不運。言葉にすれば簡単だが、これを完全に防ぐには巨大な労力で管理と監視を徹底するか、多様性と知性を捨て去る他無い。




 魔女は身動きができないまま送られてくる映像を見続け、少女が父親と同じ墓に葬られ所で、ようやく立ち上がった。


 虚脱状態から一転、魔女の中に怒りが燃え上がる。


 少女は、余りにも理不尽な暴力と欲望で、汚され、辱められ、壊され、命を落とした。


 魔女は怒りに震え、これまで封じてきた方法で向こうの世界に干渉しようと決意する。


 その直後から、自分にいくつか備わった祝福の内、危機を知らせるものが鋭い警告を発した。干渉を感知した向こうの次元の防衛機構、管理者、そんな感じの存在が動き出したと。


 構うものか。


 これは単なる八つ当たりだ、止めたいなら止めてみせろ。

 世界を支える柱としての役割?

 そんなもの、潰した直後に別のを立ててやるから、かかってきた順に遠慮無く消え去るがいい。

 あの理不尽が公平な運命と言うなら、お前達もその対象だ!


 怒りに突き動かされる魔女は、自身に備わるありとあらゆる力に加え、こちらの世界とあちらの世界、双方の世界記憶から知識と秘技を引っ張り出し、顕現し始めたそれら尽くを順に解析、侵食、力の奪取、因果律の破壊、代わりの存在の割り込み固定をこなしていく。


 その内、干渉も収まったのだが、向こうの言葉でそれを評するなら”触らぬ神に祟り無し”と判断されたのかもしれない。


 魔女の力は向こうの世界で数多くが鎮められ祀られている荒ぶる神に匹敵する。こちらの世界に存在するドラゴンや神々に比べれば飛沫のような力だが、魔女の怒りが向こうの世界自体に直接向かったなら少なくない被害が出ただろう。


 尚、世界崩壊を防ぐよう代わりの柱を入れ込んだのは、理性が残っていた訳ではなく、少女の墓と愛したものたちが残っていたからに過ぎない。




 干渉とその対抗措置が終わると、魔女は次に本命たる獲物たちを検索する。


 少女の体を媒体に、時間軸から接触のあった魂の痕跡を選びだした。その中で、少女の怒りや恐怖といった負の感情がまとわりついた男達の魂に印をつけた。男達の記憶を辿り、精神体の歪みを記録し、同じように歪んだ形をした男達を多数、選び出した。


 法則が異なるため直接的な魔法の行使はできないが、向こうの世界でも用いられてきた魔法の力ならばと、翻訳魔術器を通し、自壊式の自律制御術式を構築して起動する。ありとあらゆる「呪い」を集め、凝縮した。自壊式にしたのは、数少ない魔女の理性と配慮だったのだろうか。


 蟲毒、という呪いの方法がある。害や毒を持った様々な生き物を一箇所で殺しあわせ、生き残った生き物を殺してその毒と呪詛を用いるという呪いの方法だ。


 魔女はそれに近い方法でかの世界の呪いの残滓をかき集め、戦わせ、混ぜあわせ、それを呪いの核として用いて、今ものうのうと生き延びている連中へと解き放つべく術式を組み続ける。


 呪いというのは、呪いの言葉も含まれる。男達がこれまでゴミ屑のように弄び、辱め、直接的、間接的に身体や心を壊して殺して行った女達の今際の言葉。その怒り、悲しみ、そういったものも含まれている。


 術式を制御し、情報をつぶさに見て少女の無念をと干渉をする最中、余りにも多いそれが自然と集まったのだ。その事にも魔女は怒りと憎しみを覚えた。

 魂が囚われている場合はそれを昇華、正しい円環へ導きつつも、残滓となる負の感情をこねては凝縮しを繰り返す。


 そして、完成。


 天災的な天才と呼ばれた魔女の手腕で組まれた術式は、恨みの念を凝縮した呪詛の塊。数多くの秘技や魔術、魔法が表舞台を去ったかの世界では久方ぶりの巨大さになったそれは指向性を与えられると、数多くの女達の涙と嘆きを燃料として、嬉々として目標へ襲いかかった。




 ある日を境に、少女を犯し、殺した男達を謎の衰弱と悪夢と不運が立て続けに襲い始める。


 ある男は車の運転中、人影に驚いてハンドル操作を誤り、ガードレールに激突した。

 シートベルトをしていなかった男はフロントガラスを突き破り、ガードレールの先にあった「刈られた細竹」の跡に体中を突き刺された。

 人通りが少なかった道の為、発見が丸一日ほど遅くなり、男は体中を激痛が襲い続ける中、死ねず、動けず、痛みに狂いかけていた。病院に運ばれたが、刺された跡が尽く壊疽し、回った壊疽毒で苦しむ。切断により一命は取り留めたが、手足を失い、顎も変形して強く噛む事もできない男は、死ぬ事ができないまま苦しみ続けた。


 ある男は、いくつか楽しみに使用している廃屋の一つで、様子見にと訪れた際、床板が腐っていてそこに落下した。

 穴は汚れた絨毯で隠れてしまい、落ちた先は一点、どこからかの明かりが見えるだけの暗闇。男は両腕両足を内部骨折して、身動きが取れない中、眉間に落ちる水滴とまったくの無音、そして「これまで犯してきた女達の」恨み事を耳に、延々と聞き続ける事になった。

 舎弟の一人が男を発見した時、そこにあったのは、アゴが砕け、糞尿を垂れ流してあらぬ方向に手足を曲げた状態で、恐ろしい何かを見たかのように白目を剥いて気絶している男の姿だった。病院に運び入れたが、折れ曲がった手足は決して元に戻らず、夜になると狂ったように叫び続けている。


 一人の男は、夜毎襲ってくる悪夢に、麻薬に逃げた。だが、よくあるように麻薬の過剰摂取で体が限界を超えて死ぬと言った事は無かった。いくら強い薬を使っても、体が死なない。快楽に逃げようにも、幻覚の先に見えるのは、腐れた手足で男を抱き込み、体中を痛みと共にむさぼる女達の無数の屍体だ。

 体中が虫や死人に貪られる幻覚を男は見る。だが、ふと気付いて薬が抜けると、それは跡形も無い。

 酒を飲んで記憶を無くして眠ることはもうできなかった。寝る度に悪夢に食われる。体はみるみる衰弱していく。

 悪夢を終わらせるため死のうとしたが、男は気付いた。もう、死ぬための準備すらできない事を。

 刃物を持つ力も無い、どこかに縄をかける事も、舌を噛む歯も無い、そもそも立ち上がる事すら…。

 そして眠気が襲う。あの、長い長い悪夢へ誘う睡魔が。

 男は隣の部屋の住人に通報されて病院に運ばれたが、夜が怖い、眠るのが恐ろしい、殺してくれと懇願し続けているという。


 ある男は、ある日からギャンブルや勝負事に負けるようになった。9割は勝てると踏んだ勝負にすら負ける始末だ。

 借金が少しずつ嵩み、補填のために臓器すら売ったが、弱る体とは裏腹に社会の底辺のさらにその底辺に押しやられていく。生活保護の申請は、以前からのギャンブル体質を理由に断られた。脅しをしようにも、なぜか毎度、警察官が窓口の近くに居てそれも不可能だった。

 日雇いの仕事を血反吐を吐くような苦労で行うも、生来の浪費で一日、また一日と衰弱していく。とうとう動けなくなったその日から今度は、これまで不幸に叩き落としてきた女達が夢に出てきた。悪夢が続き、目覚めれば忘れかけているが、寝れば鮮明に悪夢が襲う。

 精神病院送りとなったが、自覚できない狂気に陥る事ができず、衰弱した身体で悪夢を見続ける事となった。


 ある男は…。いや、もう語る事はなかろう。補足とするなら、男達と関わりあった中で、少女以外の女達を強姦してきた面々も同じ呪いを受けた。


 魔女が術式に組み込んだ、ほんの少量の<精神補填/メンタルキュア>と<生命維持/ライフサポート>の魔法式は親切心ではない。簡単に死んでも発狂しても、罪の対価に成り得ないからだ。


 ありとあらゆる不運が男達を襲い、身体をボロ雑巾のように壊し、眠りは悪夢を呼び、体は衰弱し、それでいてすぐに死ぬことができず、心は最後の寸前で完全な発狂はできずに引き戻され、何度も何度も何度も! 慣れる事ができない新鮮な恐怖と絶叫と苦痛に苛まれる。


 それが魔女が男達に施した呪いの結果だった。




 術式の全目標発動を確認した魔女は、ぽっかりとあいた胸の虚しさを覚えると虚脱したように座り込んだ。


 こんな事をしても、あの少女は帰ってこない。


 せめて、あの世界での冥福を祈ろうかとも考えたが、自身の祈りが少女の世界に届くとは到底考えられなかった。そもそもあの世界の神が大嫌いになっていた。


 何かしてやれる事は無いかと思いついたのは、結局は、自分の大事なものを壊された事への報復に過ぎなかったと考えると、身勝手さに震えが出た。


 それなら、いや、自分が魔女であるのなら、最後まで魔女らしく、見守ってきた玩具を手元に置こうじゃないか。


 支離滅裂な思考の帰結。思い立ったら吉日、これまで全力で動かした事の無かった工房と儀式塔にこれでもかと溜め込んだ魔力をつぎ込むと、使うことは無いと考えていた術式を呼び出し、目的の為に組み始める。


 魂の召喚は不可能でも、途切れる前の記憶ならば!


 乗り換えの為にいくつか用意していた予備の中で、生育を失敗して保存だけしていたものを選ぶ。


 捨てないでよかった、作っては放っておいたりしまっておく癖に感謝しなければ。

 魔女は魔法式を起動させ、自身の記憶から、あの少女の最も美しい時の姿を思い出し、それに沿って目の前の予備の体を作り替える。


 造形に満足した所で、大規模儀式型の魔法式の前に予備だったモノを横たえた。


 滅多に使わない詠唱をし細かい繊細な制御を始める。地脈から吸い上げた膨大な魔力を自身の魔力で制御、構築した魔法式を転写し、儀式型の魔法式にあわせた。


 そして、魔女が大規模魔法を使用してより二年が過ぎた。




「それで? 母さんは勢いで私を呼び出したというか作っちゃったって訳なの?」


 その日、一人の少女が魔女に問うた。


 記憶の齟齬や断片の混乱が落ち着き、魔女の予備の体、もとい、新たな体を得た少女だ。以前は二十代前半の年齢だったが、こちらでは十代中盤程度である。


 そう。あの日、強姦者達に犯しぬかれ、捨てられ、命を落とした少女は、まったくの異世界に記憶を持ち越し、新たな生を受けたのだ。


 容姿は似たようで違い、魔女と少女の姿を並んで見た者が居れば、姉妹と言って間違う事も仕方ない事だろう。尚、魔女の方が年下に見える。


「え、ええ…、どうしても、我慢できなくって、つい…」


 実行された魔法式の規模、使用された魔力量からしても、つい、で済まされるレベルではない。さらにその前は、あの世界の守護者達を散々に傷めつけ消滅させたのだ。八つ当たりで。

 これと決めたら突き進んで行き当たりばったりなのは、自分が自分で無くなるまで変わらないのだろう。


「行き当たりばったりかー!?」

「ご、ごめんして! ね? ね?」

「色々迂闊だと思ってたけど母さん…、勢いでの行動も限度があるよ…」


 魔女は少女から「母さん」と呼ばれていた。新たな生を受けたが、こちらに持ち越されたのは記憶だけだ。本来の魂自体はかの世界の円環の輪に旅立っている。


「この歳で異世界トリップかー、うわぁ、なんだかなー」


 とは少女の弁。理解はしても受け入れるには少々時間はかかった。しかし、魔女は勢いとはいえ少女の為に失敗もなりふりも構わず、救い上げた事は事実で、少女は自然に「母さん」と呼び、それを魔女も喜んでいた。


 外観が小柄な年寄りから年々、ほぼ十歳位ずつ若返る母親ではあったけれど。今は十代前半の容姿に落ち着いている。


「私自身は、母さんの予備体であっても魔力量も殆ど常人近いし、以前から作業用のとか実験用とか作ってたから、気合入れたけど失敗しました、テヘ☆ で済んだと…」

「まあ、そんな所かしら。格が落ちる龍脈だったしね」


 魔女が協力する国の研究機関からは、使用された魔力量に戦慄し、調査団と国の騎士団が派遣された。失敗していれば周囲数キロが吹き飛んでいたし、結果的に成功ではあったが、代償として魔女の体が数年、老化状態から戻らない程でもあった。


 一度に使われた量が、大陸を半壊させる戦略級魔法に匹敵する魔力量であり、もしもそれを他国が外交問題にしたならというレベルから、何かよくないものを呼び出したりしたらという内憂問題まで、色々と物議を醸す事態がその日起きたそうだ。


 魔女は建国黎明期から国に居を構えて自己の研究に専念しているが、そんなありえない量の魔力が検出された事が国の上層部を震撼させた。


 完成した?ものは「人族」大の魂と多少大きな魔力量を持った魔女の映し身に過ぎない。


「優秀な助手が…、うん、欲しかっただけよ」


 数百年の間に培ったポーカーフェイスで魔女は告げた。国の代表達はその言葉を信じる他なかった。


 尚、一定以上の魔力使用をする儀式魔法については立会が必須という”約束”が交わされたと、少女の「新たな母親」は言った。


「人間、歳をとれば落ち着くって言うけど、母さんはどれだけすれば落ち着くのよ」

「あ、酷い、遠回しにおばさん呼ばわりしてる?」

「てか年齢からすれば立派におばーちゃんでしょうが!」


 実際、目覚めてから数年の間は、少女の前では魔女は小柄な老婆の姿でもあった。日毎に若返っていくのは、魔法というファンタジーな世界に理解があってもちょっとしたホラーである。

 確か、漫画の巨匠の作品に、若返り続ける罪人が出てくる作品があったなぁと少女は思い出す。


「ふふーんだ、この体は育成期間入れてもまだ、一七歳ですから。それに最初の体から何歳かなんて、数えるのやめてるもーん」

「もーんて…、何、永遠の一七歳とか言っちゃう訳?」


 思わず知らず、おいおい、と突っ込む素振りを見せるが魔女は何の事か判らず首を傾げる。


「体に影響する<停滞/ステイシス>は使ってないわよ」

「そういう事じゃなくて! …ああもう」



 少女は神妙な顔で魔女の顔を見る。先ほどまでの緩んだ空気は欠片もない。


「私はそこまでして、助けて貰える価値はあったの?」


 少女は以前の記憶を全て持ち越している。そこには、自分の「以前の末期」まである。暴力と痛みと、寂しさと冷たさも含めて。


「私の我儘で呼んでしまったから、助けられた訳じゃないわ」


 魔女はそう言って俯いた。


 少女が目覚めた時、記憶の混乱はあった。薄靄にかかったような思考だったが、1つずつ、丁寧に、自分のこと、現在のことを魔女は教えた。辛い記憶も思い出したが、それは手に取った本を読むような塩梅で冷静に思い出すことができた。

 それは魔女の手による丁寧な記憶封印とその解除だったと知ったのは、今際(いまわ)の記憶を思い出した時だ。


 魔女は俯いたまま「娘」の体を抱きしめた。傍から見れば、歳近い姉を妹が抱きしめるような格好にも見える。


「貴女の成長全て。子供を生んだことのない私だけど」


 心を痛めた価値はあったの、と顔を上げて魔女はささやいた。


「母さん、最後はあんなだったけど、私、幸せな事もあったし、今は新しい私で、母さんも一緒だもの」


 だから泣かないで、幸せをくれてありがとう、見守ってくれてありがとうと少女は言った。魔女の目尻に浮かんだ涙を拭いながら。


 お互いの目から溢れる涙。抱き合いながら、溢れる感情を抑える事ができず、魔女と少女は…、否、母親と娘はわんわんと泣いた。



 ひとしきり泣いた所で離れ、少女は母親に問う。


「…所で、全部見られてたのよね私?」

「あの世界での成人以降は見てないわ。五歳の時のおねしょとか、八歳の時、夜中に用足しできずにとかは見て…」

「忘れて! それは流石に!」


 記憶だけだが、あれやこれや、尽くを見られていたと考えると顔から火が出るほど恥ずかしい。


 落ち着いた所で少女は問う。


「私は、何をしたらいい?」

「国の取り決めで罪にならないことならなんでも。定期的に帰ってくるって約束してくれたら、旅に出て見聞を広めてもいいわよ」


 あの世界に較べて、娯楽も少ないでしょうしね、と魔女は言う。


 この世界で過ごした時間を合計すると、四捨五入で三十歳である。少女は外の世界の冒険という目標も視野に入れつつも、自分が大好きだったあの人形達(ロボット)を作りたいと言った。


「手乗りの魔像を作りたいの?」

「えっと、うーん、ちょっと違うかなぁ。私が作りたいのは、乗れるような大きいの」


 魔女の住処の門番になっている<魔像作成/クリエイトゴーレム>による魔像(ゴーレム)は、それはそれで少女の心をくすぐったが、造形や動作についてはまだ不満があると言う。


 あの世界で見た”ろぼっと”を作ってみたい。


 少女ははにかみながら、そう告げた。

 魔女は付与系や護符系については上級者ではあるが、不得意な分野である。使役している数多くの魔像は複合型の魔術で多少はアレンジしているが、かつて居た大魔導師の術式のデッドコピーでしかない。


 記載、配置可能な魔法式の規模から最低でも2mほどの大きさになる魔像は、素材次第ながらその大きさから耐久力と腕力に優れているが、動きは総じて鈍い。

 また現行で普及している魔法式でも、上級に分類される魔法<物体破砕/ディスインデグレイト>や、そもそもの駆動魔力や制御術式を消し去る<術式解除/ディスエンチャント>や<魔力消去/ボイドマジック>に弱い。


 それなりの能力があれば、不慮の遭遇でも無い限りは上級に入りたての傭兵や探索者達には対処ができるのだ。

 事前準備さえ怠っていなければ、中級者も対処できる。これは、各国家が抱える中級以上の騎士であれば何ら障害にならない事も示唆している。


 魔獣への壁役、囮役としては役に立たない事は無いが、足が遅いので動きの早い相手はどうしても苦手だ。しかも命令を与える際の魔力消費は小さくとも、作成と維持費用の問題が大きく横たわっている。そのため主な用途は土木建築や、街や都市の防衛に限られている。

 形状を工夫して荷物運搬等にも使う個人や組織、または国もあることはあるが、まだまだ趣味や研究の範囲に過ぎない。


 この世界に渡ってきた”転生者”や”転移者”の中にはかつて挑戦した者も居たようだが、既存の魔法式では巨大になり、かなりの魔力を注ぎ込んで強引に運用していただけなので、形はどこかで見たようなものがあるが、恐らくは少女の考える”ろぼっと”にはならないだろう。


「確かに、今の魔像の動きと比べたら、あの世界の幻像で見た”ろぼっと”は凄い動きだったわね」


 少女が子供の頃、手を叩いてはしゃいでいた幻像(あの世界の言葉では”あにめ”と言っていた)は、魔女も楽しんでいた。少女とは違い、主に物語面であったが。


「でしょ? まあ自律制御とか自動操縦とか究極を求めて”らいん●おとめ”とか作る訳でもなし、私が乗る以上、あんまり激しいと耐えられないから程々のをね」


 教授ごめんなさい!と明後日の方向に土下座する筆者はさておき、実際に作り上げる困難は並大抵のものではないだろう。この世界には未だ存在していないのだから。


 だが、少女は前世では奇異の目で見られていたロボ好きであった。幼少の頃から受けた、父の影響もある。


 とある世界で思いのままに自分のロボを”趣味で”作り上げた元青年の少年(てんせいしゃ)に比べると、身に持つ能力や努力は何十歩も劣るだろう。


 だがロボット作品全般への造詣は劣るとしても、陸を行くロボットへの愛情と、学校で作り上げた”動歩行”ロボットの作成、大学で研究していた走行可能なロボに関する蓄積は、少女を突き動かすに十分な熱を持っていた。


 尚、少女の嗜好範囲は主に陸戦型に偏っている。


 イベントで1/1スコープドッ●やクラタ●を見て感涙し、一人暮らしでは無数のリボルテッ●やロボッ●魂に囲まれ、パトレイ●ーやダグラ●は勿論の事、ボトム●ではAT全般、ガンヘッ●は魂のメカであり、初代ならダ●よりはキャノ●かタン●、UCなら●ト最高、バルキ●ーよりはデストロイ●、ガサラ●はメカ戦しか興味無し、フルメ●では第二世代大好き、A●ではフロート以外で主にガチタン好き、チェイン●ーとAIア●とSGT507は心のハーレムと言って憚らない。


 掛け算は…しないよな? してなかったよな? PCの中身は知らないけど8○1板とか常連だったりしなかったよな?

 おい、なんで目が泳いでるんだ少女よ。


 それはさておき、まあその程度には、ロボットが大好きだった。なんだか”程度の”という言葉の使い方が間違っている気もするが気にしたら負けである。


「覚えること、やること、一杯で壁も沢山だろうけど、やるだけやってみなさい。私は応援するわ、精一杯、なんだって教えてあげる」


 生え抜きの才能とか”祝福”が無いから、かなりの努力は必要と釘は刺す。

 だが少女にとっては得体の知れない祝福やらチートやらを授からずとも、どこまで自分ができるかを試したいという気持ちの方が強かった。


「頑張る。ありがとう! 母さん!」



 この日より1年後、魔法式を扱う人族としては上級の部類に入る力を一通り修めた少女は”母”のもとを旅だった。


 そして魔女の住処からほど近い街の工房で日々の糧を得つつ研究を進めていた中、ある日、その工房で少年と出会う。


 その出会いにより、自分の望む”ロボット”作成の大きな一歩を彼女は踏み出したのだった。


小説を~を知ったきっかけが、かの作品の書籍版だったり。

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