ーー太陽の沈まぬ刻ーー
あまねく星が光りし時、聖戦が始まりを告げる。
就眠街の住民に謝罪し、街を後にするヴァレナとフレイスト。
ヘイムダルは二人に一振りの笛を託す。
ーー聴覚笛
一度吹けば小鼠を、二度吹けば狼を、三度吹けば人をも失神させる呪いの笛。
ヘイムダルの体の一部とも言えるその笛を携え、二人は修行の旅に出た。
戦いも落ち着いた頃、神界はどよめく。
軍神の訃報が届き、夜神は失踪。
神性を失った夜神は囚われの身となり、ヘイムダルが暗躍する。
ーー太陽の沈まぬ刻が始まった。
ーー永氷皇土にてーー
『ーーっと?♪ セウォルツが目を覚ました時にはフレイストの爺さんはどっかいってて、その友達のヘイムダル?って人がセウォルツをここまで連れてきた訳だな?♪』
『でもその肝心なヘイムダルって人もどっかいったつーー事は......』
永氷皇土の宮殿で状況をまとめるミザディ。
暫くの沈黙の後、絶望した顔で嬉しそうに叫ぶ。
『帰る手段消えたじゃ〜ん♪』
何か嬉しそうだねとセウォルツはひっそりとアルロイに話しかける。
『姉さんは...... 昔からそうなんです』
どれだけ絶望的な状況でも諦めず楽しみながら立ち向かう。
それは呪いのせいかもしれないが彼女の本質的な性格でもあるんだとアルロイは話す。
そんな彼女の強さを見てセウォルツは心の声が漏れてしまった。
『せっかく会えたのに......』
『え......?』
ポロポロと涙が落ち場は静まり返る。
『ヴァレナもフレイストさんもヘイムダルさんもせっかく...... せっかくここまで来て会えたのに......
皆...... 皆どっか行っちゃった......』
アルロイはハッとする。
気丈に見えて誰よりも絶望を感じていたのはセウォルツだった。
皆、姉さんのように強いわけではない...... 居た堪れず謝ろうとするアルロイをミザディはそっと静止する。
『なぁ? セウォルツ? ヴァレナは何の為にどっかいっちまったんだろうな?』
『......お前を守る為、違うか? フレイストの爺さんが言ってたろ? セウォルツに逢いたいって言って聞かないって』
......知ってる。
知ってるからこそ辛いのだ。
最愛の人が遠くへ行ってしまう現状に......。
ただ側にいて欲しいだけなのに......。
『......いつまでもぐずぐず泣くなよ 説教しに行こうぜ...... 体張って守ろうとする乙女心の分からない男にさ』
......たまには良い事言いますね。
アルロイの余計な一言にミザディが反応。
いがみ合う2人を見てセウォルツは思わず笑ってしまう。
静まり返った宮殿に賑やかさが戻ったのも束の間、暫くすると又重い空気が辺りを漂い始める。
『......帰り方が分からねぇ』
......ミザディ、アルロイ、セウォルツにとってワープ先の永氷皇土は見知らぬ地。
困り果てる3人を見て少女はぼそっと呟く。
『迷針樹林......』
『え......?』
『ここを南に抜けると針葉樹が入り組む地、迷信樹林が広がってる......』
終始無言を貫いていたかに思われたその少女、リルヴェーによって希望の道が見えてきた。
目指す先は迷針樹林!!!
『今日の主役はリルヴェーだーー!!!♪』
リルヴェーが出したマンモスの肉を片手に3人はリルヴェーを褒め宴を始めた。
少しずつだが確実に距離が縮まるリルヴェーと3人。
昼だけど夜が明けるまで飲み明かそうぜ。
ーー4人の新たな旅が幕を明ける
ーー沈まぬ太陽、永氷皇土にてーー
4人は時間を忘れるくらい楽しい一時を過ごしたのだろう。
確かにその楽しい時間は夜が明けるまで続くはずだった。
その夜さえ来ない事に薄からぬ違和感を覚えつつも終わらぬ宴に興じていくのであった。
ーー沈まぬ太陽、神々の天幕にてーー
『太陽が沈まぬ......と?』
神兵の報告を受け、僅かに空を見上げるトール。
(死んだか...... あるいは......)
一瞬の沈黙の後、即座にある男を召集するよう命じる。
『如何なされましたか...... トール殿』
『知っているだろう...... 夜神の調査の件だ。 貴様ほどの適任者もおるまい』
夜の対をなす男の名はーー
ーー昼神 ダグ
『......母の件ですか。 前々から噂にはなっておりましたが、本当とは...... 一族にとって痛恨の極み。 深くお詫び申し上げます』
『......よい。 速やかに解決せよ』
トールの任を受け、ダグは絢爛たる馬車に乗り、駆ける。
昼をもたらす神の名に偽りなく、その陽光は辺りを包み、影という影を消し尽くすのであった。
ーー夜の喪失、陸の孤島にてーー
『くっーー/// もういいでしょ?/// 離しなさいよ/// 変態!!!///』
四肢を拘束され、身動き一つ取れぬ夜神ノート。
眼下では、怪しい笑みを浮かべたヘイムダルがボディチェックをしている。
『人聞きが悪いですねぇ、元夜神さん? 私はまだ髪と指しか触れてませんよ?』
“まだ” という言葉に反応し、これ以上の屈辱を想像して顔を歪ませるノートを見て、ヘイムダルは呆れたように息をつく。
『まったく...... 指紋とDNAを取っただけじゃないですか。 変態はどっちなんだか......』
(指紋とDNAを見る限り、完全にヒトになってますね......。 より詳しく調べるなら聴診に尿検査に…… おっと、いけません。 健康診断になるところでした)
恐怖と屈辱に震えるノートを横目に、ヘイムダルは淡々と告げる。
『貴方はセウォルツの愚者の絆の効果によってヒトに堕ちたのです。 眠らないはずの貴方でも眠らせてしまった愚者の寝袋の効果によってか、従来の二倍、三倍の濃度でヒト化し、感覚を共有している』
何を言われているのか、理解が追いつかないのだろう。
しばし呆然としていたノートの体に、突如異変が起こる。
『お腹の収縮...... 過度な涎...... セウォルツは今頃、昼食をとっているのでしょう』
鳴り響く腹の音。
初めての “空腹” 。
己が置かれた現実を、ノートはようやく理解する。
『本来なら、貴方も神堕ち人同様、食事を与えてもよいのですが...... 先の戦いでセウォルツを捕らえた話も気になりますし...... 何より、貴方は実験対象。 当面、食事を与えるつもりはありません』
悲痛な表情で訴えるノート。
しかし、それを嘲笑うように、ヘイムダルはさらりと告げる。
『ーーダメです。 貴方は夜の神...... 我々にとっても重要な存在なのです。 早く神に戻すためにも、ね......』
ーーヒトに堕ちた神を、神へと還すーー
人々に夜を取り戻すために。
そして、セウォルツの呪いを解明するために。
ヘイムダルは心を鬼にして、夜神へと向き合う。
沈まぬ太陽はひたすらに輝き、陸の孤島の影は、徐々に薄りゆくのであった。




