ーー戦場の駒ーー
あまねく星が光りし時、聖戦が始まりを告げる。
ヴァレナの暴走、ヘイムダルのサポート、ケルベロスの乱入が重なり、ついに軍神は倒れた。
ーー玉砕
神々の攻勢は失敗に終わり、戦場には一時の安寧が訪れる。
ーー荒廃した就眠街にてーー
「本当にごめんなさい......」
訝しげな目で見つめる就眠街の人々。
無理もない......。
天変地異を少年が引き起こしたと、誰が信じられるだろうか。
「......とてもじゃないけど信じられねぇや。お前さん達、夢でも見てるんじゃねぇのかい?」
まともに受け取ってくれない住民たちの反応に、ヴァレナは申し訳なさから泣き出した。
ヘイムダルが補足し、彼らに状況を説明する。
「ーーという訳で、この街に被害を出してしまいました......。ヴァレナの暴走は私たちの不注意から招いたものです。誠に申し訳ありません」
信じられないという顔をする人々。
しかし、話を聞くうちに、どこか本当かもしれないと思い始める。
人々は重たい口を開く。
「......もし本当だって言うんなら、本来は怒るべき所なんだろうけどねぇ。ただ、あたしたちは就眠街で暮らしてる」
「皆、眠れなくて困ってるんだよ。眠りながら死ねればある意味本望さ。それに、誰も死んでないじゃないか」
「街は皆、眠るついでに作ってたんじゃ。また作れば良い。だからそんな顔しなさんな。皆、眠れなくなっちまうだろう?」
住民たちは優しく許してくれた。
ヴァレナは、少しでも住民たちの助けになればと、散乱する瓦礫を燃やし撤去する。
ーー旅立ちの決意ーー
「......許してもらえて良かったですね」
「ヴァレナ、貴方はセウォルツの所に戻る気はないのですか......?」
静まり返るヴァレナ。
暫しの沈黙の後、決意したように話す。
「やっぱり、強くなるまでは帰れないよ......。ボクはセウォルツや皆を、この力で守りたいんだ」
「そうですか......。ヴァレナ、怒りの力は諸刃の剣です。怒るなとは言いませんし、現状、怒りの力に我々も頼っている所はあります」
ヘイムダルはフレイストの方を見る。
「一人で暴走しては危険でしょう。フレイストを付けます。これは厳命です」
しかし、フレイストの表情は険しい。
仮にトールやオーディーンが来たら、ヴァレナに刃を向ける可能性があるからだ......。
「......しかし、私も神殺樹や神堕ち人を見守る役目があります。やむを得ません」
ヘイムダルは謎の笛を二人に渡す。
「ヴァレナ......。もし仮に何かあれば、この笛を吹きなさい。フレイストも同様です」
ーー聴覚笛
その笛が一度吹けば小鼠を、二度吹けば狼を、三度吹けば人をも音で失神させる呪いの笛。
『いいですか......? 私は一度吹けば聞こえるので絶対に何度も吹くのはやめなさい...... 特定の音波を出すので複数回失神を繰り返すと全生命の聴覚を失う恐れがあります』
その笛はダルヘイムの時から肌身離さず付けていたヘイムダルにとって大切な物......。
世界の観察者としてあらゆる僅かな音の揺れを拾い彼の鼓膜に連動して事態を把握する、いわば彼の体の一部とも言える存在なのだ。
『貴方達の事は十分信頼しています。絶対に破損や紛失のないよう注意してください......』
呪われし笛とヘイムダルの関係について聞いた二人は固唾を飲んで受け取る。
ヴァレナとフレイストの試練の旅が今
ーー始まった
ーー神々の天幕にてーー
『そうか...... 兄者が......』
少し反応した後、ただ受け止め無言を貫くトール。
あまりにも感情を表に出さないトールに、神兵達はゾッとする。
(腹違いとは言え兄であったのには変わりない...... 少しは何か感じるかと思ったが、存外変わらぬな)
トールは被害状況を冷静に聞きながら神兵達に指示を出す。
『兄者の軍は壊滅した......。 別働隊ノートの安否は不明......。現場の状況からヴァレナが就眠街近辺にいる可能性が高い』
『一度軍を再編成し直す。ノートの捜索については...... 問題なかろう。プライドの高い女だ。生きていれば自力で帰る』
指示を出している最中、トールの胸が一瞬痛む。
ーーーチクッ
(......? 気の所為か......)
戦闘は一時、小休止を迎えたーー
ーー神殺樹にてーー
『さて...... ひとまず戦闘は落ち着きましたね......神々の軍勢は今回の攻勢失敗で壊滅...... 暫くは仕掛けてこないでしょう』
神殺樹の守りに入るヘイムダル。
分身を作り出し、陸の孤島に向かわせる。
分身は虚空へと消えたーー
ーー陸の孤島にてーー
『くっ....../// 離せ......!!!/// 離しなさいよ......!!!///』
陸の孤島の木々が夜の神ノートの四肢を縛る。
眼下に見えるのは
ーー分身したヘイムダル
『こんなことをして許されると思ってるの?///』
ヘイムダルはそっとノートに近づく。
『貴方は夜の神...... セウォルツに眠らされてからは、ただの人でしかない』
本来ノートは夜の神...... 彼女の神兵同様に闇の力が広がる限り眠りにつく事はない存在......。
セウォルツに眠らされた事は彼女にとって最大の屈辱であった。
『......貴方、一度セウォルツを捕まえたと言いましたよね? どういう事か聞かせてもらえますか?』
『話すわけないでしょ?/// それよりここから出しなさい!!!///』
人に堕ちたからか、恥じらいを強く感じるノート。
『......答えてくれませんか? まあ良いでしょう。どのみち、貴方には実験に付き合わせてもらいます。夜が来ないと色々不便ですから』
ーー夜の神ノートを捉え、不敵に笑うヘイムダル。
彼の「実験」とは......? トールに隠された真実とは......?
神々の思惑は渦中へと消え去るーー




