ーー暗澹たる怪光ーー
あまねく星が光りし時、聖戦が始まりを告げる。
永氷皇土の宮殿で繰り広げられる宴。
目指す先の迷針樹林に向けてセウォルツ達は腹ごしらえをしていた。
ーー昼だけど夜が明けるまで飲み明かそうぜ
その夜が来ない事に僅かな違和感を覚えつつも4人は終わらない宴へと興じていく。
ーー夜神の喪失ーー
神性を失ったノートは陸の孤島でヘイムダルに囚われた。
羞恥や屈辱に喘ぐノートにヘイムダルは淡々と実験を遂行する。
ーー全ては夜を取り戻す為
セウォルツの呪いを解明する為にもヘイムダルは心を鬼にして実験対象へ臨む。
沈まぬ太陽はただひたすらに輝き陸の孤島の影は徐々に薄まりゆく。
ーー新たな脅威が近づいていた
ーー神々の中枢 ヴァルハラーー
ーー昼と夜の境目、朝夕、朧に雲がかかる
溢れる光の残滓に祝福と受け止めて
人は畏敬し神秘と呼んだーー
荘厳なる神殿、ヴァルハラは神のみが立ち入る事の許される禁断の地。
遥か彼方天空に創られし神殿の光は白いベールに覆われその存在を認知する事すら許さぬのだ。
ーーただ境目を除いては
その日、神殿は異様な光景に包まれていた。
いつもなら神殿を境に黒々、青々とした空が分かれていたのだが......。
青き空の下、雲を突き抜けるようにゲートが開く。
神兵達がいつものように死した神を運んでくるもその顔はいつも異常に暗い。
それもそのはず、その棺に入っていたのは他ならぬ
軍神そのものだからだ。
ただならぬ事態に驚く暇も与えないまま、決まった手順に則り神兵達はその棺を彼女達に手渡した。
ーー特別任務
そういうべきだろうか。
彼女達は人の魂を選別し神殿へ迎える神聖な役割を持つ戦乙女。
神の魂を運ぶ前例も無く只、主たるオーディーンの血縁にして実の子である軍神テュールを見過ごす訳にもいかず報告へと足を向ける。
ブリュンヒルデもまたその一人であった。
ヴァルハラ神殿に着くや否や血相を変えて主が降り立つ。
『神の面汚しめ...... 顔も見たくない 後の処分は貴様等に任そう......。』
神々の存在は至高にして決して敗れぬ存在......。
その死が意味するのは神格の全否定に他ならない。
故にこの一件は重い。過去の功績は全て無に帰し神であった存在すらも無きものとされてしまった。
主の命を受け神殿を後にする戦乙女達。軍神の処分を巡って意見が分かれる。
『......ひとまず死者の館へ連れて行きましょう 前例はありませんが主様の御子息...... 丁重に弔うべきです 数名、私についてきなさい......。』
随伴の戦乙女を連れ軍神が眠る棺を死者の館へと運ぶブリュンヒルデ。
13人からなる戦乙女の長女にしてまじないに長ける彼女でも今回の事態は予測出来ない。
(いつかこんな日も来るとは思っていましたが......。陰ながらお支えしていた身......。心にくるものがありますね......。)
道中、都度遺体の状態を確認する戦乙女。
その死に顔は安らかで無数の刀傷や全身の火傷が戦いの激しさを物語っていた。
戦いに身を置く戦乙女にとって戦いとは救いへの導きであり戦いの中で死ぬ事は本懐。
彼女達から見ると何も恥ずべく事なき栄誉なのに……。
神々は強きを挫き弱きを助ける存在ーー
ふと、気づくと彼女は木々生い茂る新緑の大地に足をつけていた。
給仕に向かう古の記憶だ。
目の前で幼い2人を諭すようにその声が告げた。
『......良いな?テュール、トールよ...... 誰よりも強くあれ...... そして誰よりも弱きを救いなさい......。』
思わず木々に隠れる。彼女の、ブリュンヒルデしか知らない秘密。
『あれ?ブリュ姉何してるの......?』
すぐに見つかり動揺する彼女をキラキラとした瞳で不思議そうに覗き込む。
『こら!話は最後まで聞かんか!』
その声は他でもない主、オーディーン様のものだ。
どんどん近づくその声から逃げるように彼女の後ろに2人は隠れた。
ブリュ姉と遊ぶと言って聞かない2人を凄い剣幕で睨みつける主......。
肩を落とす2人に背中を押して、いってらっしゃい。
『武運長久、2人に幸せありますように......。』
『ぶうんちょうきゅ?』
『ううん、何でもない、お姉さんのおまじない』
ツーー。
記憶の断片がブリュンヒルデの脳裏に浮かぶ。
戦いに身を置き戦いの中で果てるは戦士の誉れ。
戦いに死した戦士の美しさに戦乙女達は涙する。
しかし彼女だけは違う。武運長久のおまじない......。
それは戦いを愛する魂の決闘。戦いを愛する者への祝福。
誰よりも戦いを好み愛した軍神が死んだという事は即ち魂の戦いに敗れた事を意味するのだから......。
いつからだろう。純粋なあの子達の戦いが。
いつからだろう。戦いに温度を感じなくなったのは。
いつからだろう。血と情で繋がりし賢神が。
いつからだろう。凍てつく主神に変わったのは。
ああ主よ。お許しください。
涙で滲む視界の隅にある男が通り抜けた。
ーー太陽はただ燦々と揺らめいている
光を増す光景に陰という陰は消え尽くして
滲んだ涙も上へ上へと霧散した。
軍神の亡くなった地の方へ、神兵達が来たゲートの遥か先へ白き馬車が駆けていく。
何か手がかりがあるかもしれない。
思うも束の間ブリュンヒルデの体は虚空へと消えた。




