第十一話 心の旅路 その二十二
それからエミリアは自分の部屋へと入ると、感慨深げに周囲を見回していった。そう、もう二度とこの部屋に入ることはないのかもしれないという思いに、少し悲しい気持ちになりながら……。
そうしてつくづく思う。今日は本当に怒涛と言ってもいい一日だった、と。そう、まさかこんな出来事が自分の身の上に起こるだなんて、本当に、全く、露程にも思わず……。正直、泣き喚きたかった。罵りたかった。だが、皆の悲しげな顔を見ていると、自分が乱れてはどうしようもないではないかと、そんな気持ちにさせられて……。
そうして、どこか悲しい思いを抱いたまま、エミリアはトランクを取りだすと、
トントントン。
不意にドアをノックする音が聞こえる。それにエミリアは驚いて、
「はい? どなた?」
そう言ってゆくと、
「ティアです。奥様から、お嬢様のお手伝いをするよう言われましたので」
ティア、そう、お茶会へ行く時は一緒だったが、帰りはエミリアがキース中将の馬車に隔離されてしまった為、顔を合わせるのはあれ以来になるのであった。心の中で、どうしているのかとずっと彼女の事が気になっていたエミリアであった。なので、その声にエミリアは納得したような顔をすると、
「どうぞ、入って」
すると、扉が開かれ、そこに、目を赤くしたティアが入ってくる。どうやら泣いていたらしい。事情もそこから分かっているらしいことを察して、エミリアは胸が痛くなってゆくのを感じると、
「ティア……」
その言葉に、またも悲しみが襲ってきたようで、ティアが手で顔を覆って泣き始める。
「お嬢様……お嬢様」
それに、エミリアはティアの下へ寄り、慰めるようその頭を撫で、
「ごめんなさいね。こんなことになっちゃって……。ずっと、記憶無くしたままでいれば良かったのよね。私……何も知らなくて……。そう、私……薬ずっと飲んでなかったの。ほんとに、こんなことになるなんて思わなくて……。ごめんなさい……」
すると、その話は初めて聞くのだろう、顔を上げ、呆然とするティア。そう、まさかそんなことがあるなんて、と。自分の目の前でそんなことが起こっていたなんて、と。なので、
「お嬢様……」
と、ポツリティアは呟き……。そして、慌てて首を横に振って、
「いいえ、お嬢様のせいじゃありません。この私が至らなかったんです。何も知らないお嬢様だったのだから、もっとしっかり見ていなければ……」
「ティア……」
まるで自分に言い聞かせるかのような、ティアの言葉だった。また、ティアの思いやりが感じられる、気遣いの言葉でもあった。そう、エミリアが気に病まないように、といった気遣いの。それは、エミリアにとって実に胸に痛いもので、申し訳ない気持ちに、辛い表情でティアへと目を遣ってゆくと……、
「……もう会えなくなっちゃうのかもしれないのね」
そのまま、しょんぼりとした顔でエミリアがそう言う。すると、それにティアは困ったような笑顔を零して、
「悲しいこと言わないでください」
「でも……」
まだ悲しげな顔を向けてくるエミリアに、ティアは元気づけるようその手を取り、
「きっとまた会えます。それより、早く準備をしないと。さぁ」
そう言って、未練を断ち切るべく、クローゼットの方へと向かっていった。そう、出発の準備をする為に。襲う悲しみを必死で誤魔化す為に。それは、惜しむ程に残り少ない時間、なので、できるだけそれを大事にしようと、心に刻み込もうと、その時を噛み締めながら、黙々と準備を進めてゆく二人で……。そう、この時を忘れないようにと、しかと……。そして、
ゴメンね、今までいろいろ迷惑かけちゃってゴメンね。
心の中でそんな呟きをしてゆくエミリアであった。
※ ※ ※
そうして三十分後、大きめのトランクを手に持ったエミリアとティアが、とうとうといったように皆の前に姿を現す。そう、ちゃんと準備万端に整え皆の前に……。すると、すぐにヴェルノとシェリルがエミリアの下へとやって来て、
「エミリア、すぐに面会に行くから。何度でも面会に行くから」
「そうよ。だから、待っていてね」
その手を取り、名残惜しげにそんな言葉を零してくる。それにエミリアは頷きながら、ニコリと微笑むと、両親の顔を見つめ、
「待ってます。それから……」
そう言って一息つき、魔法使いへと目を移す。向けられた眼差しに、エミリアへと視線を返し、コクリと頷く魔法使い。そして、
「気をしっかり持つんだ。何か、手は考えるから……」
今までつぐんでいた口を開く。それは彼精一杯の心遣いで、それを察してエミリアは心があったかくなってゆくのを感じると、
「ありがとうございます。楽しみに……待ってます」
そう言って、泣きそうになる思いを堪えながら、深々と頭を下げる。すると、続いて、
「勿論僕も、何とかするからね!」
その様子を見ていたレヴィンからも、そんな言葉が、エミリアへと向かって投げ掛けられる。
それに、思わずニコリと微笑むエミリア。そして、その微笑みのまま、
「皆さん、本当にありがとうございます。あと……今まで、本当にお世話になりました」
そう言って再び深々と頭を下げてゆく。
それは、全く言葉を無くしてしまうような彼女の姿で、一体どんな態度をしたらいいのかとひたすら皆は困惑する。困惑して、つい沈黙の空気を皆流してしまう。だが……。
そう、時は待ってくれない。
「乗ってください」
どうやら、行かなくてはならない時間が刻々と迫っているようだった。そんな中、注がれる皆の眼差しに、思わず胸が痛くなってゆくエミリア。最後の思い出にと皆の姿を目に焼き付け、渋々荷物を手に取ってゆく。そして、相変わらず戸惑っている彼らを横目に、これも渋々馬車へと乗り込んでゆく。よっこらせと大きな荷物を運び込み、窓から皆の姿を眺めてゆくエミリア。するとそこには心配そうな皆の顔があり、エミリアの心は思わず潰されそうになってゆく。そして、未来への不安にも心が潰されそうになっていると、
ピシッ!
馬に鞭打つ音が辺りに響く。それを合図として、動き出す馬車。とうとう出発だった。遠ざかる皆を目で追いながら、エミリアは後ろを振り返り、馬車後部に嵌められたガラス窓へと顔を寄せる。じっとじっと皆を見つめるエミリア。そして、そこでエミリアはとある一人の人物から目を離すことが出来なくなっていた。それは……。
お師匠様……。
そう、魔法使いだった。何故だかにじんでくる涙を堪えながら、彼の姿から目が離せなくなっていたエミリアだった。そう、何でこんなにも彼との別れが辛いのかと思いながら。そう、何で両親との別れと同じ程、彼との別れが辛いのかと思いながら……。
何故? 何故?
すると……。
そう、エミリアはとうとう気づく。今まで見えないでいた大事なことにとうとう気づく。
あ、私……。
そう、彼が好き、なのだ。ようやく、その気持ちに気付いたのだった。そして、その気持ちに気付いた途端、エミリアの目からは堰を切ったよう涙が流れてゆき……。
それは、どうにも止まらず、堪えきれず、両手で顔を覆って、声を上げながらしばし涙を流し続けてゆくエミリアで……。そして思う。
どうして、どうして、別れの時に気がつくの!
今度はいつ会えるかも分からないのに……。
そう、それにエミリアは唯ひたすら胸が張り裂けそうな思いになりながら、また苦しい思いにもなりながら、進む馬車の中にて、一人ぼっちの馬車の中にて、いつまでも止まらぬ涙に暮れてゆくのであって……。
そう、いつまでもいつまでも止まらぬ涙に暮れて……。
はい!これでネタ切れの最終回になります!第四章の終わりであり、第十一話の終わりであります。
で、こんな所で終わってしまってごめんなさい!
アンケートも、まだまだ行っています。何度も申し訳ありませんが、皆さんがどんなお話を望んでいるのか、今後の作品作りの参考にしたいので、ご協力、どうぞよろしくお願いします。
URLは下記になります……。(WEBボタンを作ろうとしましたが、駄目でした!面倒ですが、Google等で下記URLへ飛んでアンケート画面に進んでいただけると嬉しいです!)
なんでもいいので、感想等も書いていただけると嬉しいです。
もしかしたらあるかもしれない、連載再開の活力になれば!と。(できれば、頑張って連載再開したいので……)
では、ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
また皆さんにお会いできる日があることを願っています。そして、その時はどうぞよろしくお願いします!
※2014年12月11日、追記。
アンケートは終了しました。皆様、ご協力ありがとうございました!
で、そのアンケートの結果を一部だけ。
一番人気のキャラクターはエミリアでした。アシュリーとエミリア、同じくらいかなと思っていましたが、エミリアの方が上でした!
どのキャラクターの話を読みたいかでは、エミリア&アシュリーが一番となりました。これは私の予想通り。
でも、意外にエミリアの人気があってびっくりしました。作者はあまり意識して書いていなかったのですが……。(ほかのキャラクターの方が、いろいろ考えて書いていたりしていました)
アンケート、ほんと、色々参考になりました!全部は無理ですが、それらを取り入れて、この先頑張ってみたいと思います。
ご記入、ありがとうございました!
感想の方もいつでも受け付けています!よろしかったらどうぞよろしくお願いします!