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妹に婚約者を譲った私ですが、今度の結婚は譲りません  作者: 黒咲かぐら


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第48話 私が選んだ婚約

 妹たちが王都で婚約の解消について話し合っていた頃、私たちも正式な婚約の書面を整えていた。


 その間に、北領には冬が来た。


 雪はまだ道を長く塞ぐほどではないが、朝の馬車の予定は、前日にモーリスと確かめるようになった。


 辺境伯家との連絡も、便が遅れたら次の晴れた日に届く。


 私は急いで返事を揃えるために、危ない道を使ってもらうことはしなかった。


 フェルナン様と確かめた暮らしの条件は、書面へ記すものと、館で続けて相談するものに分けた。


 北領の所有と収益は、私に残る。私が領主として管理を続け、彼はその配偶者として暮らす。


 結婚しただけで、北領をサヴェル家へ移す取り決めにはしなかった。


 彼は辺境伯家の仕事を続け、仕事の費用と北領の生活費を分ける。館での暮らしに双方が出す分も、今分かる収入で確かめた。


 洗濯など毎日の頼み事は、アンヌやリュシーと館で相談を続けた。


 辺境伯家から、整った案が届いた。


 私は自分でも読み、モーリスに北領の管理に関わるところを確かめてもらった。分からない言い回しは、そのままにせず、書面を扱う者へ問い合わせた。


 読み終えて、私は彼へ確認を済ませた返事を送った。


 双方の確認が済むと、署名の日が決まった。


 その前に、フェルナン様と指輪を選んだ。町の店から取り寄せた見本を見て、私は大きな飾りのないものへ手を伸ばした。


「これなら、普段にもつけられそうです」


 彼は私の指に合う幅を確かめ、内側が当たらないか尋ねた。


 私は一つずつ試した。


 いちばん細いものは、見たときには気に入ったが、はめると落ち着かなかった。次のものをつけ、こちらがよいと答えた。


 彼も自分のものを選び、仕上げる日を店の者へ確かめた。


 費用は、北領の冬の備えから出すものではない。彼が婚約の品として用意する範囲を先に話してくれたので、私はその中で選べた。


「では、これをお願いします」


 自分から店の者へ伝えると、フェルナン様が隣で頷いた。


 支度が一つ、二人の選んだものになった。


 辺境伯家の館へ、リュシーと向かった。一泊し、翌朝の道を確かめて戻る予定にした。


 馬車には、冬の上着と、北領で使っている手帳を載せた。


 着くと、夫人が迎えてくださった。


「道中は、冷えませんでしたか」

「布を用意してもらったので、大丈夫でした」


 私は答えた。


 客室で支度を整え、書面の置かれた部屋へ向かった。


 辺境伯夫妻とロラン様、フェルナン様がいた。手続きを扱う役人も、双方の意思を確かめるために同席している。


 父の席はなかった。


 私が自分の土地と結婚について返事をするために、本家の代理人を呼ぶ必要はなかった。


 役人が、フェルナン様の意思を確かめた。


 彼は私との婚約を望むと答え、続いて、私にも同じ確認があった。


「はい。私の意思で、フェルナン・サヴェル様との婚約を望みます」


 声は、最後まで出た。


 私は紙へ名を記した。


 北領を譲り受けた日に書いた名前と、同じ名前だった。


 あのときには、自分の暮らす場所を持つために書いた。


 今日は、その場所で共に暮らしたい人を選んで書いた。


 必要な署名と確認が済み、正式に婚約が成立した。


 フェルナン様が私を見た。


 私は笑って、彼の手を取った。


 仕上がった指輪は、そのあとにつけてもらった。彼が私の指へ通し、窮屈ではないか確かめる。


「大丈夫です。選んだときと、同じです」


 私が答えると、彼は笑った。


 私も彼の指輪を取り、手へつけた。


 紙に書いた名前だけでなく、二人で選んだものも、ここへ持ってきた。


 リュシーは部屋の端で見ていた。私が彼女へ目を向けると、小さく笑って頷いてくれた。


 辺境伯は、仕事の調整は相談した案で進め、実際に移るまでに連絡の場所を揃えるよう彼へ伝えた。


 ロラン様も、冬の間にこちらで確かめておきましょうと答えた。


 夫人がお茶を勧めてくださった。


「式は、どちらでとお考えですか」


 私はフェルナン様を見た。


 話し合っていたことを、今日は私から答えた。


「春に、北領で挙げたいと思っています。今ある館で、できる支度をしたいです」


 夫人は頷いた。


「では、こちらで用意できるものも、必要な分を伺ってからにしましょう」


 大きな宴を開かなければならないとは言われなかった。


 私は礼を言った。


 客室へ戻ったあと、父への通知を用意した。


 正式な婚約が成立したこと。北領の所有と管理を続けること。春の式については、日が決まってから招待すること。


 署名した書面の内容を知らせるための写しも、整えてもらった。


 父がどう答えるかを待って、婚約を成立させる文ではなかった。


 北領へ戻ると、村の品を預かる日を確かめた。


 モーリスが、書面はいつもの場所へ保管しますかと尋ねたので、はいと答えた。


 婚約の通知を送って一週間ほどして、本家から手紙が来た。


 婚約の知らせを受け取ったことと、フィオナとアラン様の婚約が、正式に解消されたことが書かれていた。


 私は最後まで読んだ。


 解消について、私の返事を求める文はなかった。二人が意思を伝え、両家が手続きを済ませたと知らされている。


 前の婚約を変えた日に、私は平気な顔をして頷いた。だから、二人が結婚するところまで、私が支えなければならない気がしていたのかもしれない。


 今、二人は自分たちで結婚しないと答えた。


 私が何を譲るかを尋ねるための知らせではなかった。


 フィオナへ何と書けばよいか、すぐには分からなかった。今の私から、おめでとうも、これでよかったとも言えない。


 リュシーへ、二人の婚約が終わったと話した。


 彼女は少し黙ってから、そうでしたかと答えた。


 私は手紙を折った。


 妹が困っているなら、何かを譲ればよい。その考えは、まだ、全く浮かばなくなったわけではない。


 でも、私がフェルナン様との約束を取り消しても、二人の関係が戻るわけではなかった。


 父へは、婚約解消の知らせを受け取ったと返した。式の招待は、先に知らせた通り、日を決めてから送る。


 数日後、フィオナからも手紙が来た。


 式を秋まで延ばしてほしいと書かれていた。妹が落ち着くまで待てば、喜んでもらえるのだろうか。


 私は、春の支度を書いた手帳へ目を向けた。


 返事をする前に、フェルナン様へ手紙の内容を知らせた。彼は、延期を望んでいるわけではないが、私の気持ちも聞きたいと返してくれた。


 私も、春に結婚したかった。


 妹へ書く紙を出したときには、もう返事は決まっていた。


『私たちの式は、秋へ延ばしません。春に北領で結婚します。今はお祝いできないという気持ちは受け取りました。出席は無理にお願いしません』


 書き終えてから、もう一行足した。


『私が待っていた結婚を譲ったときも、私は寂しかったのです。今度の結婚は、私が望んで決めました』


 妹が読んで、怒る顔を思い浮かべた。


 それでも、延期しますとは書き直さなかった。返事を封筒へ入れ、便へ渡した。


 その夜、フェルナン様へ短い手紙を書いた。


 妹へ延期しないと返事をしたことと、窓の近くに置く彼の机について、候補が見つかったことを伝えた。


 私たちの支度を、止める理由にはしなかった。


 机の上には、フェルナン様へ送る封筒があった。


 私はその宛名を、自分で書いた。


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