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妹に婚約者を譲った私ですが、今度の結婚は譲りません  作者: 黒咲かぐら


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第46話 それでも私を選ぶ?

 オデットがフェルナンとの結婚を決めたと、フィオナは父から聞いた。


 父は手紙を机へ置き、サヴェル家からも書面を整える連絡があったと話した。


 正式な婚約はこれからだが、当人同士では意思を確かめたという。


「お姉様が、決めたのですか」

「そう書いてきている」


 父は答えた。


 フィオナは手紙へ目を向けたが、手に取れなかった。


 北領で、嫌だったと言われた声を思い出した。姉が自分へそう言うとは、以前は考えなかった。


 その姉が、自分で結婚を決めた。


 アランとの結婚延期については、まだ両家の相談が続いていた。


 アランの父は、息子にもよく考えるよう求めている。フィオナの父も、予定を動かす理由として十分か、説明を受けたかった。


 春の式を予定通りにするとも、延期すると決めるとも、返事は出ていなかった。


 その間も、これからどうしたいかを本人同士で話すよう求められ、アランと会う時間は設けられた。


 延期の申し出から、既に二度会っている。散歩をした日には、初めの頃のように話せる時間もあった。


 けれど、次に何をするかを決めようとすると、同じところで止まった。


 アランが仕事の都合で訪問日を変えたいと言えば、フィオナは、自分よりそちらが大切なのかと聞いた。彼は、大切かどうかを比べているのではないと答えた。


 別の日、彼が以前贈ったものを気に入っているか尋ねると、フィオナは、気に入らなかったらどうするのかと聞き返した。


 違うものが欲しければ話してほしいと言われても、贈ったときには似合うと言ったでしょうと、確かめる言葉が先に出た。


 フィオナには、彼の答えを信じたい気持ちがあった。前の言葉と違うことを言われると、その前の気持ちまで消えたように思えた。


 アランは、そのたびに説明した。


 説明を聞けば、しばらくは落ち着く。次の約束では、また同じ問いが出た。


 それを重ねたあと、今日の面会の日を迎えた。フィオナは客間で待った。


 母は最初の挨拶だけを済ませ、隣室へ移った。侍女が茶を置き、戸口に控えた。


 アランは椅子へ座り、最近考えていたことを話したいと言った。


 フィオナはその前に、姉のことを尋ねた。


「お姉様が、結婚なさると聞きましたか」

「はい。父から聞いた」


 サヴェル家との連絡を受けたヴェラン家から、婚礼の予定を相談している侯爵家にも伝わっていた。


 アランはカップを取らなかった。


 フィオナは、彼の顔を見た。


「お姉様には、もう別の方がいるのね」

「本人たちが、決めたことだと聞いている」

「それでも、私との結婚を延ばしたいの?」


 言うと、アランの顔が強張った。


「オデットに相手がいるかどうかで、僕たちの話を決めるつもりはない」


 フィオナは唇を結んだ。


「では、私を選んでくださるのね」


 彼はすぐには答えなかった。


 フィオナはその沈黙を見て、膝の上へ手を置いた。


 姉のところへ戻れないなら、こちらへ戻るはずだった。そう考えていたことを、彼の前では言えなかった。


「この間から、僕たちのことを何度か話した」


 アランが言った。


「君は、春に結婚したいと伝えてくれた。僕は、今のままでは難しいと答えた。その先を、まだ話せていない」

「どうしてほしいの」

「訪問日を変えたいと言っただけで、君より仕事が大切なのかと聞かれた。あの日は、本当に行けなかったんだ。それを信じてほしかった」


 フィオナは首を振った。


「そんなことばかり、確かめなければならないの?」


 彼と結婚することは、自分が選ばれたと、疑わずにいられるはずだった。


 選んだ人にも、違う望みがある。そのたびに、二人で話し直すように求められる。


 アランは、しばらく黙った。


「確かめずに暮らせるとは、僕は思えない」


 フィオナは椅子から立ちかけ、座り直した。


 今日は帰ってと言っても、次の面会が決まるだけだろう。


「お姉様には、そんなことをおっしゃらなかったわ」

「彼女とは、そんな話をしないままだった。僕も、婚約しているから分かっていると思っていた」


 アランは顔を伏せ、また上げた。


「今、僕たちの結婚を、そのまま進めることには同意できない。延期すれば変わるのかも考えたけれど、待つ間に何を変えるか、同じ考えを持てていない」


 フィオナは彼を見た。


「私は、ずっと試されるような結婚はしたくないわ」


 アランは、試すつもりではないと答えた。


 けれど、フィオナには、彼の言う暮らし方を望むとは答えられなかった。


 彼は姿勢を正した。


「君を選んだと、また言えば、今日は安心してもらえるのかもしれない。でも、次に訪問日を変えるときにも、同じことを聞かれるのだろうか。僕は……もう、それに答え続ける自信がない」


 フィオナは、彼の手を見た。


 北へ行く馬車では、揺れたときに支えてくれた。あのときも、彼がまるで嫌いな人になったわけではない。


 それなのに、今欲しい返事は、してくれない。


 自分に優しかったことだけを理由に結婚しても、今日の会話は残るのだろう。そのことを、初めてはっきり考えた。


「僕は、婚約を解消したいと、父へ正式に伝えます」


 フィオナは何も言えなかった。


 母を呼べば、前のように、両家で決めた予定だと止めてくれるだろうか。


 そのとき、アランへ、また自分を選んでと言うしかないことも分かった。


「私も、このまま結婚したいとは言えないわ」


 声は小さくなった。


 延期しても、彼が以前のように何でも答えてくれる保証はない。姉より自分を選んだという言葉も、もう今の会話を変えなかった。


「お父様へ、そう伝えます」


 フィオナは答えた。


 二人は母を呼び、今の意思を話した。


 母は、すぐに決められることではないと答えた。アランには、侯爵家から正式に申し入れるよう求めた。


 アランは頷いた。


 彼が帰ったあと、フィオナは父の書斎へ呼ばれた。


 何度も考えた上での返事かと聞かれ、頷いた。


 父は、家同士の取り決めを整理するまで、婚約は続いていると告げた。招く相手への連絡も、勝手に進めてはいけないという。


 フィオナは承知しましたと答えた。


 部屋へ戻ると、婚礼の布の見本は、もう片づけてあった。


 白い布を見ながら、アランに似合うと言ってもらいたかった。その返事を、今はもう待てなかった。


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