↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹に婚約者を譲った私ですが、今度の結婚は譲りません  作者: 黒咲かぐら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/50

第33話 お姉様の知らない顔

 フィオナたちが着いたのは、知らせてあった日の午後だった。


 王都から二泊して来た馬車は、車輪に乾いた泥をつけていた。御者へ教えた迂回路を使えたと聞き、私は息をついた。


 妹が馬車を降り、館を見上げた。


「ここなのね」

「ええ。長い道だったでしょう。まず、お部屋へ」


 アラン様も降り、私に挨拶した。


「お招きいただいて、ありがとう」

「お越しいただき、ありがとうございます」


 言葉を返すとき、昔のように、彼の隣へ立つ場所を探さずに済んだ。


 リュシーがフィオナと侍女を客室へ案内し、モーリスがアラン様の荷物を受け取った。従者と御者には、宿へ行く前に茶を出してもらう。


 玄関の荷物が片づく頃、フィオナが戻ってきた。


「お姉様のお部屋も、このくらいの広さなの?」

「少し違うけれど、大きくはないわ」

「王都の部屋とは、ずいぶん違うのね」


 私は頷いた。


 窓から見えるものも、朝に聞こえる音も違う。


 でも、狭くてかわいそうねと言われたわけではない。先に困っていないと説明し続ける必要もなかった。


 応接室へ通すと、アラン様は窓へ目を向けた。


「修理をしたと聞いた。こちらかな」

「はい。納屋の雨が入るところも直しました」


 フィオナが椅子へ座り、机の上を見た。


 客を迎えるために茶の場所は空けたが、手帳と、明日の予定を書いた紙は端に残してあった。


「橋のお仕事も、お姉様がしているの?」

「直すのは職人の方よ。私は、必要な費用と、通れない間の連絡を確かめているの」


 フィオナは紙を手に取りかけ、やめた。


「辺境伯家にも、お手伝いしていただくのね」

「この道を使う荷があるので、材料や運搬を分担していただいているわ」

「フェルナン様は、いらっしゃらないの?」

「今日は、来られる予定ではないの」


 答えると、妹は、そう、とカップを取った。


 私はアンヌに頼んであった焼き菓子を勧めた。旅で疲れたのか、フィオナは半分だけ食べ、残りを皿へ置いた。


 王都なら、別の菓子を持ってきましょうかと聞いたかもしれない。


 今日は、夕食の時刻を伝え、休むなら部屋へ案内できると話した。


「少し、歩いてみたいわ」


 フィオナが言ったので、館の周りを案内することになった。


 外へ出る前に、モーリスが私を呼んだ。


 明日の材の置き場について、セザールから確認が来たという。地面がぬかるんでいる場所を避け、積む場所を少し移したいそうだった。


 私は図を見た。


「こちらなら、荷車が向きを変えられますか」

「御者にも、確かめました」

「では、そこへ。雨除けの布も、先に運んでください」


 モーリスが頷き、廊下の棚から布を取った。


 私は妹たちへ、庭へ行きましょうと言った。


「今のことも、お姉様に聞くのね」


 フィオナが歩きながら言った。


「荷を置く場所が変わるので。私も、同じ場所を知っていた方がよいから」


 アラン様は後ろで、そのやり取りを聞いていた。


 庭を回ると、リーズが籠を運んでいた。私を見て、明日の朝までこちらへ置いてよいかと尋ねる。


「はい。廊下の通り道は、空けておいてください」


 彼女は頷き、妹たちへ会釈をした。


 フィオナが籠の中を見た。館で使う根菜が入っている。


「お姉様も、こういうものを食べるの?」

「ええ。今夜にも出ると思うわ」


 妹は、何か言いかけたが、アラン様がどんな料理になるのかと尋ねたので、私は煮込みにすることが多いと答えた。


 村へ向かう道の入口で、ニコと母親に会った。


 母親は館へ持ってきた空の袋を示し、次に品を預ける日を確かめた。


「明後日で、変わりません。ただ、夕方まででしたら、モーリスに渡してください。私は、橋へ行く予定なので」


 彼女が頷いた。


 ニコは私の上着の裾を見て、今日は川へ行かないのと尋ねた。


「今日は、行かないわ」

「橋、まだ渡っちゃ駄目なんだよね」

「ええ。直ったと知らせるまでは、近くでも遊ばないでね」


 ニコは母親を見て、分かってると答えた。


 母親が、何度も言っていただいていますと頭を下げる。私はこちらも気になってしまうのでと答えた。


 母子が村へ戻ると、アラン様が、よく話す子なのですねと言った。


「前に、いつ帰るのかと聞かれました」

「君が?」

「はい。私はまだ、ここへ来たばかりでしたから」


 アラン様は、次の言葉を探すように黙った。


 フィオナは私の腕へ手を添えた。


「お姉様が、子供にまでそんなことを言われるなんて」


 私は妹を見た。


 庇ってくれているのだろうか。けれど、ニコが私を傷つけるために聞いたわけではない。


「前に来た人が、長くは暮らさなかったの。だから、確かめたかったのだと思うわ」


 私は腕をほどいて、館の方を示した。


「少し冷えてきたから、戻りましょう」


 夕食には、根菜の煮込みと、卵を使った料理が出た。


 アンヌが温かい皿を置き、足りなければお申しつけくださいと言った。私は礼を言って匙を取った。


 アラン様は料理を食べ、道中の宿ではもっと塩が強かったと話した。フィオナは少し食べてから、こちらでは毎晩こうして皆で食べるのかと尋ねた。


「館の人たちとは、用事の時間が違うこともあるわ。私とリュシーが、台所で食べる日もあるけれど」

「台所で?」

「支度の合間に、お話を聞くことがあるの」


 妹は、王都ではしないことねと言った。


 私は頷いた。それだけでよかった。


 食後、アラン様が翌日の橋の仕事について尋ねた。材料を運ぶ日で、職人も来て、段取りを確かめると説明した。


「僕たちも、見に行ってよいだろうか」


 フィオナが彼を見た。


 私は少し考えた。


「現場の方に、見ていても支障がない場所を確かめます。作業の近くへは行けませんが、それでよろしければ」


 アラン様は、分かりましたと答えた。


 妹も、一緒に行くと言った。


 二人が部屋へ戻ったあと、リュシーが食卓の布を外した。


「お疲れになりましたか」

「少し」


 私は正直に答えた。


「でも、明日の仕事を取りやめなくてよかったわ」


 彼女は布を畳みながら、材が来る日ですものねと言った。


 以前なら、フィオナが退屈しないかを、先に考えた。明日もずっと付き添い、見たいものへ連れていくつもりになったかもしれない。


 今日は、こちらの予定を変えずに話し、見学したいという申し出にも、現場で守ってほしい条件を伝えられた。


 二階へ上がると、廊下の向こうで妹の声がした。侍女へ、持ってきた上着を出すよう頼んでいる。


 私は自分の部屋へ入り、手帳を開いた。


 明日の最初の用件は、橋の材料を受け取ることだった。


 その下へ、客を案内する場所を確かめる、と書き足した。


 妹が来ても、私の一日は白紙にならなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。