第14話 同じ袋に入れる前に
ペランさんの次の巡回は、ひと月近く先だった。
その間に、まず少量を分けてみる。来訪日の約束を確かめてから、モーリスと相談した。
豆を分けるための卓を出すと、アンヌが布を一枚持ってきた。
「この上なら、転がっても落ちにくいと思います」
納屋の入り口に置いた卓へ広げる。モーリスが、館の畑で採れた豆の袋を運んできた。
村から預かったものには、まだ手をつけない。
まず、こちらの分で試すことになっていた。
私はペランさんが分けた見本を、小皿へ出した。大きいもの、小さいもの、割れたもの。
「これと比べれば、いいのですね」
リュシーが豆を一粒つまみ、皿の縁へ置く。
私も同じようにしたが、すぐに迷った。
「こちらは、大きい方かしら」
「見本より小さいですけれど、小さい方の見本より大きいですね」
二人で見比べていると、アンヌが別の皿を持ってきた。
「迷うものは、いったんこちらへ。先に、分かるものを揃えてみては」
そうして始めると、少し手が動くようになった。
でも、一粒ずつ見るのは思ったより時間が掛かる。
日が卓へ差し、豆に触れる指先が温かくなった。リュシーは途中で館へ戻った。私の部屋の寝具を干しているので、取り込む仕事がある。
モーリスも、薪を受け取るために席を外した。
私はアンヌと二人、皿へ豆を置いていった。
「これを全部分けるには、ずいぶん掛かりますね」
「私たちが毎日続けるのは、難しいと思います」
アンヌは率直に答えた。
私は手を止めた。彼女が夕食の支度をしなくてもよいわけではない。
「今日は、ここまでにしましょうか」
「あと少しで、この皿の分は終わります。そこまでなら」
残りを分けてから、どれくらい進んだか確かめた。
袋の中には、まだたくさん残っていた。
高い値で買ってもらえるなら、分ければよい。そう思ったけれど、その間にも仕事はある。
私はペランさんへ、迷う大きさの豆をどう扱うか、手紙で尋ねた。こちらへ来てもらうたびに聞くのでは、次の巡回日まで手が止まってしまう。
手紙は、隣の町へ行く便に託した。返事が来るまで、明らかに割れているものを除き、見本に近いものだけを少しずつ分けた。
三日後の返事には、篩を一つ、次に持っていくとあった。費用も書いてあり、道具を見てから買うか決めてよいという。
『大きさを分ける目安にできます。ただし、傷みや割れは、手で確かめてください。道具を見てから続けても構いません』
読んで、ほっとした。
私が何かを思いついて、皆の仕事を軽くしたわけではない。扱い慣れた人へ、分からないことを聞けただけだった。
その午後、マルクとルネが館へ来た。
刈り入れを手伝う日が決まったと、モーリスへ知らせに来たのだ。
卓の上の皿を見ると、ルネが豆を覗き込んだ。
「売る分ですか」
「まず、館のものを試しています。分けたあと、ペランさんに見てもらうつもりです」
私は見本と、返事の手紙を示した。
マルクは割れた豆の皿を見た。
「こちらは、捨てるのですか」
「いえ。食べられるものは、館で使います。傷んだものとは分けてあります」
アンヌが、先に煮ればよいものだと説明した。
ルネは、自分の家なら、小さい豆も食べる分へ回せると言った。
「このやり方で売れるなら、今年の分も考えたいですね」
「ただ、分ける時間が掛かります」
私は残った袋を見た。
「その手間を入れても、売った方がよいか、まだ分かりません。最初の分を見てから、お話ししたいです」
マルクは頷いた。
「畑の手が足りない日は、こちらへ来るのも難しいですから」
「ええ。今、同じようにしてほしいとは、お願いしません」
二人が帰ってから、モーリスが開いた袋を棚へ戻した。
「少なくとも、冬の分を売ってしまう心配はありませんね」
「食べる分は、アンヌに先に確かめてもらいましたから」
館で必要なものを残し、その上で試せる分だけを出す。
私が北へ来たときには、食べるものを用意してもらうことしか考えていなかった。
今は、夕食の豆と、売る豆が同じ棚から出ることを知っている。
モーリスが、小さい方の豆を持ち上げた。
「こちらも、館で使う分とは別にしておきます」
「売れる方が、少ししかなかったらどうしましょう」
尋ねると、彼は皿を見た。
「そのときは、今回の手間でどれくらい売れたか、皆様にお伝えするしかないかと」
私は頷いた。
商人に会っていただいたことも、道具を持ってきてもらうことも、ありがたい。だから、どうにか成功したと言える形にしたくなっていた。
けれど、ここで無理をして品を揃えれば、村の人たちも同じ手間を掛けることになる。
「かかった時間も、忘れずに残してください。篩が来てから、どれくらい違うかも」
「はい」
アンヌが割れた豆の皿を持ち、台所へ行こうとした。私はそのあとを追った。
「それは、今日の夕食に使うのですか」
「早く煮えるものもあるので、別にしておきます。傷んでいなければ、無駄にはなりません」
台所には、翌日のパンに使う粉が置いてあった。売る豆が少なくても、食べる方で使えるものは残る。
私は粉袋の横を空け、皿を置いた。
帰り際に、アンヌから見本の豆を片づけないでほしいと言われた。夕食のあと、モーリスにも大きさの違いを見せたいそうだ。
「私が明日忘れてしまっても、見本を残しておけば、確かめられますから」
彼女が笑い、私も笑った。明日の自分を、覚えているはずだと信じすぎなくてもよいらしい。
納屋へ戻って、小皿に布を掛けた。豆が混ざらないよう、皿の位置もそのままにしておいた。
夕方、リーズが洗濯物を抱えて通りかかった。
手を洗ってからなら少し手伝えると言ってくれたが、私は今日は片づけるところだと答えた。
「明日、頼んでもいいですか。お仕事のあと、短い時間だけ」
「明日は、館の畑の手入れがあります。そのあとなら」
聞けば、いつ頼めるのかも分かる。
彼女へ任せきりにせず、私も同じ卓につくことにした。
リュシーが戻ってきて、指先の粉を見た。
「お手を洗ってから、紙に触れてくださいね」
私は手帳へ伸ばしかけた手を止めた。
今日の予定の横に、少し進んだ、と書こうと思っていた。
書く前に水を汲み、指の間まで洗った。爪の縁に白い粉が残り、リュシーが布を貸してくれた。
「明日も、同じくらいになりそうね」
「では、こちらの布を分けておきます」
彼女が、私の豆を分ける仕事を、明日の予定に入れてくれた。
それが嬉しくて、もう一度、明日もお願いと頼んだ。




