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魂が入れ替わった俺は、忍として生きることになった  作者: 茅ヶ崎 真
初めまして。忍びの世界。

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第九話 一件落着…?

♢♢♢


月城に反省文を提出し終えた後、俺は大きく伸びをしながら廊下を歩いていた。


「かああぁぁ…。眠……。」


前にいた世界ではあまり嬉しくないが、反省文には縁があった。

髪を染めては反省文。喧嘩をしては反省文……。

教師には何度「またお前か」と呆れられたことか。


「まさかこっちの世界でも書くことになるとはなぁ…。」


不思議なことに、この世界の文字は普通に書けた。

読み書きはもちろん、食事の作法や生活に必要なことも自然と身体が動く。


「身体が覚えてる……ってやつかな。だったら忍術とか勉強も覚えといてくれよー…。」


肩を落とし、ぼやきながら門へ歩いていく。

その時ふと、違和感を覚えた。


「……あれ?」


朝はあれだけ後ろ指をさされ陰口を叩かれていたのに、今は怖いくらい静かだ。

その時ちょうど、一人の生徒と目が合った。


「ひっ……!」


その生徒は小さく悲鳴を上げると、慌てて走り去って行く。


「え?」


今度は廊下の向こうにいた数人の生徒たち。

やはり目が合った瞬間、全員がびくりと肩を震わせた。


「行こう!」

「う、うん!」


蜘蛛の子を散らすように、その場から逃げていく。


「えぇ……。」


時雨はぽかんと口を開けた。

どうやら決闘の出来事は、すでに学園中へ広まっているらしい。


『あの朝霧家に伝わる秘術を使った。』

『九条を一撃で吹き飛ばした。』

『火遁の威力が異常だった。』


そのせいか時雨はすっかり恐れられる存在になっていたのだ。


「まぁ……コソコソ陰口言われるよりはマシか。」


なんとも言えない気持ちになりながら、学園の門まで歩きを進める。そして門をくぐったその瞬間。


「お疲れ様です、若様。」


「うおっ!?」


突然頭上から声がしたかと思えば、御影が降ってきた。

時雨は反射的に飛び退く。


「びびびびっくりした!!」


「若様、この位で驚かれては困ります。」


「普通に出てこいよ!」


「若様。私は木の上から試験を拝見しておりました。」


「え!お前も見てたの?」


「はい。決闘を受けた時…私は感服いたしました。」


どこから見ていたのかは全く見当もつかないが、その辺は詳しく話してくれそうにない。


「もちろん、反省文を書かされていたところも拝見しておりました。」


「そこは別に見なくていいって…。」


御影は静かに一歩前へ出る。

そしてそっと片膝をつき、片手を地面についたままこうべを垂れた。


「えっ…なに?」


「私は幼い頃より、誰よりも近くで若様を見てまいりました。術が使えないとさげすまれ、陰で笑われても、必死に努力されて…。」


「……。」


「ようやく…若様が報われた気がいたしました。ありがとうございます。」


その言葉は、心の底からのものだった。

改めてお礼を言われると少し照れてしまい、時雨は困ったように頭を掻く。


「いや……まぁ…うん。」


「まさか九条様をあそこまで圧倒されるとは…正直、胸がすく思いでした。」


(あれは単純に、加減が分からなくなって勝手に九条が怪我しただけなんだけど。)


そう言いかけたが、あまりにも御影が嬉しそうな顔をしているものだから、その言葉は飲み込んだ。


「……ま、結果オーライってことで。」


「お…おーらい?で、ございますか?」


「あー…んー…終わり良ければ全て良し!みたいな感じかな。」


この世界には伝わらない言葉や物が多い。


「なるほど……。若様らしいお言葉です。」


「褒めてんのか…?それ…。」


夕日に照らされた校舎を後にし、ゆっくりと朝霧家への帰路についた。


♢♢♢


帰りも御影の案内で、木から木へうつりながら帰宅を急ぐ。

木の上から見る景色は好きだ。

前の世界じゃ木登りなんてしたことが無かったのに、今じゃ軽々と飛び越えている。

御影の後を追うと、やがて大きな屋敷が姿を現した。


――朝霧家。


歴史ある名門にふさわしい堂々たる屋敷だ。

地面へ降り門をくぐると、複数の使用人が整列して待っていた。


「若様、お帰りなさいませ。」


一斉に頭が下がる。


「えっあぁ……どうも……。」


そしてその奥から、一組の男女が姿を見せた。


「「お帰り。」」


朝霧家の当主である父と、その隣には優しく微笑む母。

二人とも、時雨の姿を見た途端、どこか安心したように表情を緩めた。


「それで…試験はどうだった?」


父の問いに、時雨は頭を掻きやがら答える。


「まぁ……一応、いけた。」


その言葉に父と母は顔を見合わせ、ほっと胸を撫で下ろす。


「そうか……本当に良かった。」


父は笑い、母は泣きそうになっている。

そんな反応に、時雨は少しだけ気まずそうに笑う。


「でも、上手く制御はできなかった。思った以上に威力が出てさ…。その…庭とか窓とか色々壊しちゃって…。」


「何を言っている。使えただけも凄いことなんだ。修理費など痛くもない。」


「そうですよ。制御だって、これから少しずつ覚えていけばいいのです。」


(破壊したことは何とかいけそうだな…。)


時雨は視線を両親から逸らし、気まずそうにまた話し始めた。


「あとさ…もう一個あるんだけど…。」


父と母が首を傾げる。

時雨は隣に立つ御影の肩をぽんと叩いた。


「……あとは説明よろしく。」


「え?」


その言葉に御影が目を丸くする。


「見てたんだろ?じゃあ説明しといてくれ!俺は部屋に戻ってるからさ!」


言うが早いか、時雨はくるりと踵を返し、そのまま逃げ出した。


「若様!?」


御影が慌てて呼び止めるが、時雨は振り返らない。

決闘をし、相手に怪我をさせたとなれば流石に怒られると思ったのだろう。

両親の視線が、ゆっくりと御影へ集まった。


「……説明させていただきます。」


三人は部屋を移動し、試験の後に起きた出来事を話し出した。


「……決闘?」


御影の言葉を聞き、父の眉間にシワが寄る。


「はい。九条様より若様へ決闘が申し込まれました。」


母は思わず口元を押さえた。


「あの子に……怪我は…?」


「ございません。ですが、若様は見よう見まねで火遁を使用され、その威力を制御しきれず暴走いたしました。」


「何だと……!」


二人の表情が一気に険しくなる。

それもそのはず。秘術のみならず火遁まで使うとは、想像もしていなかったのだ。


「幸い、被害は最小限で済んでおりますが…九条様がお怪我をなさって…。」


「……そうか。」


「それから…神楽様も、その場にいらっしゃいました。」


「なんだと…?」


父も母も同時に目を見開く。

――神楽家。

朝霧家と並ぶ五大名家の一つ。

その跡取りが、時雨と関わったというのだ。


「神楽様は若様の実力を認められ、今までの事を謝罪しておられました。」


「…ほう。」


「決闘で九条様が敗れた場合には、神楽様と共に退学。そして神楽に至っては次期当主も辞退するとのことでした。」


父は思わず言葉を失う。

次期当主というものは、簡単に辞退できるものではない。

それを、決闘の条件にしただと……?


「しかし若様は、その条件を受け入れませんでした。『二度と俺に関わらないなら、学校も辞めなくていいし、当主も辞退しなくていい』と。」


「あの子が…そう言ったのか?」


「はい。」


「そうか…。しかしなぜ、その話を御影に頼んだ?」


「おそらく……叱られると思ったからではないでしょうか。学校でも反省文を書いておりましたから。」


怒るどころか、時雨のことを誇らしく思っている。

だが、案外本人には伝わらないものだ。

しばらく考え込んだ父は、静かに口を開く。


「……御影。」


「はい。」


「明日にでも、九条家へ伺おう。決闘の件は学校で決着がついているとはいえ、礼節は尽くさねばならん。」


「……かしこまりました。」


御影は深く一礼し、その場を後にした。

その頃、当の時雨は自室の布団へ倒れ込んでいた。


「はぁ…。漫画読みてぇ……。」


などと呟きながら、両親が九条家へキレている事など知る由もなく、大きなあくびをしていた。

テレビもスマホもない。

この世界の娯楽は何なのだろう。

ごろりと寝返りを打ち、部屋を見回す。


「何か暇つぶしになるもん……。」


起き上がり机や棚を漁るが、それらしい物は見当たらない。

あるのは巻物や教本ばかり。


「んー……あ!」


何かをひらめいた時雨は、机の上に置きっぱなしにしてあった日記を開く。

途中からは白紙になっており、文字が書き込めそうだった。


「よし…。」


筆を手に取る。

書き始めた文字は、この世界のものではない。

以前いた世界で使っていた文字。

この世界の人間はきっと誰も読めないだろう。

時雨は今日あった日のことを書き留めた。


「試験があって…決闘して…反省文書かされて…。」


人生で日記など書いたことはない。

でも何故か書きたいと思った。

文字も文もめちゃくちゃだが、本人は満足そうにしている。


「そういえば…。」


書いてる途中であることに気付き、走らせていた筆が止まる。


「俺がいた世界に、あいつが今いるんだよな…。」


両手を頭の後ろにあて、天井を見上げる。


「何してんだろ……。」


答えの返ってこない問いだけが、静かな部屋に溶けていった。



第十話は21時前後更新予定です。

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