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魂が入れ替わった俺は、忍として生きることになった  作者: 茅ヶ崎 真
初めまして。忍びの世界。

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第四話 影陰忍術学校

♢♢♢


「くわああぁ……。よく寝た……。」


とても気持ちの良い朝だった。

夢を見なかった為、久しぶりにぐっすり眠れたからだろう。

それは良いことなのだが、この世界に来たことが現実なんだと再度突きつけられたような気分になる。


「夢じゃなかったんだなー……。」


一言呟き、天井を見つめたまましばらく動かない。

やがて障子の向こうに人影が見えた。


「若様。お時間です。」


「あー…はいはい。起きてる起きてる。」


重い体を起こし、身支度を始める。洗面所の蛇口を捻ればすぐにお湯が出てくる訳ではない為、冷水に耐えながら顔を洗う。

それ以外の身支度は全て御影がしてくれるそうで、髪の毛も全てセットされていく。

そして最後に着替えだ。御影はすでに着替えを用意してくれていた。

忍装束……黒を基調にした布地に、朝霧家の家紋が控えめに刻まれている。

動きやすさを重視しながらも、どこか格式を感じさせる造りだった。


「本日の試験用にございます。」


「うわぁ……かっけぇ。」


厨二病を拗らせていた時の自分を思い出しながら俺は袖を通した。

不思議なことに、初めて着るはずなのに違和感がない。

むしろ身体が勝手に正しい形へ収まっていくようだった。

帯を締め終えると、御影が一歩下がって頭を下げた。


「若様……お似合いです。」


「……そりゃ、どーも。」


慣れない姿に少し照れてしまい、御影の褒め言葉をそっけなく返してしまう。


「さぁ、行きましょう。」


「へいへい……。」


屋敷の外では、父と母が並んで立っていた。

どうやら時雨を待っていたようだ。


「……無理はするな。危なくなれば、すぐに退け。」


「わかった……。」


母はそっと時雨の袖を整えこちらに微笑みかけた。


「あなたなら、大丈夫よ。大丈夫……。気をつけて行ってらっしゃい。」


(……!母さん……。)


向こうの世界の母と重ねてしまった。少し胸が痛い。


「…行ってきます。」


「では、学校までご案内いたします。」


「あぁ……。どの道から行くんだ?」


次の瞬間、御影が地面を蹴り木々の上へと跳び上がった。


「え!?道じゃなくて木!!?」


「左様でございます。」


「どんな登校だよ!」


「時間がありません。若様、ついてきてください。」


そう言い残し、本当に先へ行ってしまった。


「待てって!!」


時雨も慌てて地面を蹴り、木の上へジャンプした。

落ちないよう、木の幹にへばりついている姿がまた情けない。


「意外と高ぇ……。」


御影は待ってくれそうにない為、勇気を出し木から木へうつっていく。

身体が軽い。いや、軽すぎる。

気づけば、風を切って森の上を走っていた。


「うわあああぁ!すげぇえぇぇえ!!」


全く怖くない訳ではない。下を見ないようにどんどん駆け抜けて行く。


やがて視界が開けると、そこには巨大な門が。


(あれが学校か?)


すると目の前を走っていた御影が下へ降りた為、続けて時雨も降りる。


「うわぁ……。でけぇ……。」


見上げた門の横には、

影陰忍術学校えいいんにんじゅつがっこうと書かれていた。


「若様。到着いたしましたので、私はこれで失礼いたします。」


「え!あんたは来ないの?」


「在籍中の生徒しか校舎には入れません。私はこの辺りにおりますから、何かあればお呼びください。」


「え、学校終わるまでいるつもり?」


「はい。私は若様の付き人ですから。」


人を待たすのは心苦しいが、きっとこいつは何を言っても帰らないだろう。時間も無い為、御影に背を向け歩き出した。


門をくぐる。

足元の石畳は磨かれ長い年月を経たような冷たい質感を持っている。

風が通るたび、木々がかすかに揺れる音が妙に心地いい。

俺は無意識に周囲へ視線を走らせた。

壁際には、訓練用と思われる的や武具が整然と並び、廊下の隅には小さな結界の札が貼られている。


「ひえー。アニメの世界だな。」


キョロキョロしながら、昨日御影に言われた教室へ向かう。


(えーっと、突き当たり左だったっけな。)


あやふやな記憶を頼りに廊下を歩いていると、どこからか視線を感じた。それだけではない。ひそひそと声も聞こえてくる。


「うわー……来たよ。アイツ。」

「朝霧家の落ちこぼれが。」

「どうせ術使えないのに来る意味あんの?」


(え?もしかして俺のこと言ってる?)


よく見れば周りの生徒たちはみな俺を見ていた。馬鹿にしたような目で。


(気分悪い……。)


その視線を無視し教室へ向かう。廊下がやけに長く感じた。

その中で、わざとらしい笑い声が俺の背後から聞こえてきた。


「おやぁ?退学確定の朝霧が来てんじゃんか。」


イラッとはしたが、その声を無視し歩き続ける。その様子に相手も腹が立ったのか、先程よりも強く声をかけてきた。


「あぁ?テメェごときが無視してんじゃねぇぞ!」


この一言でさすがの俺も立ち止まる。テメェごとき……それは、俺ではなく以前ここにいた時雨に言っているのだろう。


(どいつもこいつも……バカにしすぎだろ。)


時雨はゆっくりと振り返った。

そこに立っていた人物は、こちらを見下していたる。短めな茶髪は少し乱れていた。

いや、乱れているのは忍装束も一緒だ。襟を少し開け、それでいて帯の結びは雑。


「やっぱ聞こえてんじゃねぇかよ。」


ニヤッと笑うその顔は、まさにいじめっ子だ。


(あいつは毎日、この生活に耐えていたのか。)


自分の送っていた高校生活とは大違いだ。

こんないじめっ子もいなければ、成績でクスクス笑われることもない。俺は無言で相手の男を睨みつけた。


「……あ?偉くなったなぁテメェ。誰を睨んでんだよ。おい。」


以前この世界にいたあいつは、どんなに悔しくてもムカついても、きっと黙って何もしてこなかったんだろう。言い返したかったはずだ。馬鹿にするな、いちいち構うな……と。

だが、俺は違う。


「まぁ……俺は普通に言い返すけどな。」


「……あぁ?」 


「誰を睨んでんだって言ったか?お前だよお前。」


まさか言い返してくるとは思ってもいなかったのだろう。相手の男が目を見開いている。その顔はどこか面白い。


「テメェ……誰に口聞いてんだ!!」


「うるせぇ!!口聞かれたくないんなら絡んでくるなこのタコ!!!!」


あれだけザワザワしていた周囲がシーンとなる。

それもそうだろう。いつも虐められていた人物がいきなり睨みをきかせたかとおもえば、言い返している。……しかもタコ呼ばわり。


「ったく。教室までの道のり忘れんじゃねぇか……。」


時雨はそう言い残し、左だったか右だったか……とブツブツ言いながらその場をあとにした。

喧嘩を売った男は驚きのあまり固まっている。


「あいつ……本当に朝霧か……?」


その言葉は、時雨本人に届くことはなかった。


――二年乙組


(あー……ここだここ。)


少し迷ってしまったが、なんとか教室にたどり着いた。


ガラッ――

 

引き戸を開け教室へ一歩足を踏み入れた。

長机が整然と並べられた空間に、それぞれが適当に腰を下ろしている。


(確かあいつ席は自由だって言ってたな。……端っこ行こ。)


クラスメイトからの視線を無視し、あいている場所へゆっくり腰を下ろした。


(それにしてもあいつ……腹立ったなぁ。)


先程の出来事を思い出し顔がどんどん険しくなっていく。

普段の時雨なら勉強しているか下を向いているかだが、今は違う。

眉間に皺を寄せ、明らか怒ってた顔をしている。

周りの生徒たちも不思議そうに見つめていた。


――ガララ


教室のざわめきは、扉が開いた瞬間にすっと消えた。

入ってきたのは二十代後半ほどの男。

どこか眠たげにも見える目元は柔らかく、威圧感もない。


「はーい。みんな席に着けー。」


教師の言葉に生徒は空いている席へ移動する。時雨の隣に座る人はいなかった。

教師は辺りを見回し、バチッと時雨と視線が合う。

人の顔を見るなり、何故か驚いている。


「朝霧……お前…ちゃんと来たんだな。」


どうやら俺が登校したことに驚いているらしい。

それもそのはず。今日の試験は秘術が使えなければ即退学だ。その為教師は、基礎忍術も使えない時雨が来ると思っていなかったのだろう。


「来ただけでも意味がある。偉いぞ、朝霧。」


教師はどこか嬉しそうだ。周りの空気はシラケているが……。


「はぁ……。どうも。」


「よし。じゃあ今日は大事な進級試験だ。分かっていると思うが、この試験に落ちたものは退学。手続きも今日済ませて、学校から出ていってもらう。」


(えぐぅ…。)


「試験内容は人によって違ってくる。秘伝忍術や秘術。どちらも無い場合はこちらで用意した術を行ってもらう。」


(ん?みんな秘術使う訳じゃねぇの?)


周りの生徒は既に理解しているのか、真剣に教師の話を聞いている。時雨は元々そこまで頭が良くない為、理解力が乏しいのだ。


「じゃあ皆外に出て。庭へ移動するよ。」


教師の言葉に生徒たちは立ち上がり教室を出る。

時雨も生徒の後に続いた。


(……いよいよだ。)



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