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クマのぬいぐるみになった私ですが、騎士隊長の妹の形見らしく、毎晩キスされています  作者: mimo


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5

 城に戻ると、茶髪を一つに結んだ騎士がいた。


「あ、隊長どこに行ってたんですか? 食堂にも来ませんでしたし、探しましたよ!」


 振り向いた騎士が、ぱっと表情を明るくする。


「あぁ、すまない。図書館に行ってたんだ」

「図書館ですか? 珍しいですね。隊長が本を読むなんて」

「調べたいことがあってな……ルーカス、エルディナという国を知ってるか?」


 ルーカスは首をかしげた。


「さあ……聞いたことないですね」

「……そうか。いや、知らないなら、良いんだ。食堂で話そう。何か用があったんだろう?」

「あ、そうでした! 隊長、今日飲みに行きませんか? 何人かで集まる予定なんですけど――」


 部屋を出て行くアルベルトに、ルーカスもついて行った。


(またエルディナを知らない人だった……。ううん、まだ落ち込むのは早いわ!)


 まずは先程借りた本を読んでみなければ分からない。

 けれど、先程のルーカスの誘いが気になる。

 アルベルトは部下も大事にしているように見える。


 しばらくして、アルベルトが一人で戻ってきた。

 けれど、私に話しかける様子はない。


 やがて、執務をこなしているうちに、空はいつの間にか暗くなっていた。

 月明かりが城内に差し込んでいる。


 帰り道、アルベルトの歩く速度が、いつもより少しだけ遅い気がした。

 本を三冊抱えているからかもしれない。


(……このまま、酒場に向かうのかしら)


 私は視線を、空に輝く月に向けた。

 本は明日からでも読める。

 彼は約束通り図書館に行ってくれた。

 それだけで、今日は十分だ、


 けれど彼は、いつもの馬車に乗った。

 やがて自宅に着いて鞄を机に置いた彼は、背中のチェーンを手に取る。


「外してくれるの?」

「そのままじゃ、本が読めないだろう。だが、勝手に出て行くなよ」

「わかってるわよ」


 チェーンが外れる。

 昨日まで必死に外そうとしていたそれを、彼は何でもないように取り外した。 

 アルベルトは椅子に座り、鞄から本を三冊取り出す。


「飲みには、行かないの?」

「あぁ、断った」

「そう……。私の本が、重たくて?」


 彼は本から私に目線を移し、目を見開く。

 そして、ふっと笑った。

 

「そうじゃない。あれは……女性を紹介したいと言われたんだ」

「え?」

「たまにあるんだ。騎士の集まりかと思えば、そうじゃないものが」


 彼は大きなため息をつく。

 そして、もう一度こちらを見た。


「……気にしていたのか?」

「そんなんじゃないわ」


 私は両手を大きく動かして、抗議した。

 彼は笑っている。


「……可愛いな」


 彼から出た言葉に、耳を疑った。

 そしてすぐに、ぬいぐるみのことだと合点がいった。


(まぁ、大事にしていたぬいぐるみが動いてるんだもの。私だって、自分のことじゃなければ、可愛いと思うわ)

 

 そう思うのに、なぜか顔が熱い気がした。


「本は読まないのか?」

「……読むわ」


 なんとか気持ちを落ち着かせて、彼の傍に移動した。

 彼が一冊を手に取り、表紙を開く。


(この大陸の地図ね。ルミナリア……騎士団の名前は国名から来ていたんだ)


 私は、今までエルディナのことばかり気にしていた。

 けれど、私もルミナリアという名の国を知らなかったことに、今更気付いた。

 

 アルベルトは、地図を指でなぞりながら、国の名を読み上げていく。

 低くて静かな声が、夜の部屋に響く。

 彼の読み上げた国の名は、全て知らなかった。


「このページには、エルディナは載ってないようだな。やはり近くにはない国か」

「そうね……でも、まだ一ページ目だし、次のページも見せて」


 できるだけ、明るい声を作る。

 でも、ページをめくる度に出てくる知らない国々に、期待よりも不安が大きくなってきた。


(どうして、エルディナがないの……)


 エルディナは決して小さい国ではない。

 農業も盛んで、薬の開発もしていて他国へ輸出もしていた。

 それなのに、その輸出先さえ出てこない。


「次で最後だな」


 アルベルトが三冊目の本を手に取った。


「……えぇ」


 思わず、元気のない声が出てしまった。

 アルベルトが様子を伺うように、ちらりと私を見る。


「もしこれに載ってなかったとしても、まだ三冊目だ。他の本に載っている可能性はある。それに、この世界にはまだ地図のない大陸もあるんだ」

「……でも、それじゃ調べようがないわ」

「いや、方法はある」


 彼のまっすぐな瞳と目が合う。


「騎士団の中には、そういった大陸に調査に行く部隊がある。そこに行った奴らに聞けばいい。だから、落ち込むには、まだ早い」

「落ち込んでないわ」


 つい、強がってしまった。

 彼は、私の言葉を聞いて、ふっと笑った。


(笑った……)


 昨日とは違う、その顔に、少しだけ胸が温かくなった。


「そうか。それは、すまなかった」


(励ましてくれたのよね……少し気持ちが軽くなったかも)


 私も、口元が緩んでいた。


 結局、三冊目にもエルディナは載っていなかった。

 けれど、希望がなくなったわけではない。


 また図書館に行く約束をして、彼はベッドに入る。

 眠りにつく前、彼が”おやすみのキス”をしようとしてきて、驚いた私は顔を何度もたたいてしまった。

 今、彼は鼻を押さえて、眉間にしわを寄せている。 


「……ごめんなさい」

「いや、俺の方こそ、すまない」


 私はまた気持ちを落ち着かせることに時間がかかった。 


 それから、十数日。

 結局、地理の本では見つけられなかった。

 歴史、民俗、交易、言語――手がかりを探して、私たちは色々な本を読み進めた。


 もしかしたら、こちらの言葉ではエルディナと発音しないのかもしれない。

 もしかしたら、農作物や薬の特徴からエルディナを見つけることができるかもしれない。

 そんな藁にもすがる思いで、色々な本を読み進めた。


「隊長、また図書館ですか?」

「あぁ」

「前に言ってたエルディナですけど、周りの奴ら誰も知りませんでしたよ」


 アルベルトは眉を寄せて、息を吐く。


「そうか……」

「なんか訳ありな国なんですか? あ、訳ありと言えば、仕入れた武器の中にー―」 


 二人の話題は、そのままエルディナから離れていった。

 聞いたこともない国を連日調べていれば、部下も不思議がるだろう。


 忙しいアルベルトの貴重な休憩を使ってることは分かっていた。

 アルベルトの昼休憩は短い。

 午前中の仕事が長引いてる時もあれば、昼休憩中に騎士が訪ねてきて、そのまま仕事が始まってしまう事もある。

 それでも、彼はできる限り図書館に通ってくれている。


 相変わらず、彼は夜に仕事をしている日も多い。

 そういう日はベッドに移動し、私一人で本を読み進めた。

 幸い、本が大きくても、魔法でページをめくることができる。


 協力してくれている彼には感謝している。

 連日手伝ってもらっている罪悪感と、少しでも恩を返したいという気持ちが、ずっと胸の中にあった。


(でも、私ができることって……やっぱり、魔法かしら?)


 アルベルトから人前で魔法を使うことは禁じられている。

 けれど、二人だけの時は注意されたことは無い。


 机に向かって書類を書いているアルベルトに視線を向ける。

 彼は手を止めて、傍に置いてあるカップに口を付けた。

 しかし、中身が空だったのか、すぐにカップを下ろす。

 水差しが置かれた近くのテーブルに目をやるが、彼は立ち上がらず仕事を続けた。


(あれだわ!)


 私は心の中で念じる。

 そして、ベッドの端に立ち、アルベルトに声をかけた。


「アルベルト、カップを見てみて」

「なんだ、急に?」


 彼は書類から目を離さずに答える。


「いいから、見てよ」


 アルベルトは、一つ息を吐いてカップに目をやる。

 その目が見開かれた。

 

「水が……どうして……」

「魔法よ。ちょうど飲み切ったみたいだったから」


 カップの中をじっと見るアルベルト。


「この水は、安全か?」

「失礼ね。ちゃんと、そこの水差しから移したのよ。疑うなら水差しを確認してよ」


 彼は水差しを確認しに行く。


「……減っている」


 彼は驚いて、手に持っていたカップの水を一口飲んだ。

 その様子に、思わず吹き出した。


 それからは、二人の時は魔法を使うようになった。

 濡れたコートを乾かし、消えかけたランプに火を足す。

 初めのうち驚いていたアルベルトも、いつの間にか動じなくなっていた。


「リゼットは本来、どんな姿をしているんだ?」


 民族の本を読んでいる時に、ふいに彼が聞いてきた。


「人間と見た目は変わらないわ。髪はピンクっぽいブラウンで、腰くらいまで……瞳はこの色に近いかな」


 そう言って本の絵を指すと、彼も同じ場所に目を向けた。

 少しの間、彼は黙っていた。


「……普段は、どんなことをして過ごしていたんだ?」

「普段は……って、どうしてそんなこと聞くの?」

「いや、ただ気になっただけだ」


「そう……。普段は、この本の人達のように、鶏の所に卵を取りに行ったり、学校に行ったり――。そんな特別なことは無いわ。魔法は使うけど」


 そう言って、彼の袖のボタンがほつれている部分に魔法をかけた。

 彼は光に包まれて、綺麗になっていくボタンを見ている。


「魔法は生活の一部だから」

「……見事だ」

「お褒めいただき光栄です」


 私はお辞儀するポーズをとった。

 彼の視線が私に戻る。


「……よく笑う方なのか?」

「え?」

「いや、何でもない。本の続きを読もう」


 彼のいつもと違う雰囲気に、なぜかまた胸の奥が落ち着かない。

 彼の質問の意図は、分からない。


 けれど、悪い気持ちはしなかった。

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