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第6話 ヤマトタケル、神功皇后、そして中巻完結

中巻の主役、ヤマトタケル登場です。

強い、怖い、でも父に愛されない。そこから神功皇后、応神天皇まで一気に進みます。

神話から人間ドラマへ寄っていくぶん、やらかしの質も生々しくなります。


第十一章 ~ ヤマトタケル ~ 古事記最大の問題児にしてヒーロー ~


第十二代・景行天皇けいこうの息子、倭建命ヤマトタケル


古事記中巻のメインキャラである。


彼の初登場エピソードからして衝撃的だった。


父の景行天皇が、ヤマトタケルの兄が食事の席に来ないのを注意するよう言った。


「兄を教え諭せ」


数日後。兄が来なくなった。


「どう諭した?」


「朝、トイレに入るところを待ち伏せて、掴んで、手足をもいで、薦むしろに包んで投げ捨てた」


教え諭す(物理)。


景行天皇は震えた。


「この子、やばい」


怖くなった父は、ヤマトタケルを遠ざけることにした。


「西の熊曾建クマソタケルっていう反抗勢力を討ってこい」


少年一人に送り出す。護衛なし。実質、体のいい追放である。


第十二章 ~ 西征 ~ 女装して敵の宴会に潜入する皇子 ~


ヤマトタケルは旅の途中、叔母の倭比売命ヤマトヒメのもとに立ち寄った。伊勢神宮に仕える巫女である。


「叔母上、衣装を貸してください」


ヤマトヒメは女物の衣装を渡した。


ヤマトタケルはそれを着て、女装した。


若く美しかった彼は、完璧に女に見えた。


熊曾建兄弟の宴会に、美少女のふりをして潜入。


兄弟は「おっ、可愛い子来た!」と隣に座らせ、酒を飲んで上機嫌になった。


宴もたけなわ。


ヤマトタケルは懐から剣を抜き、兄の方を一突き。


弟が逃げようとしたが、背後から斬りつけた。


瀕死の弟が言った。


「あなたは何者だ……?」


「大和の皇子だ」


「我々より強い者がいたとは……あなたにこの名を贈ろう。ヤマトタケル(倭の勇者)と」


「ありがとう。死んでいいよ」


名付け親を殺すスタイル。


こうしてヤマトタケルの西征は成功した。


帰り道にも出雲建イズモタケルを友達のふりをして近づいてから偽の剣を持たせて斬り殺すなど、騙し討ちのオンパレードで敵を片付けていった。


正々堂々とは無縁の男である。だが強い。


第十三章 ~ 東征 ~ 父はやっぱり息子を使い潰す ~


大和に凱旋したヤマトタケル。


父・景行天皇に報告すると、即座に次の命令が下った。


「東の荒ぶる神々と反抗勢力を平定してこい」


休む暇もない。


ヤマトタケルは泣いた。


「父上は俺に死んでほしいんだ……。西を平定して帰ったばかりなのに、軍もくれず、休みもくれず、また一人で行けと……」


これは古事記の中でも屈指の名場面である。最強の戦士が、父に愛されないことに泣く。


叔母のヤマトヒメは、ヤマトタケルに二つのものを渡した。


- 草薙剣クサナギノツルギ ―― スサノオがオロチの尻尾から出してアマテラスに贈った、あの三種の神器


- 火打ち袋


「危なくなったら、これを開けなさい」


第十四章 ~ 駿河の野焼き ~ 火をもって火を制す ~


東征の道中、駿河(静岡)で罠にかかった。


地元の国造くにのみやつこが「この野原に荒ぶる神がいるので退治してください」と言う。


野原に入ったとたん、四方から火を放たれた。


「騙しやがったな!」


絶体絶命。だがヤマトタケルには草薙剣があった。


剣で周囲の草を薙ぎ払い、火打ち袋で向かい火を起こし、迎え撃った。


火を火で打ち消す。逆転。


そして騙した国造どもを焼き殺した。


この地が後に焼津やいづと呼ばれるようになった。地名の由来がバイオレント。


第十五章 ~ 弟橘比売 ~ 古事記で一番泣ける別れ ~


相模(神奈川)から上総(千葉)へ海を渡ろうとしたとき、海が大荒れになった。


海の神が怒っている。


妻の弟橘比売命オトタチバナヒメが言った。


「私が海に入ります。あなたは使命を果たしてください」


「待て、そんな——」


「大丈夫。あなたに出会えて幸せでした」


弟橘比売は菅の畳を波の上に敷き、その上に座って海に沈んでいった。


海は静まった。


ヤマトタケルは無事に渡ったが、しばらく何も言えなかった。


東国の平定を終え、帰路。碓氷峠(群馬と長野の境)から東を振り返り、こう言った。


「吾妻はや……(ああ、我が妻よ……)」


この地方が後に「あづま」「あずま」と呼ばれるようになったのは、この一言が由来だという。


ギャグ路線だったのに完全に泣かせにきた。


すまない。古事記が悪い。


第十六章 ~ 白鳥になった英雄 ~ 伝説の結末 ~


東国を平定したヤマトタケルは、帰り道で致命的なミスを犯した。


尾張で草薙剣を妻の宮簀媛ミヤズヒメのもとに預け、丸腰で伊吹山の神を退治しに行った。


「あんな山の神、素手で十分だ」


慢心。完全な慢心。


伊吹山の神は巨大な白い猪の姿で現れた。


「ふん、ただの神の使いだろう。帰りに殺してやる」


神そのものだった。


神の放った氷雨に打たれ、ヤマトタケルは瀕死になった。


朦朧としながら山を降り、三重の能煩野のぼのにたどり着いたとき、彼は歌を詠んだ。


「大和は国のまほろば たたなづく青垣 山こもれる 大和し美し」


(大和は最も美しい国。青い山々が垣根のように連なる、美しい大和よ)


故郷を想いながら、ヤマトタケルは死んだ。


彼の魂は巨大な白鳥になり、空へ飛び立った。


家族が追いかけた。白鳥は大和から河内へ、河内から堺へ。追いかけても追いかけても、空の彼方へ消えていった。


最強の戦士は、最後まで父の愛を得られなかった。


だがその魂は白鳥になって、自由に空を飛んだ。


第十七章 ~ 仲哀天皇と神功皇后 ~ 妻が強すぎて夫が死んだ件 ~


ヤマトタケルの子が第十四代・仲哀天皇ちゅうあいである。


(※第十三代・成務天皇は例によってほぼ記述なし。かわいそう)


仲哀天皇の皇后は神功皇后じんぐうこうごう。この人がとんでもなかった。


仲哀天皇が熊曾討伐のために九州にいたとき、皇后に神が降りた。


「西に宝の国(新羅)がある。そこを攻めよ」


仲哀天皇は高台に登って西を見た。海しか見えない。


「嘘じゃん。海しかないんだけど」


神のお告げにダメ出し。


神は激怒した。


「お前にこの国を治める資格はない」


仲哀天皇、急死。


神のお告げを疑って即死。 歴代天皇の中でも屈指の理不尽な死に方である。


残された神功皇后は自ら軍を率い、妊娠したまま海を渡り、新羅を攻めた。


お腹には石を当てて出産を遅らせたという。物理的にどうなっているのかはわからない。


新羅は戦わずして降伏。百済と高句麗も朝貢を申し出た。


帰国後に生まれた子が応神天皇おうじん。後の八幡神である。


しかし帰国後、仲哀天皇の前妻の息子たちが反乱を起こした。


神功皇后はこれもあっさり鎮圧。


強い。夫より圧倒的に強い。


最終章 ~ 応神天皇 ~ 中巻、ここに完結す ~


第十五代・応神天皇は母・神功皇后の血を色濃く受け継ぎ、英明な天皇となった。


彼の時代には大陸から多くの技術者や学者が渡来し、漢字や機織りの技術が伝わった。


特に百済からやってきた和邇吉師ワニキシが『論語』と『千字文』を持ってきたのは大きい。


日本に「文字」が本格的に入ってきた瞬間である。


……つまり、ここまでの物語はすべて「文字がない時代」に口伝えで伝わってきたということだ。


よくこれだけのストーリーを覚えていたものである。


いや、覚えてるうちに盛ったんだろうなあ、と思わなくもない。


応神天皇はまた恋愛エピソードも多い。矢河枝比売ヤカワエヒメに恋文を贈ったり、息子と女性を取り合ったりしている。


その息子たちの後継者争いの末に即位するのが第十六代・仁徳天皇。


だがそれは、下巻の話である。


エピローグ


中巻を振り返ろう。


ニニギは顔で嫁を選んで人類の寿命を縮め、山幸彦は釣り針をなくして兄を水攻めにし、「見るな」は相変わらず守れず、欠史八代は中身がなく、ヤマトタケルは最強なのに父に愛されず白鳥になり、仲哀天皇は神に逆らって即死し、神功皇后が全部なんとかした。


上巻に比べると、少しだけ「人間」の話になってきたのがわかるだろう。


神話から歴史へ。


ファンタジーからヒューマンドラマへ。


だがやらかしの量は変わらない。むしろ増えている。


さあ、下巻へ続こう。


仁徳天皇の「民のかまど」伝説から、歴代天皇の恋愛と権力闘争、そして古事記の幕引きまで。


人間たちの物語が、最後の頁に向かって走り出す。


――中巻・完――


下巻予告:仁徳天皇の聖帝伝説と嫁姑ドロドロ劇! 允恭天皇の禁断の恋! 雄略天皇の暴君っぷり! 古事記、ついに完結! ……たぶん一番ドロドロしてるのは下巻です。乞うご期待。


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