第4話 ニニギ、顔で選んで人類の寿命を縮める
古事記中巻開始です。
天孫ニニギの子孫たちの物語に入りますが、血筋が神でも判断はかなり人間臭いです。
まずは嫁選び、釣り針紛失、そして海の宮殿です。初手からだいぶ迷惑です。
プロローグ ~ 前巻のあらすじ(雑) ~
神様が出勤即退勤し、夫婦がノリで日本列島を作り、離婚して、風呂場で子供が三人生まれ、姉が引きこもったのをストリップで解決し、弟が酒で大蛇を倒し、いじめられっ子がウサギの恩返しで成り上がり、最終的におばあちゃんが孫を地上に送り込んだ。
以上が上巻である。正気か?
さて中巻。天孫ニニギの子孫たちが「天皇」として日本を治めていく物語が始まる。
だが安心してほしい。
血筋が神になっても、やらかしは遺伝する。
第一章 ~ ニニギ、顔で嫁を選んで人類の寿命を縮める ~
天孫降臨を果たした邇邇芸命は、地上で一人の美女に出会った。
木花之佐久夜毘売。花のように美しい女神。
「結婚してください」
即プロポーズ。もはや家訓である。
コノハナサクヤヒメの父・大山津見神は大喜びで、姉の石長比売も一緒に嫁に出した。セット販売である。
ところが姉のイワナガヒメは……お世辞にも美人とは言えなかった。
ニニギはイワナガヒメだけ送り返した。
「すいません、こっちは結構です」
返品。
オオヤマツミは嘆いた。
「イワナガヒメを妻にすれば、あなたの命は岩のように永遠だったのに。コノハナサクヤヒメだけでは、花のように儚く散る命になりますぞ……」
つまり人間の寿命が有限になったのは、ニニギが顔で嫁を選んだから。
全人類に謝れ。
さらにニニギはやらかす。コノハナサクヤヒメがすぐ妊娠すると、こう言い放った。
「え、早くない? 俺の子じゃなくて、その辺の国津神の子なんじゃないの?」
最低発言。
ブチギレたコノハナサクヤヒメは、産屋に火を放ち、燃え盛る炎の中で出産した。
「本当にあなたの子なら、火の中でも無事に生まれるでしょう!!」
証明方法が過激すぎる。
炎の中から三人の子が無事に生まれた。
- 火照命 ―― 通称・海幸彦
- 火須勢理命 ―― 影が薄い次男。以降出番なし
- 火遠理命 ―― 通称・山幸彦
ニニギは何も言えなかった。
当たり前だ。
第二章 ~ 海幸彦と山幸彦 ~ 釣り針一本で兄弟関係が崩壊 ~
海幸彦は海で魚を獲り、山幸彦は山で獣を狩っていた。
ある日、山幸彦が言った。
「たまには道具を交換してみない?」
海幸彦は渋ったが、弟に押し切られた。
結果。
山幸彦は海で一匹も釣れず、おまけに兄の大事な釣り針を魚に持っていかれた。
「ごめん、針なくした」
「は?」
「代わりにこれ……」
山幸彦は自分の剣を潰して五百本の釣り針を作り、差し出した。
「いらん」
千本作った。
「いらん。俺の針を返せ」
兄、頑固。
山幸彦は海辺で泣いていた。すると塩椎神という老神が現れた。
「わけを話しなさい」
「釣り針なくして兄に怒られて……」
「海の神の宮殿に行けば見つかるよ。この籠に乗りなさい」
塩椎神は小さな籠舟を用意し、山幸彦を海の底へ送り出した。
第三章 ~ 海の宮殿 ~ また居候先で嫁を見つける一族 ~
海底の宮殿に着いた山幸彦。井戸のそばの木に登って待っていると、侍女が水を汲みに来た。
山幸彦が井戸を覗き込むと、水面にイケメンが映っていた。自分である。
侍女は驚いて宮殿に報告した。
海の神・綿津見神が出てきて、山幸彦を見るなり言った。
「おお、あなたは天孫の御子! さあさあ中へ!」
VIP待遇。アシカの皮の敷物を何重にも敷かれ、豪華な宴が始まった。
そしてワタツミの娘・豊玉毘売と目が合い、恋に落ちた。
この一族、助けを求めに来た先で必ず嫁を見つける。
遺伝子に刻まれたスキルである。
山幸彦はトヨタマヒメと結婚し、海の宮殿で幸せに暮らした。
三年が経った。
「……あ、釣り針探しに来たんだった」
三年忘れてた。
ワタツミは魚たちを集めて聞いた。
「誰か喉に釣り針が刺さってるやつ、いるか?」
鯛が名乗り出た。喉から針が出てきた。
「あった~」
ワタツミは山幸彦に針と一緒に、二つの玉を渡した。
- 塩盈珠 ―― 潮を満ちさせる
- 塩乾珠 ―― 潮を引かせる
「兄上が攻めてきたら、これで溺れさせなさい。兄上が許しを乞うたら、助けてあげなさい」
海の神、えげつないアイテムを渡す。
第四章 ~ 兄弟決着 ~ 潮で溺れさせるのは「話し合い」とは言わない ~
地上に戻った山幸彦は、兄に針を返した。
「はい、これ」
しかしワタツミに教わった通り、針を渡すとき呪いの言葉をかけた。
「貧しくなれ、衰えろ、不幸になれ」
弟、めちゃくちゃ性格悪い。
案の定、海幸彦の漁はうまくいかなくなった。
怒った海幸彦が攻めてくると、山幸彦は塩盈珠を使った。
潮が満ち、海幸彦は溺れた。
「ごぼぼぼ! 助けて! もう降参する! 一生あなたに仕えます!」
山幸彦は塩乾珠で潮を引かせた。
こうして海幸彦は弟に永遠に仕えることになった。
釣り針一本から始まった兄弟喧嘩が、完全な上下関係で決着。
なお、海幸彦の子孫が隼人族で、山幸彦の子孫が天皇家、という設定。
つまり「天皇家に仕える一族」の起源を「弟に溺れさせられた兄が降参した」で説明している。
古事記、容赦がない。
第五章 ~ 出産と約束 ~ だから見るなって言っただろ案件Part2 ~
トヨタマヒメが出産のために地上にやってきた。
「産屋を覗かないでください」
このセリフ、上巻で聞いた。
イザナギのときと同じフラグである。この一族は学習しない。
山幸彦は覗いた。
産屋の中で、巨大なサメ(和邇)がのたうち回っていた。
トヨタマヒメの正体。海の神の娘なので、出産時は本来の姿――巨大なサメに戻っていたのだ。
「見たああああああ!!」
トヨタマヒメは恥じて、生まれたばかりの子を置いて海に帰ってしまった。
結論:この一族の男は「見るな」を守れない。
遺伝である。もう確定である。
残された子は鵜葺草葺不合命。名前が長い。
この子が育ち、トヨタマヒメの妹・玉依毘売と結婚し(叔母と甥の結婚だが神話なので深く考えてはいけない)、四人の息子が生まれた。
その末っ子こそが――
神倭伊波礼毘古命。
後の神武天皇である。




